手強い分情

 場面転換。


 真白と緑…色違いの二人は双方の情力により、水と氷におおわれた大地の中で向かい合っていた。


 「あっはははは、楽しい、楽しいねぇ!あんた思ったよりタフじゃないか…流石はあたいの本体殿だ!」未だに余裕の表情を崩さない緑とは対照的に、真白はかなり疲労の色が濃かった。


 (ここにきて経験の差が効いてきたか…あちらはおそらく戦うことにかなり慣れている、一方真白さんは戦闘に関しては全くの素人、まずいですね…)そう言ったのは真白の心中、「哀しみ」の分情、青だ。


 (ちくしょう!おれの情力、やつとは相性が悪すぎる!いくら水で攻撃してもすぐに凍らされちまうから、たとえおれが表に出て戦ってもさして状況は好転しねぇだろうぜ…!)赤が悔しそうにうめく。


 (あたしの情力も直接打撃系っすからねー…万一凍らされても、真白さんみたいにすぐ回復できないし危ないっすよねぇ…)黄も緑への対抗手段が見つからない様子だ。


 彼女達の言う通り、真白は既に黄と赤の情力を発現させて緑に挑んでいるが、全て通じなかった。残るは青の情力だがギャラリーで一度使用しており、次に使うまで少し時間を置かなければならなかった。しかし、完全な状態での力の使用は出来ないがほんの一瞬だけなら情力を使える…そう思った真白の目は…


 「おや、その目…「哀しみ」の感情も戻ってたんだね…」刹那、青く輝いた真白の目は緑をとらえ、一秒に達したかどうかのわずかな時間、真白の洞察力と思考力が極限まで高められた。


 「痛っつ…ててて…やれやれ、青さんの力を借りて尚これしか策が思いつかないとは…でも、さっきよりもあなたについてよく分かりましたよ…あなたに近づきすぎると途端に息苦しくなる現象についても…」


 「ほう…」緑が目を細める。


 息苦しさの正体は「空気の移動」です。あなたは冷たい空気が下方に向かう性質を利用し、わたしの顔付近の空気を急激に冷やした。酸素は下へと落ち、呼吸を制限されたわたしは一時的に酸欠状態になってしまった…違いますか?」真白は緑の返答を待つ。


 「…くくく、どうだろうねぇ…さあ、戦闘再開だよ!!」しかし緑は回答を避け、氷の波を形成させて真白に向け放った。すると真白は「慈しみ」の情力を発現させたまま、その猛撃に突っ込んでゆく。


 「なんだ、考え込んだ結果がその無謀な突進かい?」緑のからかいを気にも留めず、真白は手にした警棒を氷波へ振り払った…鋭利な音を立てて氷が割れる。


 「残念だけど、あたいの氷は我武者羅がむしゃらな攻撃なんぞじゃ防げないよ!」緑が地面を足でトンっと蹴る、するとそこから新たな氷波が生まれ、真白に迫り来る。


 対応が間に合わなかった真白は氷に触れてしまい、そこから彼女の身体はどんどんと凍り付いてゆく。しかしその瞬間、真白は赤の情力を発現させて氷を溶かし、すかさず緑に攻撃を仕掛ける。二人の距離が狭まり、真白の間合いに緑が入った。


 しかし真白は再び急な息苦しさを覚え、前に倒れそうになる…だが何とかそれをこらえ、彼女は左手の警棒を横に振り抜いた、緑は後ろに跳んでその攻撃をかわそうとしたが半歩間に合わず、その腕を真白の警棒がかすめる。


 「っはぁっ!!」真白はたまらず息を吐きだし、片膝をついた。「…くくっ、まさか手傷を負わせられるとはね…」掠った方の腕を見ながら感心した様子で緑が呟いた。

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