ドッペルゲンガー集合!

 「はぁ…はぁ……へへへ…これ、流石にヤバい状況だな…どーしよ…」


 韋駄天は廃墟の物陰に隠れ、爪の様子をうかがっていた。彼女はまるで紙を切るかの如く石で出来た建造物をその爪で裂き倒し、辺りはほとんど原型を留めていなかった。


 (身体に変な模様が浮かんでから、アイツ別人みたいに強くなった…それにどうも半分くらい意識飛んでるっぽいし…話が通じないとなると「降参でぇ〜す、てへぺろ♪」なんて言っても隙すら生まれないだろうしなぁ〜…てかそもそもワタシの情力も体力も限界だから、奇をてらった所で反撃も逃走も出来ないし…)


 韋駄天は物陰から出て爪の前に立った。(万事休すか…ゴメンみんな、ワタシここで終わりっぽい…まぁ…あの世がどんなものか知れるってのは少し楽しみかもしんないけど…)乾いた笑みを浮かべる韋駄天、それとは対照的に爪は満面の笑みを浮かべ、韋駄天に向けてその手を振り下ろした……


 「…ん?なんだこの浮遊感…全然痛くない…って焔!?」


 韋駄天は自分が抱えられ、空から地面に落ちている状況を把握した。


 「あぁ?何言ってんねんお前、助けに来たで!」焔は呆れた調子で韋駄天に声を掛けた。


 「あっつ!!え、なんでキミそんな熱いの?てかなんかゆらゆらしてるよ、陽炎?」無事着地し、自分の足で立った韋駄天は驚きの声を上げる。


 「流石、鋭いな…まぁこれについては後で説明したるわ、それより今の状況を教えて…」


 「戦いの最中、彼女は「歓喜」の激情者として目覚めてしまった。その力は新たに「楽しみ」の具情者となった韋駄天さんをもしのぐ強さで、本当に危ない所だった…みたいです…韋駄天さん、これで合ってますか?」


 道中で焔達と合流して共に来た瞳が、その情力「青瞳せいどう過視かし」を使い、韋駄天の目を通じて彼女の過去を視た…そしてその内容を皆で共有したのだ。


 「そうそう、助かったよみんな!いやぁマジ危なかった、走馬灯が有馬記念並の盛り上がりで駆け巡ったくらいだし。」よく分からない例えをする韋駄天。


 「いや何で競馬で例えんねん…っていうか「楽しみ」の具情者!?」


 「五月蝿うるさいねぇ、見れば分かるだろう状況くらい。」一緒に来た血染が半目で焔にツッコむ。


 「いや分からんわ!お前ら盗み見コンビとうちを一緒にすんな!」


 「ちょ、誰が盗み見コンビですか!別に私はそういう意識でやってる訳じゃ…」あたふたしながら容疑を否認する瞳だが、不毛な言い争いをしている暇などないと気付く。「と、とにかく今は…」


 三人は改めて爪に向き直り、「…彼女を何とかしないと…」狂気的な笑みを浮かべる爪と対峙する…彼女達は気を引き締め、武器を構え直した。




 (あれが激情態か…)瞳に遠方からの援護を頼まれた晶はまだ崩されていない廃墟の中で最も高いものの一つにひそみ、遠くから韋駄天達の様子を見ていた。情力「遠近無用」を発現している彼女にとって「距離」は意味を為さず、まるで韋駄天達が目の前にいるかのような感覚で彼女達を観察していた。


 (それにしても何て情念だ…こっちまで当てられて感情が乱される…ダメだ、心を落ち着けないと情力の精度が…!?)


 不意に何者かの気配を察知し、晶は警戒を強めた。「何者です!!」すると上空から何かが降ってきた。


 「よっと…ん?なんだいあんた、本体殿の連れかなんかかい?」


 「え、真白さん?…いや違う、あなたは!」晶の前に現れたのは緑だった。


 「あたいの顔を見て勘違いしたってことは…へぇ、そうかい…あの子「マシロ」って呼ばれてるんだねぇ、次からあたいもそう呼ぼうかな。」ニヤリと笑いながら緑は尋ねる、「そうはあっちで合ってるね?」


 「え、ソウ?今あっちには強い情念を発する何者かが…あ!ちょっと待ってくださ…あぁ、行っちゃった…」晶の話が終わらない内に緑は去ってしまった。


 「…大丈夫かな……まぁ…大丈夫か、瞳さんもいるし、うん…」何かありそうなら自分も向かおう…そう思い直した晶は、遠方観察を再開した。

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