いつもわたしの側に

 立案会議が始まる少し前、真白はホテルの一室に一人でいた。しかし意識は心の内にあり、自分の分情達と言葉を交わしてる最中だ。


 「……」目を覚ました黒だったが、ひどくやつれた顔で黙りこくっていた。


 「……奴だけは…奴だけは必ず、おれ達の手で始末しなきゃならねぇ。」赤が重い沈黙を破り、怒りに燃え上がる赤い目でそう言い放つ。


 「当然っす。この手で両親のかたきを討てるんだ、こんなに嬉しいことはない!」口元を歪ませる黄。


 「そうだね…復讐云々はさておき、このままだとこの愉快な世界が壊されちまう…そんなの詰まらないからねぇ。」そう言ってにやけ笑いを浮かべる緑。


 「……両親は…」青が突然言葉を発する。「……両親は……わたくし達にどうしてほしいのでしょうか……」


 「青…まさか君、あいつに復讐しないつもりかい?」黒がキッと青を睨む。「有り得ないよそんな選択肢!たとえ父さんと母さんがそれを望まなくたって、ぼくはあいつを許さない、いや許せない!地の果てまででも追いかけて、やつをこの手で抹殺してやる!塵一つ残してなるものか!!」黒の情念が一層強まり、水面すいめんが波紋を立てて揺れ動く。


 「…それでいいのかもしれません。」


 「「!!」」黄と赤が驚いた。何故ならそう言ったのは…人を殺める行為を許容するような言動をとったのは、「慈しみ」を司る真白だったからだ。


 「誤解しないでください、これは彼女の力量を踏まえての、あくまで気構えです…決して奪命行為を推奨している訳ではありません…」驚く皆を前に、真白は淡々と続ける。「こちらは分情の中で最も戦闘能力が高い黒さんで…それも激情態の黒さんで挑んだ…でも彼女は、激情態どころか本気すら出していなかった。」


 「ぼくが…あいつより弱いって言いたいのか…?」目を細めて真白をめ付ける黒、しかし真白は正面からその視線を受け止め、「残念ながら…その答えを最も理解しているのはあなたかと。」臆せずにそう返答する。


 「ぐっ…」あまりに堂々とした物言いに何も言い返せなくなる黒、彼女は荒々しく顔を背ける。


 「少なくとも、こんな風に乱れた感情、まとまらないチームワークのままでは、彼女に触れることさえ叶わないでしょう。」真白はそんな黒を見つつ、分情全員に語り掛ける。「わたし達は団結して彼女に挑まなければならない…わたし達自身の為に。」黄、赤、青、緑、そして黒は、白髪の少女の儚くとも力強い姿をじっと見つめている。


 「わたしは「慈しみ」の分情、だから彼女に対する「怒り」や「哀しみ」、そして「憎しみ」を、真の意味で理解することは出来ない…そしてそんなわたしに、あなた達の気持ちを否定する資格もなければ、止めるすべも有しません…皆さんの総意が復讐であるのならば、わたしはそれに従います……でも、約束してください…その先には必ず、わたし達の守りたいものを守り抜き、そしてわたし達を思ってくれる人達の為に、わたし達が生き残るという強い意志のあることを…わたしが死に絶え、ドッペルゲンガーの方々がつらくなるような結末…そんな未来だけは、わたしは断じて容認出来ません!!」


 分情達は…黒ですら、今まで見たことがない真白の凛々しい表情を見て呆気に取られていた。少しの沈黙があった後…


 「…分かったよ…君が言いたいのはつまり…「何があっても絶対に死ぬな」ってことだろ?」黒の問い掛けに、真白はこくりと頷く。


 「そういえば、真白さんって意外と頑固でしたもんねー…」黄は自身を本体に還そうとした時の真白を思い出して苦笑いを浮かべる。赤も隣で同意を示すかの様に、少し笑みを浮かべて頷いた。


 「でも…真白さんが真白さんだったからこそ、わたくし達の本体からだには彼女が残ったのだと、今改めて思いました…きっと貴方こそが、なのでしょう。」青はくすっと真白に笑い掛ける。「わたくし達こそ真白さん……あなたの意思を尊重します!」




 真白は自分の感情を見回す。


 「黄さん、赤さん、青さん、緑さん、黒さん…わたしは…わたしはいつでもあなた達の味方です…だから…もうわたしから離れないでください……独りぼっちはもうたくさん……だから、わたしが独りにならないように…あの子達が傍にいてくれるように……わたしの守りたいものを守るために、力を貸してください……この先ずっと……ずっと永遠に……」




 「…わたしの味方でいてください…!」

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