第12話 情報屋のアシスト




「……ねぇ、なおくん」

「………………」

「ねぇってば!!」

「え、あ、あぁ……悪い、やっぱり手を握られるのは嫌だったか?」

「う、ううん! それはむしろ嬉しいってゆーか……って、そうじゃなくて!」

「?」



 それから玄関先の昇降口から戻って、どこか落ち着いて話せる良い場所は無いかと人気の無い廊下を歩いていると、今までずっと静かだった朝陽から声が掛けられた。こちらの問い掛けに頬を染めてもじもじとしながら言葉を返す彼女だったが、途端に慌てたようにして顔色を元に戻す。


 なおくん、と呼んでいることから、高校での真面目くんがいつも公園で会っていた直輝だということがバレてしまっているのはもはや明白。

 嫌われていないか不安だった直輝としてはほっと一安心なのだが、朝陽がこちらを伺うような視線を向けているのはどうしてなのだろう。



「いちおう確認なんだけど……ほ、本当になおくんなの?」

「……あぁ」

「放課後、いつも公園でゆうちゃんと会っている……?」

「……あぁ、間違いないよ」

「公園のベンチで、いろんな話をした……?」

「ほら、こーんなに目つきが悪い高校生、他にいるか?」

「——————」



 朝陽に向き合った直輝は、恐る恐る繰り出される質問にしっかりと返事を返していく。一つ一つ。安心させるように。君の側にいるよ、と。


 彼女はそっと俯くと、顔を上げて口を開こうとする。しかし、感情を堪えたかのように目を伏せてぐっと口をつぐむと、空いた手を胸元に置いてぎゅっと制服にシワを作りながら、一拍を置いて小さく言葉を紡いだ。



「……なら、なんでさっきみたいな事をしたの?」

「朝陽……」

「あんなに目立っちゃったら、なおくんまで有ること無いこと言われちゃうじゃん!」

「ごめん、我慢出来なかった」

「噂なんて、きっかけさえあれば一瞬で広まっちゃうんだよ……。手に負えないところまでいって、腫れ物を触るような目まで向けられて……! このままじゃ、なおくんまで……っ」

「朝陽、俺は———」



 声を震わせながらそう言葉を紡ぐ朝陽に落ち着いて話し掛けようとするが、とある明るい声に遮られる。



「よっ、堅持」

「梶川、くん……」



 振り向くと、そこには茶髪のツンツン頭が特徴的な高校の情報屋、梶川秀治がいた。彼は手に持ったタオルをこちらに投げると、朗らかな表情を浮かべて言葉を投げる。



「普段通りでいいよ。さっきのが本当のお前なんだろ?」

「……わかった、梶川。タオル、ありがとう」

「気にすんな。にしてもさっきは随分派手にやらかしたなぁ。もうそこらじゅうに噂が広まってるぜ?」

「そう、か……」

「で、そっちのキミが例の……」

「っ」



 梶川の視線が背後にいる朝陽を射抜く。さっき、という言葉の通り、どうやら裏庭での出来事をこっそりと覗いていたようだ。

 びくりと肩を震わせる朝陽だが、悪意ある不躾な視線ではないので問題ないだろう。……が、一応釘を刺しておく。



「梶川、じろじろ見すぎだ」

「あー悪い悪い。ちょっと露骨すぎたか。白城さんもごめんな?」

「なおくん、この人は……?」

「どーもどーも、俺は梶川秀治。堅持とは一緒のクラスメイトで、高校で情報屋やってまーす♪ どうぞご贔屓にー」



 にこやかな笑みを浮かべて挨拶をする梶川だが、その普段と違う声音と口調の所為かどうにも胡散臭い。朝陽が例の有名人だからか、はたまた女の子だからだろうか。


 ちらりと朝陽の方を見てみると現に怪訝な表情を浮かべており、直輝へ「信用しても良いの?」という訴えかけるような視線を向けていた。朝陽が梶川を同級生と把握しているかは不明だが、この反応から見て彼の真意を測りかねているらしい。


 大丈夫だ、と目を細めてこちらが軽く頷いてみせると、彼女はうっすらと緊張を緩めたようだった。そうして梶川の方へ視線を向けると、ぼそりと言葉を呟いた。



「……よろしく」

「どもどもー。……で、だ。堅持、今お前らって多分どっかゆっくり話せる場所探してるよな?」

「梶川、どうしてそれを……」

「俺の観察眼と把握能力を舐めんなよ? お前がその姿を見せてから白城さんは驚いた表情を浮かべていた。んでもって、会話の内容では随分と親密さを伺わせてた。まるで今の堅持の姿でどこかで会っていたかのように、な?」



 真意を探るような視線をこちらに向けるが、おおよそ確信しているのだろう。事実、その考察は間違っていない。


 静かに続きを促す直輝の様子に口角を上げた梶川は、そのまま言葉を続ける。



「この状況から導けるのは、これまでの高校での堅持と今の堅持、それぞれを使い分けながらどこかで白城さんと会っていた。そして白城さんは今日初めて高校でのお前が今の姿のお前だったことを知った、ってところか?」

「凄いな、全部合ってる。梶川って案外地頭良いんだな……」

「いやぁ、それほどでも。他にも———ってこんなこと話してる時間なんてねぇな。昼休みが終わっちまう」

「あっ」



 しまった、という表情を浮かべる梶川の言葉に、直輝は声を洩らしながら制服のポケットに手を突っ込む。スマホの時刻を確認すると、そこには『12:45』と表示されていた。わずか残り十五分である。


 朝陽に色々と伝えたいことがあったというのに、このままでは時間がギリギリだ。今この場で伝えようにも、近くに梶川がいるのでどうにも気恥ずかしい。

 どうしようかと焦りながら眉を顰めていると、目の前から声が掛かった。



「大丈夫だ、午後の授業で使わない空き教室がある。時間は残り少しだが、そこでなら他の奴らに気を使う事なくゆっくり話せるだろ?」

「梶川……」

「ほら、案内するから早く行くぞ」

「すまん、恩に着る」

「今度、色々質問させて貰うからな〜?」



 そう言ってにやりと笑った梶川と共に、二人はやや急ぎながら空き教室へ向かったのだった。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

お更新遅れて申し訳ありません……。もし誤字脱字あったら教えてください……m(_ _)m


よろしければフォローや☆評価、ハート、コメントなどで応援してくださると嬉しいです!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る