感情の赴くままに

 「じゃあ、こいつらが今回の一連の黒幕だってこと?」風音に聞かれた韋駄天は首を横に振る。


 「ううん、まだ断定は出来ないかな……いや、やっぱ断定していいかも、どう考えても怪しいもんコイツら。」韋駄天が肩をすくめる。




 「……なんだ…これ…!?」突如、韋駄天が声を上げる。


 「どうしたんですか、韋駄天さ…」不審がる真白を手で制止し、韋駄天は再びデバイスを操作してホログラム映像を切り替える。新たに映し出されたのはとある動画サイトの映像だった、現在ライブ配信が行われているようだ……


 「色橋市の皆さん、こんばんは。僕は…そうだね、今の世の中を憂う者、とでも言っておこうかな。」


 そこに現れたのは…なんと、くだんだった。


 「今日の見せ物は気に入ってもらえたかな?みんなすごく元気で、見ていてとても愉快だったよね!」腕を動かしながら話すその人物…声は変えられておらず、その高さから少年、或いは女性と思われる。


 「さて、僕達は今とある電波塔をジャックし、テレビやスマホ、パソコンを見ている人達には全員、こうしてこの動画を見てもらっている。もし周りで見てない人がいたなら、見ているみんながその人達に、今から僕が言うことを伝えてあげてね!」内容には似つかわしくない明るい調子で話す仮面の人物、そして…




 「僕は人間を理性から解放する。」静かに、だが力強く宣言した。




 「理性から…解放やと…!?」焔が怪訝けげんそうな顔をする。


 「今日を生きている人々は自分の本当の気持ちを不当に抑圧している。でもそれは僕達人間の本当の姿じゃない。僕達はもっと感情豊かであるべきなんだ…文学も、音楽も、美術も!…僕達の生活にいろどりを与えてくれるものは全て、理性ではなく感情から生まれているんだ!僕達は理性を得てしまったが為に嘘をき、他者をあざむき、そして世を残酷な姿へと変えてゆく…本来あるべき姿からどんどん離れていってるんだ…」大ぶりな所作を交えながら演説を行う仮面の人物…


 「こいつ…何言ってんの?」珍しく、雷が苛立たしげな声を上げる。


 仮面の人物のご高説は続く。「先刻さっきこの街、色橋市でさ…感情に身をゆだねて活動してた人達、みんなすごく楽しそうだったでしょ?あれこそが人間の行き着く先だ、夢だ、理想なんだよ!!」半ば狂ったように動き回る仮面の容疑者。


 「正気じゃない…!真白さん、この配信止めないとまずいことになります!韋駄天さん!!」焦った様子で、瞳が韋駄天に指示を出そうとする。


 「分かってる、逆探知でしょ!」その韋駄天は既に意図を汲み取り、別の端末を操作していた。「電波塔をジャックできる場所、つまり電波塔の近くだ……まずいぞ、近くには商業施設や色橋駅がある…もしそこでまた昼間みたいなことが起こりでもしたら、脱出経路が断たれてしまう……な!?」突如彼女が声を上げた。


 「……こいつら…今まさににいる!!」




 「さあ、楽しい見せ物の再開だ!演目は『民衆の革命』舞台はこの色橋市、役者は勿論、画面の前のあなた達!さぁて、感情のままに人生を謳歌しようじゃないか!……」画面が暗転し、配信はそこで終了した。


 「電波塔の中ですね!では青さんを含むブラウエ・トロメルの皆さんは引き続き、ホテルの警護をお願いします、ここを私達の拠点としましょう!そしてプアール・ア・フリールの皆さんはここから東側、黄さん達は西側の保護にあたってください、お願いします!!」次々に指示を出す瞳だったが、その判断の早さと的確な裁量を見て、自然と皆彼女の指示に従った。


 「私達ドッペルゲンガーは…速やかにこの者達の制圧に向かいます!!」




 「…随分と楽しげだったな…」配信を終えた仮面の者達…撮影に回っていた長身の人物は、つまらなさそうな調子の声で相方に声を投げ掛ける。「楽しいよ〜こういうイベントは!」背伸びをしながら、つい先程まで演説していたもう一方の人物がカメラ前を離れ歩いて来る。「…まぁいいさ。それよりも、準備は整っているな?」そう聞かれた小柄な演説者は軽く頷き、スマートフォンの画面を点灯させた。


 「見ててね…あなたが望んだ世界は…もうすぐそこだよ…!」

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