刹那の決着

 月明かりが照らす荒れ果てた色橋市を、血染は悠然と歩いていた。ふと前に感じる「楽しみ」の情念…


 「…あんたがあたしのお相手かい?」そう声を掛けられた相手が応じる。「えぇ…こんばんわ、血を操る具情者さん。」


 「そういうあんたは…金属を操作する具情者ってことで間違いなかったかい?」「合ってるわよ。私の名前は裏葉うらは金子きんし、情力名は不壊ふえ金剛こんごう…さて、と…自己紹介はこのくらいにして…点鉄てんてつ成金せいきん!!」いきなり情力を発現させた金子は、金属の塊を複数形成、浮上させ、血染に向けて飛ばしてきた。


 「情力発現、鉄血。」血染は血液を操作し、その奇襲を難なく防ぐ。「私は生き様で人の価値を決める…例えば身のこなし、技の練度、研ぎ澄まされた感覚だったり……さぁ、あなたは一体、私にどんな生き様を見せてくれるのかしら?」金子は緑色の目を見開いて血染を挑発する。


 「…またこんなのか……はぁ〜…」血染にしては珍しく、心底しんそこだるそうな顔で溜息をつく。「……悪いけど、あんたの期待には応えられないかもしれないよ。」


 「皆そう言うわ。まぁそんな風に謙遜せずに、早く本気を見せて頂戴な!」余裕の笑みを浮かべながら催促する金子だったが…


 「いや、そういう意味じゃないよ…ま、実際に見せた方が早いか…残念だけど、今回ばっかりはあたしも急いでるんでねぇ…」血染は周囲に浮いている自分の血を刀の形に押し固め、そしてそっとその刃を首筋に当てた。


 「特別に見せたげるよ…血眼ちまなこかっ開いてよーく焼き付けときな……」そう言って血染は、なんとその赤い刀で自らの頸動脈を切り裂いてしまった。




 「感情昇華「快楽」…「碧血へきけつ丹心たんしん」。」




 その行動に思わずギョッとする金子…鮮血が血染の白い首元から噴き出し…だがその血液は地に落ちることなく、やがて霧となって血染の近くを漂い始めた。


 「…見事だわ、あなた激情態になれるだなんて…さぁ、存分にあなたの力を…!?」突然金子は身体に衝撃が走るのを感じ、痺れて動けなくなった。倒れ込む彼女を見て、身体中に激情紋様を浮かび上がらせている血染はニヤリと笑い、やがて説明し始める。


 「情力名「迅雷」らいって子の力だよ。」金子のところまで歩いてゆき、そして彼女を上から覗き込む血染。「大丈夫かい?」


 (…どういう…こと…?……他人の情力を…使った!?)事情が全く飲み込めずに混乱した様子を見せる金子。痺れで上手く呂律ろれつを回せず、ただただ沈黙する彼女を面白そうに見下ろしながら、血染は話を続ける。


 「あたしの激情「碧血丹心」、その力は…「血を摂取した相手の情力を使用することが出来る」だよ。」


 (相手の…情力を…!)辛うじて目を見開く金子をよそに、血染は明後日あさっての方向へと歩き始める。


 「そうだ…あんたの力、悪いけど少しだけもらってくよ…」血染はいつの間にか金子から奪っていた血を宙に浮かし、そして飲み込んだ。「ご馳走様。じゃあね、もう少ししたら動けるようになるから…でもそれまでに車が来たりでもしたら大変だね、少し動かしとこうか…試運転も兼ねて、っと…情力発現「合成樹脂」。」


 昨日戦った樹脂の力を早くも用いて、周囲のプラスチックを支配下に置いてゆく血染…液体となった樹脂の波に乗せられ、金子は車道から歩道の隅へと運ばれた。


 「これでよし、と!…そんならまた、機会があったら戦っておくれよ、具情者のお嬢さん?」血染は背中越しに手をひらひらと振り、金子の羞恥に歪む視線を背に受けながらすたすたと歩き去っていった。

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