そうだ、色橋に行こう。

 スマホをタップして鏡との通話を終えた真白、そこに心の中から赤が呼び掛ける。(な、なぁ真白…ちょっといいか?)「?どうしました赤さん?」珍しく歯切れの悪い赤を不思議に思いながらもその呼び掛けに応じる真白。赤は少しバツが悪そうに話を続けた。


 (今本体…あぁいや、フランスにいるおれの本体な…それがプアール・ア・フリールのやつから頼み事をされちまってだなぁ…)「頼み事?」(あぁ…なんでも真白が日本から来たってことを知ってかいなのやつ「わたし日本行きたい、本場の寿司が久し振りに食べたい」とかほざいてやがんだよ…)億劫おっくうそうなトーンで愚痴垂れる彼女。


 (…それでなんだが、お前日本の美味い寿司屋どっか知らねぇか?知ってるんなら教えてほしいんだ。)恥ずかしさからか心の中の赤は、その名の通り顔を赤くしていた。


 (あら、日本ですか?わたくし達ブラウエ・トロメルも次日本でコンサートを行う予定なんですよ…どうやらわたくし達のライブ動画を日本のとあるイベント会社の方が見てくださったようでしてね、是非日本で演奏をしてほしい、と。)


 (おや日本か、いいね!丁度気になっていた美術品があるんだよ、日本の芸術は世界でもかなり人気だからねぇ。)


 青と緑が次々に口を挟む。


 (青さん、ちなみに日本のどこでコンサートするんすか?)(色橋いろはし、という都市です…正直この場所、あまり気は進みませんが…まぁわたくし一人の我儘わがままで、バンドの可能性を潰すわけにもいきませんからね…)青は黄に開催場所を教える。


 (色橋市か!いいじゃないすか~!…ま、確かにあそこはわたしらにとっちゃいわく付きの場所っすけど、歴史ある都市だからお寺とかも多いし、美味しい料理屋さんもきっと沢山ありますよ!っつー訳で、あたしらも是非行きたいな〜!ちょうどいつメンで行く旅行先、探してたとこなんすよ〜!)


 真白が目を白黒させているうちにいつの間にか黄、赤、青、緑、そして彼女らの仲間達全員が色橋を訪れることになっていて、流石に真白は慌てた。


 「ちょ、ちょっと待ってください皆さん!鏡さんのところに戻って両親の話を聞かないと!…それに皆さんの言う通り、その場所は…」(まぁ待ちなよ真白。)そんな彼女に声を掛けたのは、真白の「憎しみ」の分情、くろだ。


 (今きみが言おうとした通り、色橋はぼく達にとって特別な場所だ…なんせ、ぼく達はんだからね…つまり…)黒は空と海が広がる心象世界の中、分情である一同を見回したあとに再び口を開く。


 (…あの場所には多くの因果が残っているんだ…自己追憶にこれ程うってつけの場所はないと思うけど?それに黒曜さんも言ってたじゃないか、「こっちももう少し情報を集めたい」って。それならぼく達も情報収集に努めよう。感情が全て揃った今なら…もしかするとあの場所に行くことで、自分の…父さんや母さんに関することをはっきりと思い出せるかもしれない…」神妙な面持ちの黒。


 「何故ぼく達はあの日襲撃に遭ったのか…その首謀者は誰で、何の目的があったのか…もやのかかった記憶の残響に、ぼく達は耳を傾ける必要が……え…あ、ごめん、そんな深刻な顔させるつもりはなかったんだけど…)その場の雰囲気が一気に重くなったのを感じて、黒は珍しくも少しあたふたする。


 真白は今の黒の話を頭の中で反芻はんすうさせていた。遠い記憶の中、歪みはすれど消えることなく存在していた「色橋」という街…顎に手を当て、少し考え込む素振りを見せる真白…感情達が見守る中、やがて彼女は結論を出す。


 「矢張やはり……行ってみましょうか…色橋に!」




 「真白ー朝やでー…っと、もう起きとったか。あ、それよりな!今風音からSMSが届いたんやけどさー、なんか…」「色橋に行く、ですか?」少し悪戯っぽい笑みを浮かべ、二の句を継ぐ真白。「うぉ、何で知っとるんや!?…あぁ、あんたの中の黄から聞いたんやな?」そう言われた真白は立ち上がり、そして焔に言った。「詳しいことは朝食を食べながら。さぁ、食堂に行きましょう!」

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