苦い余韻

 「目的…だって?」糸は警戒を解かず詰問きつもんする。「気になること言ってくれるじゃないか…そんなら悪いけど、あんた達の計画…洗いざらい吐いてもらうよ!」彼女の情力が発現し、彼女の羽織が繊維に成ってゆくが…そんな彼女に一瞥いちべつをくれ、水面が口を開く。


 「…話すも何も、流した動画の通りだよ…私達エモートゥスは、人類を理性から解放する…その目的の為に、そこにいる裏切り者達には目眩めくらましになってもらった、それだけのことだ。」「目眩し…一体何から?」糸が尋ねる。「残念だが話せるのはここまでだ…でなければ、そいつらにおとりになってもらった意味がなくなるからな…光!」呼ばれた光が手を上にかざす。すると一瞬、強い光が瞬き、糸達の視界が封じられた。


 「お前達がどう足掻あがいたところで、もうこの計画は止まらない…そう、まるで人の感情のようにな…」その隙を突き、情力で水を動く足場のように噴射させ、一気に空高く上がった水面が面白くもなさそうな表情で吐き捨てる。


 そのまま逃げられてしまう…糸が危惧し冷や汗を流した、その時だった。何かが水面の仮面に当たって取れ、彼女の素顔が明らかになる。


 「情力発現、青瞳せいどう過視かし!!」仮面を弾き飛ばしたのは瞳の投げた苦無くないだ…殺傷力を無くす為、先端がゴムで固められている。だが仮面を外させるには十分、不意を突かれた水面の目を、瞳の青い目は逃さずに捉えた。


 「!…お前は…しまった、過去を!」「えぇ、ばっちり視ましたよ…貴女達のこれまでと…そしてこれから何を成そうとしているか…その真意をね!」ビルから跳躍して空中で苦無を投擲した瞳、彼女は見惚れてしまうような身のこなしで地上に着地し、糸達と合流した。



 「…いいだろう、最早計画を変更する余裕も猶予もあるまい…計画の邪魔をしに来るであろうお前達を完膚なきまでに叩き潰し、新しい世界のいしずえにしてやる…!」肩まで切り揃えられた無造作な黒髪、そして端正な顔立ちに燃える怒りの赤い目を爛々と輝かせながら、水面、そして光は、明るくなり始めている空の彼方かなたへと消えていった。




 「瞳ちゃん、あいつらの計画って…?」元の口調に戻った糸が瞳に尋ねる。「大丈夫、まだ時間はあります…それより今は暴情の脅威を取り除くことが優先、また街中で暴れ出されては…」「その心配はいりませんよ。」「!真白さん!!」真白がゆっくりと立ち上がりながら瞳にそう告げる。光による傷は真白の「慈しみ」の情力「半死はんし半生はんしょう」により、ほとんど治癒していた。


 「心の中の青さんから連絡がありました。花さんの調合した一時的な特効薬、それを高い所から風に乗せ、色橋市全体に散布したとのことです。各地にいるがそれを確認しています。」弱々しくそう言った真白、その顔はひどく青ざめていた。「但しその薬には、副作用として誘眠効果がある…」


 「え…でもそれじゃあ、今街で戦ってるみんなも、その副作用の巻き添えに…」真白は少し笑いながら答える。「ある動作でその副作用が効かなくなるんです…皆さん、右手の親指と人差し指の付け根辺り、そこを左手の親指で少し強めに押してください。」その場にいた者達は皆、真白に言われた通りの行動をとった。


 「すごいね、花ちゃんって子…でも…」糸は周りを見渡し溜息をつく。「…大変なことになっちゃったわね…」皆の表情が暗く沈み、八重達は罪悪感からか目を伏せる。


 「…一旦例のホテルに戻りましょう、まだ終わった訳ではない、むしろこれからです…私が読み取った彼女達の計画、その情報を共有し、それを阻止すべく私達は行動しなければならない……でもその前に…」瞳は戸惑いの視線を八重達に向ける。「彼女達をどうしましょうか……?」


 先程の水面の言動、そして垣間見た彼女の記憶から、八重達がエモートゥスのいいように使われていたことは容易に想像出来た。それに彼女達が根っからの悪人ではないことも、瞳はで確認済みだ…しかし敵側の一員であることに間違いはなく、また甚大な被害を出していることも事実、彼女はその処遇をどうすべきか決めあぐねていた。

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