第五話 ラブレター

 一室に彩られた赤いサルビアの花は美しく芽吹く。執事、レオンは城の玄関のサルビアの花の手入れをしていた。


「レオンさん。私は振られてしまいました」


「そんな事はありません。アリス様、貴女とカーティス、二人は思い会う人々です。カーティスは私のことが好きなわけではありませんよ。アリス様。少し休憩なさったほうが良いです? どうでしょう? バラが咲く庭園でランチなさって下さい? 物事には必ず解決策がありますよ」


 エドは大広間おおひろまのガラス拭きをしていた。だが、溜め息をついた。エドはいつも恋がうまく進まない。恋が躓いてしまったり、好きな人には別に好きな人が居たり、結局、思いあえない。エドはいつも失恋になってしまう。エドは溜め息をついた。そこへ、執事のレオンが現れる。執事のレオンさんは使用人の誰に対しても真摯しんしで丁寧な対応を取る人だ。城の使用人の中でもレオンさんの人望はやはり、別格べっかくだ。


「カーティス様。ガラス拭きは私が代わりにします。少し休憩なさってください。貴方は疲れた顔をなさっています。今日は澄み渡る青空ですので薔薇が咲く庭園で枝切りは出来ますか?」


「はい!」


「枝切りが済んだらランチなさって下さい。ミスは気になさらないでください。貴方は変な汗をかいています。今日はさぞかしお疲れになったでしょう? ゆっくりと休憩なさってください」


 あ、本当だ。エドは少しひんやりとした汗をかいていた。執事のレオンさんから言われた通り、エドは薔薇が咲く庭園へと向かう。枝切りして腰掛け椅子に座った。五月の気候は安定している。雲の形が綺麗なドラゴンだ。なにか良い事があるといいな。エドはアリスのこと思う。もし、他の人と結ばれたら心がズキズキと痛い。ああ、アリスさんに相変わらず可愛い人だなぁ。とエドは回想かいそうをしていた。アリスさんがいま隣に腰掛けていたら良いのに。エドはアリスと結ばれる妄想をしていた。目の前には愛しき人。僕の一人芝居の幕をあがる。


「あら、エド。同じ庭園に? なにか考え事?」


「まさか、アリスさん、僕の願いは叶いませんよ」


「いつだって僕は好きな人から貴方は本当にいい人だけどね、とは言われます! でも! もう!」


「そんなエドは本当にハンサムなのね」


「でも恋い焦がれるアリスさんに勘違いをさせてしまったり、結局僕の恋は報われません」


「エド?」


「アリスさんが新人の客間女中のときからずーっと好きだったのに!」


「エド? 私は勘違いしても良いの?」


「!?」


 エドの妄想ではなかった。目の前には黒髪にカチューシャをつけた、アイスブルーの目をした可愛らしい人が座っていた。つまりアリスさんが腰掛けていた。エドは更に緊張した。


「ああ、神様! なんてこった! そりゃないよ!」


「また僕の妄想もうそうですか?」


 額に手を宛てた。感触は柔らかく冷たい手。女の子の手だ。


「私よ、解る?」


「あ、今日は季節外れの雪が降るから暖かくしてくださいね」


「エドは綺麗な唇ね」


「まさか……! 僕は実家でも母君にゴーストと間違われてしまいますし、なにより僕には恋は実ったこともありませんし」


「僕は執事のレオンさんみたいに性格も含めた凄いハンサムと言う訳でもありませんし」


「ね? ここでランチなさってくださいと言ってくれたのはレオンさんよ?」


「ああ、僕もです」


「え?」


「エドはいつもここでランチするの?」


「レオンさんから枝切りしていただきたいと申されました」


「……アリスさん。僕はなんてお恥ずかしいことを」


「恋って分からないものね」


 エドが切った枝にお手紙が差してあった。


「手紙?」


 羊皮紙にはこう書かれていた。筆記体で書かれていた。


«私は貴方をお慕い申しております。本当にエドは照れ屋さんね。今度城外でお茶でもしましょう?»


「アリスさん! 僕もその……アリスさんにお慕い申しております!」


「ウフフ。嬉しいわ!」


「五月十八日の雲は本当に綺麗なのね」

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薔薇の花束をきみに 朝日屋祐 @momohana_seiheki

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