格闘

 時を同じくして。


 韋駄天と心は電波塔の近くの立体駐車場、その屋上にいた。


 「さて、やろうか!えぇと…」「韋駄天って呼んでくれたらいいよ!たしかこころちゃん…だっけ?一応よろしく。」そう言って韋駄天は指パッチンを鳴らす、すると韋駄天の服の袖から銀色の液体が流れ出し、彼女の脚へと纏わり付いた…液体金属を装甲にしたのだ。


 「うわキモ!何それ!?」顔をしかめた心が声を上げる。


 「「アイルビーバック」でお馴染みのSF映画、その中に出てくる敵役から着想を得たんだよ!時間があったら観てみな、ありゃ名作だから。」韋駄天は少しドヤ顔で答える。


 「映画は…あんまり観ないわね、体動かす方が好きだし…あ、でも格闘技が出てくるものは観るかな!だって…」


 突如心が韋駄天の視界から消えた…かと思えば、彼女は韋駄天のすぐ目の前まで移動している。


 「それを真似て、体得しなきゃいけないからさ!」驚く韋駄天に、心はニヤリと笑みを浮かべた。


 韋駄天は後ろへ大きく飛び、心から繰り出された正拳突きを回避した。「今の確か…縮地法しゅくちほうだっけか?アニメでよく出てくるやつじゃん!」着地した韋駄天は情力によって強化された脚力を用いて、速すぎる蹴りによる真空の刃「鎌鼬かまいたち」を繰り出す。


 「へぇ!いい蹴りじゃんか!」そう言いながらも余裕でその風刃を避ける心、しかし避けた先には韋駄天が…


 「そりゃあ!」地面に手をつき、遠心力を利用した強力な蹴りを一発喰らわす韋駄天、しかしぎりぎりのところで心は防御に間に合っており、今度は彼女が後ろに大きく跳び、その勢いを受け流す。


 「成程…そのスタイル、カポエイラがベースだな?」黄色の目をキラキラさせながら心が問う。


 「…キミってひょっとして…格闘技マニア?」韋駄天の質問返しに、心は胸を張って言った。「如何いかにも!現在数十種の格闘技を会得中よ!勿論カポエイラもマスターしてるわ!」


 爽やかな笑顔を浮かべる心、対して韋駄天は何か腑に落ちない様子だ。


 (何だ、この違和感…嘘をついているようには見えないし…とすると…まだ何か隠してるな?…)


 韋駄天は爪先をでトントン、っと二回地面を叩き、そして消える。


 「!?」心は流石に面食らう、それもそのはず、


 「どう?ビックリしたでしょ?」心の前にいたかと思えばその横、そしてその後ろにも現れては消える韋駄天。


 「…ホントやるじゃんあなた、その脚力を応用して残像の分身を生み出すなんてさ!!」心は頬を紅潮させ、にわかはしゃぎ出す。「分身使うやつと戦うのは初めてだわ!いいわ、凄くいいわよあなた!戦闘相手に選んだのは正解だった!私の勘って当たんのよね~!!」


 (う〜ん、この子ひょっとして…そうちゃんと同じ部類の戦闘狂バーサーカーかな?)爪とは真白の「楽しみ」の分情である緑率いる窃盗団「グリーン・バール」の一員で、戦いに喜びを感じるアブない具情者だ。ちなみに韋駄天は彼女との戦いで、激情態の存在を知った。


 (…いずれにせよ、あまり長引かせる訳にはいかないな…長期戦は不利だ、この分身ですぐにかたを付けよう!)韋駄天は心に向かって突進する。心の視点では一斉に四方から韋駄天、そして彼女の分身が迫ってくるように見えていた。


 「そらきた!」心はさっき韋駄天がやったように手を地面につけ、脚を360度回転させて振り回し、彼女を攻撃する…しかし全ての攻撃は空を切った。


 「残念、上でした!」心が見上げると、宙に跳んでいた韋駄天が降りてきて、そのまま回転蹴りをお見舞いした。


 今度はまともにその蹴りを受けてしまった心、大きく後ろに吹っ飛び、駐車場のフェンスに当たってようやく勢いが止まった。


 「やばっ、やり過ぎた!!ねえ、だいじょう…うわっ!」韋駄天は、心の方から何かが飛んできたのを間一髪で避けた…が腕に少しかすり、そこから鮮血が噴き出す。


 「な…なんだぁ!?」目を丸くする彼女、すると前方から、


 「そういえば私の情力、まだ教えてなかったわね!」既に立ち上がっている心が声を上げる。


 「私の情力名は「五臓六腑」内臓機能を飛躍的に高める「喜び」の情力よ!」黄色の目をぎらつかせながら、彼女はそう言い放つのだった。

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