夢幻泡影

 東京都内、とある喫茶店にて…


 「ごめんね遠路えんろ遥遥はるばる、無茶なお願いを聞いてもらって!対価はちゃんと払うわ!」白い長髪を後ろで束ねた北欧系の顔立ちの美人、かがみ黒曜こくようは、目の前に居る緑色の髪をした少女に礼を言っていた。


 「対価はいいよ、あんたにはうちの本体殿が随分と世話になってるからね…ま、借りを返してもらったとでも思っといてくれ。」真白の分情、そしてグリーン・バルのリーダー、りょくは手をひらひらと振る。


 「はいよ、これがご注文の機密文書…当然内容は見てないよ、依頼人のプライベートは守る主義なんでね。」緑は十枚程度の紙束を黒曜に渡した、そして受け取った彼女はそれを読み…


 「……黒奈くろなはくくんをやったのは…やっぱりエモートゥスの連中だったか……!これは……!?」声を震わせる黒曜。「そんな……補色ほじきひかり…彼女は……!?」


 「…エモートゥスだって…?今本体殿の前に現れたやつもそう名乗っているけど、偶然じゃないよね?」その時緑が声を上げる、彼女は真白の視界を通じ、色橋の状況をリアルタイムで認識しているのだ。


 「!相手は誰!?」非常に慌てた様子で黒曜が問う。


 「今黒曜さんが言ったやつだよ…捕色光。」そう言った緑の姿が一瞬ブレる。


 「!?どうしたの緑ちゃん?」心配する黒曜に緑は、彼女にしては珍しくかなり緊迫した様子で答えた。「ちょっと待ちなよ、なんてこったい……黒が……激情態になっちまった!!」




 光は黒の凄まじい暴撃を、赤子の手をひねるように容易く退けていた。


 「ほらほら〜もっと頑張りなよ~!僕はまだ、かすり傷一つ負っちゃあいないよ!」情力によって光をコントロールし、黒の陰が彼女の身体に触れる前に、その影を光でかき消している。


 突如、黒の姿が光の視界から消えた…否、完全に消えてしまった。


 「え…あれぇ!?おーい、黒髪の子ー、どこに行っちゃったんだぁ〜?」周りを見渡す光、しかしどこにも黒の姿はない…すると…光の足元から突然、黒い陰がマグマの様に噴き出した。


 「!?」不意を突かれて流石に動転したのか、光から余裕の表情がなくなり、後ろに跳びながら前に光の壁を創り出して防御した。


 「すごいね君…に潜れたんだ…!」彼女の言う通り、黒は陰の中に身を潜め、そして光の足元、その陰から攻撃を繰り出したのだ。


 「……」黒は一言も発することなく、ただその黒い目に憎悪を燃えたぎらせ、陰をくゆらせている。


 「…いいよ、ますます面白くなってきた…そんじゃあ僕、ちょっと本気出しちゃおっかなぁ~!」そう言った光…不意に彼女の右手から、一筋の光が延びる。


 「へへーん、カッコいいでしょ~光の剣だよ!…w」その場を支配する、海底のように重苦しい空気…どうやら光の辞書に「感受性」という言葉はないらしい。


 情念の圧がより重くなり、その白い剣に触れている大気がどんどんと温度を上げてゆく。


 対峙する黒、その身体に周囲の陰が集まり始め、黒い外套を纏ったような姿になる…彼女の技「形影けいえい相同そうどう」だ、そして左手には漆黒の刀。


 二人の間に一瞬の沈黙が生まれ、そして……爆音が炸裂した。

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