青い双眸

 「この辺りでいいか…」茶髪の子は呟き、立ち止まる。そこはグラウンドの上に位置する森、ついさっき瞳達が通ってきた場所だ。


 「おやおや、随分森の中まで来ましたね…さて、貴女の名前を教えて頂けますか?」彼女に付いてきた瞳が問うと「…紺碧こんぺきあきらです…」その子はぼそぼそと答えた、声が小さいだけで意志疎通が出来ない訳ではないらしい。


 「紺碧晶さん、素敵な名前だわ。」


 「…お世辞を言いに来たんですか…?」瞳の言う事に耳を傾けつつ、青い目をすぅと細める晶。


 「まぁ、そんなに気を荒立てないで下さいな。私はただ、出来ることなら争いを避けて通りたいだけ…争いは悲しみしか生みませんからね。」穏やかにそう告げる瞳だったが、


 「…この時代に帯刀してる人の言葉とは思えませんね。」その指摘に眉をピクリと動かす。「…上着で隠してあるのに…よく分かりましたね。」「重心の傾きを見ればそう難しいことではありません…話を続けますよ、そんなことを言えるのはあなたが本当の争いを知らないから…いいえ、争わざるを得ない状況におちいったことがないだけです。」静かな、そしてどこかかげりのある視線を投げ掛ける晶。


 「……」特に反論もせず黙って耳を傾けている瞳に、彼女が続けて言い放った。「お喋りは苦手なんです、申し訳ありませんが…ここであなたを倒させていただきます!」そう言った彼女は暗剣を取り出して構えると、目にも止まらぬはやさで瞳へと峰打ちを繰り出した…だが…


 「ふふ、優しい子ね…貴女の方こそ、言葉、そして行動の端々から、戦いを忌避する姿勢が見て取れるけど?」瞳は造作もなくその一撃を、短い方の刀で受け止めていた。「!?」先制攻撃が通用しなかったことに少し驚きつつもさま距離を取り、今度は刃を瞳に向けて斬り掛かった。


 「中々良い動きですね。」そう言った瞳は片手で刀を構えてその一閃を打ち返す。負けじと晶も俊敏しゅんびんに連撃を加え、落葉が舞い上がり、踏み散らされた土が宙に浮かぶ。


 (何…この動き…!?)晶は打ち合いの中、相対する容姿端麗な少女に言い様のない恐れを抱いていた…それ程に瞳の動きはだったのだ。


 端的に言い表すとすれば、瞳の動きは「滅茶苦茶」だろうか。まず刀をしっかり手にしていない。斬りかかったと思えば動いたのは腕のみ、宙に浮いたその刀を、今度は逆の手で掴み直して不意打ちを仕掛けようとする。なんとかそれに反応して晶が斬撃をかわすと、次はその刀を彼女目掛けて投げつけるのだ。


 その追撃ですら、無理に身体をひねることで何とか回避する晶…だが瞳の破天荒な攻撃は彼女の更に上をいった…刀のつかに巻いてある糸を引き、なんと咄嗟に刀を飛び道具にしてみせたのだ。「痛っつ!!」流石にその急襲は避けきれず、腕にかすり傷を負ってしまう晶…辛うじて体勢を崩すことなく着地は出来たが、血の流れる腕を逆の手で押さえる。


 (あの身のこなし…昔してた時もたまに遭遇した、全然予測出来ない戦い方をするタイプの戦士…白兵戦は分が悪いわね…)瞳を凝視しつつも晶は瞬時に考えを巡らせ、そして後ろに鬱蒼うっそうと広がる木々に飛び退き、その身をひそめた。


 「おや…」刀のつかに糸を巻き直しつつ、少し体から力を抜いて周囲に気を配る瞳…すると次の瞬間、が瞳の頬を物凄い速さでかすめ去っていった。「……貴女…何者ですか…?」瞳の頬から一筋の血が流れる、するとそれまで割と余裕の表情を浮かべていた彼女は一変、猛禽類のような目つきで林に向かってそう詰問する。


 「……争わなければ生き残れなかった者…とでも言っておきましょうか…」姿を隠した晶、声だけがその林に木霊こだまする。「それと…そうですね、姑息な戦法をとっているんです、せめてもの礼儀としてお教えしましょう。」森の中から、晶は説明を始めた。

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