激情者

 「…中々倒れないねぇ…ワタシ流石に疲れてきちゃったんだけどなー…」


 肩を上下させ荒い息遣いの韋駄天、それでも彼女は楽しそうな笑みを浮かべていた。


 「………」


 しかし爪はそんな彼女の言葉に応じない…どころか、先程からずっと棒立ち状態で上の空、いくらなんでも隙だらけだ。様子のおかしい彼女を見て眉をひそめる韋駄天だったが…


 …次の瞬間、今まで感じたことのない圧迫感が彼女を襲った。


 (!!…何だこの情念は…いつも感じてるものとは、まるで次元が違う…!?)


 爪はおもむろに右手を後ろに引き、そして一気にその手を振り抜いた…韋駄天はそれを鉄で防御するのではなく、「喜び」の情力に切り替え強化された脚力を使って、上空へ飛び上がることで回避した…


 …果たしてその判断は正解だった…さもなければ、たとえ鉄でガードしたとしても…おそらく韋駄天の身体は真っ二つになっていただろう。


 爪の一撃は、韋駄天のはるか後ろにある岩山に大きな一文字の傷をつけていた。その異様な光景に危機を感じた韋駄天、彼女が爪を見ると、彼女の身体にも変化が生じている。身体の表面に、曲線で構成された奇妙な黄色の模様が浮き上がっていたのだ。顔面のそれが最も複雑で、まるで「喜」の文字を象っているかのようであった。


 (何だあれ…一体彼女に何が起きたんだ…!?)急激な状況の変化に韋駄天といえども動揺を隠せなかった、が…


 「…まぁいいや、困惑したところでこの不可解な現象が解明される訳でもないし、キミと戦い続けてたらその内分かるだろ!とりあえず今は今を全力で楽しんじゃおう!」再び「楽しみ」の情力を発現させた韋駄天は、凄まじい情念を発している爪に笑顔で向き直った。




 「血染!そっちは大丈夫やったか?」ギャラリーまで戻ってきた焔。「あのー…済まん、ちょっと色々あって…」


 「皆まで言わなくても、あたしの情力で全部知ってるよ。」


 「いや、話すと長く…え?知ってたって…えぇ!?ちょ、どういうことやねん!!」血染の告白に仰天する焔。


 「ちょっとした情力の応用さ。あんた達と出会ってから、あんた達が戦う際はいつでもその様子が分かるように血を操作してるんだよ…ってそんなことは今どうでもいいんだ。帰ってきたとこすぐで悪いけど、すぐに韋駄天の所へ向かうよ!このままじゃ、そこそこ大変なことになるかもしれない…!」


 珍しく余裕のなさそうな表情を浮かべている血染を見て「…いやうちらの許可は!?」というツッコミを飲み込んだ焔。彼女は真面目に血染に問い返す。「…どういうことや…?」「説明は移動しながらだ、さぁ行くよ!」二人は慌ただしく走り出した。

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