擽(くすぐ)られる好奇心

 “Foooo! What a beautiful city, Birmingham!!”


  夜風に髪をなびかせ気持ち良さそうに逃亡を続ける緑、そしてそれを追いかける真白。


 「彼女…というかわたしの分情、今までのどの感情より力を使いこなしてる…」


 具情者には固有の特殊能力が宿るが、それ以外にも基礎的な身体能力が大幅に強化されるという副次的産物がある。緑はその力を存分に駆使し、常人には不可能な走行や跳躍を繰り返しながら、夜のイギリスを縦横無尽に逃げ回っていた。


 (おい、感心してる場合じゃねぇだろ!あいつ街への被害を一切顧みずに、情力使い放題で逃げてやがんぞ!!)


 真白の中の赤が苛立った声音で真白に告げる。赤の言う通り、緑は彼女の情力である「氷を生成する力」を使い、被害を度外視した逃走劇を繰り広げていた。そしていちいちそれら全てに対応し、街を守りつつ緑を追いかけている真白は中々彼女に追いつけないでいるのだ。


 「えぇ、分かってます!」真白は黄の情力を発現させ、瞬間的に緑との距離を詰めようとする。


 「へぇ、そんなのも出来るんだ。」しかし緑に焦った様子は見られず、それどころか真白を観察する余裕まで見せている。


 「さぁ追いつきまし…!?」


 真白は急に息苦しさを感じ、たまらず着地したその場で膝をつく。


 「おやぁ?どうしたどうした?、追いかけっこは継続みたいだねぇ!」


 楽しそうにそう言い放つ緑、彼女は再び真白から大きく離れて行ってしまった。


 「今のは一体…急に息が…」謎の現象に戸惑う真白、その時…


 (おい真白、上見ろ上!!)赤にそう叫ばれた真白、ふと頭上を見ると、建物に生えていた氷柱が、彼女目掛けて落下した。「!!」そうすべきではなかったのだが、真白は反射的に目をつむってしまう。氷柱は重力に従い、彼女の身体を…


 ハッと真白が目を開けた時には、氷柱は粉々になって周囲に散らばっている。その様子は「砕かれた」というよりはむしろ「刻まれた」と言った方が正しい状態だった。


 (おい…誰か何かしたのか!?)驚いた様子で赤が問い掛ける。(いえ、わたくしは何も…黄さん?)(いやいや、あたしにそんな力ありませんて!)各々が聞かれ尋ねをし合ったが、結局誰も氷柱を防いではいなかった。


 「…はっ!と、ともかく今は彼女を追うのが先ですね、急ぎましょう!」疑問に疑問が重なりまるで訳が分からない真白だったが、それは一先ひとまず棚上げし、再び緑の追跡を再開させた。




 真白達は気付かなかった…彼女が走り出した際に、まるで水溜まりのように自分の影が揺らめいていたことに……




 一方、韋駄天と糸達。


 「へっ、中々いい動きをしやがる…てめぇ才能あんじゃねぇか。」窃盗団の一員である茶髪の少女は、止まることなく鉄拳を繰り出しながらも韋駄天を褒める。「キミまだそんな喋る余裕あんだね、こっちはそろそろだるくなってきたってのに…!」

蹴り技と拳技、普通に考えれば脚を使う方が体力の消耗が激しい。(そうか、ワタシの情力はあくまで脚力の強化、他の部位やスタミナまでは強くならない…今後持久戦は避けた方がいいかもね…)ここにきて韋駄天は、自身の情力の弱点を悟る。


 「とはいうものの、だるくなってきたってのはオレも同じだ…こんな狭苦しい部屋ん中で、お宝気にしながら戦ってても何も面白くねぇ…そろそろ場所を変えようじゃねぇか…あぁ、その前に…」さっと後ろに跳び退いた彼女は、装着していた鉄拳をおもむろに外し、そして韋駄天達に告げた。


 「オレの名は山吹やまぶき そう、そして…」


 急に手を横斜め上、ちょうど窓がある方に薙ぎ払ったかと思えばその瞬間、けたたましい音を立ててそのガラスが割れる。


 「…見ての通り、具情者だ…」獰猛どうもうな笑みと共に、爪が申告した。

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