第58話
その玉は俺の頭上をかすめて後ろの壁にめり込んだ。
なんだよこの剛速球は!!
プロの野球選手顔負けの玉がどんどん投げつけられる。
これに当たればひとたまりもない。
骨は砕け、玉は人体を貫通してしまうかもしれない。
綾は俺が言った通り身をかがめて玉に当たらないように気をつけている。
肉玉を投げ合っているのは子鬼たちだけだ。
俺はチラリと鬼を見た。
鬼はつまらなさそうに俺たちを見ている。
このままじゃ鬼の機嫌を損ねてしまうかもしれない。
1度くらいは参加した方がよさそうだ。
そう判断した俺は壁にめり込んでいる肉玉をはぎ取った。
「あ、そうだ~。雪合戦のルールまだ伝えてなかったな」
って、このタイミングでルール説明かよ!
玉を投げようとした手の力が抜け、ヘロヘロと肉玉がおちて行く。
「1人3回玉に当たったらそいつは負け。残った奴らでゲームを続ける」
そのルールにギョッとする。
子鬼たちは当たっても平気なのかもしれないが、俺と綾は1度でも当たったらアウトだ。
綾、絶対に立ち上がるなよ。
俺がいなくなっても、絶対にそのから動くな!!
心の中で念じると綾と視線がぶつかった。
その目は涙で滲んでいる。
できればこのゲームの最後まで生きて綾と一緒にいたかった。
でも、人間が1片方死ねばこのゲームも終わるはずなんだ。
だから……。
俺が動き、綾が驚いた顔をした。
俺は子鬼たちよりも前に移動する。
次々と迫る剛速球。
俺は笑顔だった。
目の前に肉玉が迫る。
俺は更に笑顔を浮かべた。
綾、大丈夫だ。
なにも心配することはない。
肉玉が俺の腹部にぶつかって来た。
瞬間的に痛みが全身に駆け巡った。
でも、それも一瞬の出来事だった。
自分の体が横倒しになり、綾が何かを言っているのが見えた。
大丈夫だ綾。
きっとお前は助かる。
必ず生きて帰れ。
もう、痛みは感じなかった……。
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