第四章:鉄塔浮上編

漆黒の浮上

 「そんな…私の力が全く通用しないなんて…!?」


 血染と樹脂は電波塔の建物内、少し広めの場所で相対していた。しかしその様相は対照的で、片や息一つ乱れていない血染に対し、樹脂は身体のあちこちに傷を負っており、そこから血が流れている。加えて消耗も激しいようで、荒い呼吸で肩を上下させていた。


 「まあまあ、そんな顔をする必要はないさね…あんたは決して弱くない…ただあたしと似た様な攻撃の仕方だからね、筋が読めちまうんだ…だからこんな風に、簡単に対処出来ちまうって訳さ…ふふ、昔同じようなことを、に言った気がするねぇ…」血染は桃色の髪をもつ少女を思い出して微笑を浮かべ、そしてその手に付着した血をペロリと舐めた。


 「…さてと、し…頃合いか。」「?…今何かおっしゃいましたか?」樹脂に聞き取れないくらいの声で呟いた血染、しかし彼女はその問い掛けを無視し、逆に樹脂に提案を持ち掛ける。


 「樹脂ちゃん…だっけ?ここは一つ取引をしないかい?」「え…取引…?」


 「そう。残念だけど、このまま戦い続けてもあんたがあたしに勝つ可能性はそれほど高くない…そこで一つの解決策。あんた、あたしらのがわにつく気はないかい?」


 「!?」


 目を見開く樹脂を尻目に、血染は話を続ける。


 「さっき話してたけど、あんたにとっての最優先事項は環境保護だろ?あたしの知り合いに植物の成長を操れる具情者がいてね…もしあんたが仲間になってくれるのなら、その子に口利きして、これから定期的に植物をこの地球に増やしていく契約をしてあげるよ。」


 樹脂は呆気に取られていた。「な…そんな素晴らしい情力をもつ者が……なんと…!」どうやら彼女はその話に大いに興味をもったようだ。その様子を見てとった血染は、手にしていた血の大鎌をただの血液に戻し、腕の傷から吸収した。


 「さあ、返事を聞かせておくれ。」血染は樹脂の回答をうながす……樹脂の目から緑色の光が消えた、交渉成立のようだ。


 「結構!それじゃあ……おや、なんだいこの揺れは?」突然、電波塔が大きな音を立てて振動する。


 「これは…!?」何かを知っているらしい樹脂の顔がみるみる内に青ざめてゆく。「そんな…まだにはなっていないのに…!?」そんな彼女を見て、血染は頭の中で考えを巡らせる。


 (樹脂が言ってた「恐ろしい具情者」とやらが何かしたのか?……なんだい、随分と騒がしくなってきたじゃないか…!)


 地響きが続く中、血染は騒乱の予感に一人ほくそ笑んでいた……




 時は少しだけさかのぼり…


 「……」八重は突然重力操作を止める。


 「…?」真白くろは疑問に思い、いったん真白くろから真白ましろへと体の支配権を戻す。


 「…あなた…大切な人がもう会えないほど遠くへと行ってしまった経験…ある…?」突如発せられた八重の問い掛け…真白は何も言わなかった…いや…その経験は、到底言葉で表現出来るものではなかったからだ。


 「私にはね…私なんかよりもずっと立派な妹がいたの…勉強も出来て、運動も出来て、それに性格も良くて…そんな、嘘みたいに完璧な妹がね…」八重は目を伏せる。


 「でも…そんな妹を、周りの人間は拒絶した。」真白はじっと彼女の話に耳を傾けている。


「あの子が陰でどれほど努力していたかなんてちっとも考えずに…あの子が人並み以上に繊細で傷つきやすいことなんてまったく無視して…周りの奴らは妹をねたみ、そねみ、そして追い込んだ…」


 黒い情念…負の感情がその場に渦巻いてゆく…


 「この世界に絶望した妹は……ビルの屋上から……」その先は突風の轟音によってかき消されたが、八重の表情を見た真白には聞く必要がなかった。


「…思い知らせてやるのよ…人間が……如何いかに身勝手で愚かな存在かをね!!!」


 揺れが激しくなる。「あれは…!?」八重の体に黒い紋様が刻まれてゆく、そして顔には、まるで「憎」という字のような黒い模様………




 「…感情昇華「憎悪ぞうお」……




 「悪引あくいん圧禍あっか。」

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