第50話

「なんだよ、死んだのか?」



ピクリとも動かなくなったミヅキを見て鬼が言った。



「死んじゃった~」



子鬼の1人が返事をする。



「なんだよ、それじゃ仕方ないなぁ。せっかくストップウォッチを用意したのに、このゲームは終了だな」



鬼の言葉に浩成が大きく息を吐き出した。



目にはまだ涙が浮かんだままだ。



終了の合図を聞いた子鬼たちが、一斉にミヅキの体に食らいつき始めた。



とうとう3人になってしまった。



次のゲームでは絶対に浩成に負けてもらう必要がある。



そう思ったときだった。



「お父ちゃん、お腹痛いぃ~」



横に大きな子鬼がお腹を押さえてそう言った。



「なんだよお前、ちょっと食いすぎたんじゃないかぁ?」



「食いしん坊なんだよ、こいつ!」



他の子鬼に頭を小突かれている。



「お腹痛いよ! お腹痛いよぉ!」



太めの子鬼が床を転がりながら訴える。



「仕方ないなぁお前。ほら、トイレはこっちだ」



鬼が子鬼を片手で持ち上げて広間にあるトイレへ向かう。



次のゲームがなにかわかれば、今の内に作戦を立てる事ができるけれど……。



「次のゲームの準備するから、ちょっとどけて~」



子鬼がそう言い、マットを回収し始める。



俺は慌てて立ち上がった。



「なぁ、次のゲームってなんだ?」



片付けを始めた子鬼へ向けてそう質問してみた。



簡単に答えてくれるとは思えないが、一応だ。



「え~、知りたい?」



子鬼は俺を見て小首を傾げてそう言った。



鬼のくせに、その仕草は少し可愛く見えた。



「もちろん、知りたいよ」



だって生死がかかってんだぞ。



とは、言わない。



「でも内緒! だって、お父さんに怒られるもん!」



子鬼はそう言うと、4人分のマットを抱えて走って行ってしまった。



やっぱり無理か。



「どけてどけて~」



後方から聞こえて来た声に振り向くと、他の子鬼たちが紅白歌合戦の時に伝ったステージを持ってくる所だった。



それを広間の中央に準備していく。



まさか、また歌わされるのか?



それなら好都合だ。



俺と浩成がどれだけ下手に歌ったとしても、綾には叶わない。



綾の1人勝ちで間違いない。



しかし……。



3つ並べられたステージ上に、ひょっとこのお面が1つずつ置かれていく。



「なにあれ、ひょっとこ?」



綾が瞬きをしてそう言った。



「そうみたいだな……」



どうやら紅白歌合戦ではなさそうだ。



半分ガッカリしながらもテレビで見たことのあるひょっとこのダンスを思い出す。



もしかして次はひょっとこダンスをさせられるんじゃないか?



テレビで1度見たきりのダンスなんて、覚えているわけがない。



笛と太鼓のリズムに合わせて股間をクイックイッと突き出す奇妙なダンスだったことだけは記憶していた。



そんなダンス、綾ができるとは思えなかった。



すっかり準備が整った時、鬼と子鬼がトイレから戻って来た。



子鬼はすっかり元気で走り回っている。



「おぉ、もう準備万端だな。じゃぁ、次のゲーム!」



マイクを使わない鬼の声が広間に響く。



隅から隅まで十分に届く大きな声だ。



「次のゲームはぁ……どれだけひょっとこになり切れるかゲーム!!」



子鬼たちの拍手が聞こえて来る。



俺と綾と浩成はポカンをしてその場に立ちすくむ。



どれだけひょっとこになり切れるかゲームって、一体どういうことだよ!

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