ホテルに到着

 空港での挨拶もそこそこに、一行はバスに乗り色橋市を目指していた。「瞳ちゃーん、プアールの連中もう色橋に着いてるみたいで、ここのホテルで待ってるってー!」糸がスマホの画面を瞳に見せる。「そうですか、では私達もそこへ向かうとしましょ…ん?ここのホテルって…あら!」瞳は驚きの声を上げる。


 「ここ、ブラウエ・トロメルがディナーショーを行うラウンジのあるホテルですよ!知っててこのホテル選んだのかしら?真白さん、そうなんですか?」彼女が真白に尋ねる。「いえ、赤さん達がこのホテルを選んだのは本当に偶然みたいです。」真白は心の中の赤と青が首を横に振るのを視てそう答えた。和気わき藹々あいあいとした空気の中、バスは目的地へとその車輪を転がせてゆく…




 この時の彼女達はまだ、これから自分達が遭遇する壮絶な運命など知るよしもなかった。




 「よう、久し振りだな。」ホテルに着いた一行がチェックインの為ロビーに入ると、近くのテーブルにプアール・ア・フリールの面々が揃っていた。


 「赤〜久し振り〜!!」糸が赤に抱きつく。「うわ!?いきなり何しやがんだてめぇ!!ちょ…離れろ、離れろってば!」細身の割には腕力の強い糸をなんとか引っ剥がすと、赤はやれやれと言わんばかりの大きな溜息ためいきをついた。


 「久しいな白髪はくはつ青目あおめ…それに小声娘も。」瞳と晶に声を掛けたのは「哀しみ」の具情者である浅葱あさぎ透那とうなだ。「お久しぶりですね透那さん、はどうですか?」「お・か・げ・さ・ま・で!すこぶる良いとも…!!」かつての対戦で脚を狙撃されている透那は、皮肉の意をたっぷり込めて瞳に言い放った。そんな彼女達に目もくれず、ショートケーキを黙々と食べている茶髪の少女…彼女の名は檸檬れもんかいな、腕力が強化される具情者だ。


 「相変わらず食い意地張っとんなぁ…」苦笑いを浮かべる焔は、何やら奇妙な行動をとる透那が目に入る。「えっとー…君、何してるん?」率直に尋ねた。すると透那は「今ちょうど午後二時をまわった、よって頬に手をこすり付けているのだ…これが此方こなたに定められたルールなのでな。」そう言ってすりすりと手を動かす彼女。


 (………あかん、めっちゃツッコミたい…こいつ変な奴すぎるやろ、二時になったらほっぺた撫でるルールって何やねん!ほんで当方て!ビジネスマンか!あんたの容姿どう見ても「ジジイの対義語イケイケJK」やろ!?もっと言葉使い崩れとけや!!)


 四次元的に失礼なことをほざき散らかしている、いやほざきふけらかしている現役JKの赤怒せきどほむら


 「?どうかしたか?」そんな彼女を透那は不思議そうに見つめる。「……イイエ、ナンデモナイデス…」片言でそう返し、口か手が出てしまわない内に透那からそそくさと離れる焔であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る