火遊び

 ---ずいぶん…とおくまできたな…


 …あれ?まちのひとのはなしてることばがちがう…いったいなんていってるんだろう…


 ……わたしがひとにいわれたことばって「しね」「くず」「やくたたず」のみっつしかなかったから、わたしがわからないだけでおなじことばなのかな?…でも、もといたところのこえのかんじとぜんぜんちがう…こっちはもっと…あたたかい……


 あぁ……わからないってやっぱりたのしい!!………


 …あれ?……でも、それのなにが………わからないことのなにが……たのしいんだろう………?---




 「…やれやれ、あたいらは時間稼ぎか。」急に真白りょくが呟く。「ん、時間稼ぎ?」「あぁ、こっちの話さ、気にしないでおくれ…もっともそんなこと、これから気にしてられなくなるよ…どういう訳か、あんたくろみたいな強い子ちゃんには、窒素あたいって曲者くせものは相性が悪いみたいだからねぇ…」その言葉に少しだけ眉をひそめる光……果たしてそれは図星だったからだ。


 氷の膜で覆われた空間、その内部では氷面による光の乱反射で、光の操作性がいちじるしく阻害されてしまう…その証拠に、さっきまでは息をするように行なっていた光子操作による熱浮遊や光剣生成も、今では非常に繊細かつ注意を要する作業になってしまった。それでも氷膜が発動した瞬間に逃げる素振りすら見せなかったのは、エモートゥスの長としての、彼女なりの矜持故か。


 「氷棘ひょうきょく。」四方八方の氷膜が隆起りゅうきし、それらから氷の棘が射出される。「光状網!!」光は両手を広げて全方位に格子状の光網を展開するが、以前よりも歪でぐにゃぐにゃしたものが現れるに過ぎない…だが、それでも威力は落ちておらず、光目掛けて飛んできた氷棘がジュウと音を立てて溶けてゆく。


 (一旦下に降りるか…)力の節約を考えた光は、浮遊をやめて地上戦を試みる。「そっちは陸地、ならこっちは天空からあんたを追い詰めようか。」真白みどりは再び氷棘を放ち、光はそれらを避けては防御する。そんな攻防がしばらく続いた後、光が急に立ち止まった。


 「おや、もう終わりかい?」静止している彼女に照準を定め、真白りょくは大量の氷棘を一斉射撃した。氷の猛威が光に迫るかとおもわれたが…次の瞬間、激しい火柱が立ち昇った。


 「うわっ!」爆炎の熱波に真白りょくは吹き飛ばされ、氷のドームが一瞬にして砕け散った。「なんだい今のは…あの子、光の具情者じゃなかったのか!?」体勢を整えて着地した真白りょくは、大きな火炎に目を見張る。


 「ふふ、驚いた? 僕ってこんなことも出来るんだよ…なんせエモートゥスのリーダーだからね!」豪々と音を立てる火柱の根本ねもとから闊歩かっぽして向かってくる光…その目はなんと…だった。


 「目が赤に…「怒り」の情力…」真白りょくが思わず呟く、しかし…「…でもなんか少し色が違わないか?明確な赤じゃないというか…」いぶかしむ彼女の心の内から、赤が声を掛ける。(おい緑、おれと代われ!相手が火を使うならおれの出番だし、てめぇが言ったについてもおれなら分かる!)「!」その言葉に従い、緑は赤と交代した。


 氷膜で気付かなかったが、二人はいつの間にか橋から大きく離れ、その後ろにそびえ立つ山のふもとにいた。「よぉ火炎使い、なにが「光を操るよ」だ、調子のいいことばっかり言いやがって…!」怒りのにじんだ赤い目をぎらつかせる真白あか…だがそれと比較しても、やはり光の目は純粋な赤色とは少し違う。「…さっきの火炎も光の一部でしょ?燃焼ってのは「発熱」と「発光」なんだから…」片方の口角を少しあげてそう言い放つ光。


 「ちっ、屁理屈の上手ぇやろうだ。そのおかげでさっきはまんまと騙されちまったが…生憎あいにくだったな!おれは水の具情者、てめぇの小火ぼやなんざすぐに消火してやるよ!!」言うや否や、真白あかは武器をウォーターチェーンソーに切り替え、それを大きく振るった。「渦潮うずしお!!」大量の水が竜巻のようにとぐろを巻き、光に向かってすごい速さで向かってゆく。


 「こっちにも似た技あるよ…「火炎車」!!」今度は炎の剣を生成する光、その剣をぶんと振るうと、激しく燃え上がる火の竜巻が瞬時に生成された。二つの渦はまるで生き物のようにのたうちまわり、そして激突した。火、水、風、土…四大元素が縦横無尽に大気を暴れ回る…

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