友達以上

 「真白さん、私の目を見て。」今、真白は自分の中にいる「憎しみ」の分情について探るべく、目を合わせた者の過去を視る情力「青瞳せいどう過視かし」をもつ瞳と向き合っていた。


 「以前真白さんを視た時、まだ真白さんには喜怒哀楽の感情が戻っていなかった…だから何も視えなかったのだと思っていましたが…どうやら事態はもっと複雑だったようです。そういえば、私は貴女を視たときに初めて、この「青瞳過視」は「記録」ではなく「記憶」を視ていること、そして感情と記憶は深いつながりがある、ということに気付いたんでしたっけ…」瞳は少し笑いながら続ける。


 「…あの時私に貴女の過去が視えなかったことについて、考えられる理由は三つ。一つ目は、当時貴女にはまだ「憎しみ」が戻っておらず、喜怒哀楽が戻る過程で「憎しみ」も何らかの形で同時に回帰したということ。二つ目は、既に「憎しみ」は真白さんの中にはあったけれども、他の分情とは異なる状態で存在していたということ。そして三つ目は…その分情が、私の情力が及ばない程に強大な存在だということ。」瞳は真白の目を、先の戦いで使っていない左目でしばらく覗き込むが…


 「…どうやら二つ目か三つ目の理由らしいですね、まだ何も視えません…」瞳は指で目をほぐし、そして言った。「ただ、先程の出来事で一つ判明したことがあります。」彼女は目元の指を動かし、真白の足元を指さす。「貴女の分情は…影を操る。」




 ドッペルゲンガーの一行、そして晶、糸は、韋駄天と爪が戦った、廃墟が並ぶ荒野まで来ていた。


 「ここなら情力を使っても大丈夫だね!」韋駄天が腰に手を当てながら言う。真白の「憎しみ」の分情が影を操ったこと、そして真白の身体を一時的にだが支配出来たことから彼女達は、「憎しみ」の分情は真白の近くにいると推測し、更には「真白の分情は影に潜んでいる」という仮説を導き出した。よって真白は、今からその影に働きかけようとしている。


 「……皆さんに前もって伝えておきたいことがあります。」真白の声音から並々ならぬ雰囲気を感じとった皆は、思わず表情を引き締める。


 「もし…もしわたしが「憎しみ」に囚われ暴走するようなことがあれば…その時は皆さん……わたしを……」


 「やだ!」「断る!」「嫌です!」「お断りだね!」


 ドッペルゲンガーの各々は真白がその先を言う前に拒絶の意を示し、晶と糸も少し困った表情を浮かべている。真白は少なからずショックを受けた様子だったが、そんなことを気にも留めず、彼女達は真白をたしなめる。


 「ワタシ言ったよね?真白は…ワタシの大親友だ!って…こういうときは「助けて」の一言でいいの!おバカさんなんだから!!」頬を膨らませ、真白を叱る韋駄天。


 「ほんまあほやであんたは…最後まで付き合うってドイツで言ったやろ!!あんたの癇癪かんしゃくくらい、この焔さんがどんと受け止めたらぁ!!」腰に手を当て、反対の手で真白を指差す焔。


 「貴女と私は、もう利害の一致で繋がるような仲じゃない…少なくとも私は、貴女のことをそう思ってます…!」優しげな眼差しを真白に向ける瞳。


 「悪いけど、あんたがいなくなったらまたこの世界が詰まらなくなっちまう…あたしの行動基準が「楽しさ」だってのは、あんたもよく知ってるだろう?」平時と変わらず、余裕よゆう綽綽しゃくしゃくの表情を浮かべながら真白に言葉を投げ掛ける血染。


 皆が真白を見ていた…皆が真白を案じ、力になろうとしてくれていた……

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