第24話 滑走 - perspective C-3
(滑走2)06:30
ガラガラ、ゴロゴロ、TF-1はゆっくり滑走路上を後ろ向きに戻されていく。
「加藤、翼は均等に撓んで問題ない。もっともまだ撓みきっていないが・・・」
吉田は歩きながら最初の走行を説明する。
「特に桁からもコクピからも異音がしなかったし今のところは順調。次は高速滑走をやってみる。まだ浮かさないから気をつけて。」
「分かったカズさん。速度はどうやって判断したら良い?さっきより出すと思うけど」
「加藤のケイデンスが90くらいになったら、ペラピッチが合っていたら良い速度のはず」
「そうかー」
TF-1はスタート位置に戻り、また機体の前に滑走路が真っ直ぐ延びている。
メンバーの展開を確認して、吉田は大きな声で第2滑走の指示を叫ぶ。
「今度はもっとスピードを出します!高速滑走です!主翼がもっと撓むので翼紐のフォローは気をつけて!」
まあ、初回滑走は問題なかった。高速走行はクルーのスキルが揃っていないと難しいが、これをやってみないと次にいけない。加藤、浮かすなよ...
「いま風はやや右から0.2m/s。それでは加藤の合図で始めます!」
ちょっと風の方向ずれてきたか。クルーもまだ慣れていないし変に傾かなければいいが...
「それでは二本目、高速滑走試験。ペラ、回します。3、2、1、Go!」
プロペラの回転に力がこもり、吉田は胴体を強く押し出す。駆動系からバンッと破裂音がする。すこしチェーンの歯飛びが起こったようだ。しかしTF-1はみるみる加速する。
いいぞ。
と思ったが、やや左の翼の上りが遅い?いや、右がさっきより早く上がっている。加藤の漕ぎは力強く、機体はさらに加速してウィングフォロワーの西村、中川は置いていかれそうだ。
機体がだんだん左に傾いていく。
「右引いて、右!」
傾く速度は止まったが、機体を戻すほどではない。進路が左にそれ、舗装面を外れそうになっていく。
「減速!」
吉田が叫ぶのと、ほぼ同時に加藤もペラを漕ぐのを止めていた。コクピットの胴体パイプの中からカカカと音が響く。慌てて加藤は軽くクランクを回す。カカカという音はチェーンがスプロケットを乗り上げている音だ。
西村と中川が追いついて機体にとりつく。TF-1は左を向きながら停まり、撓んだ翼が戻ってくる。傾いた機体は翼端が地面に届きそうになっている。左翼の西村はほとんど翼を下から支えるような姿勢だ。中川が翼紐を引っ張り機体の姿勢を戻す。機体はスタート地点から100m程走っていた。ちょうど第1層の配置場所だ。
「ハア、ハア。何か異常あるか?」
「いえ、翼が地面に接する前に支えられました。異音も特に聞いていません。」
「私も異音は聞いていないけど、機体が早くてついていけなかったし、翼が撓むのも早かったです」
「そうか、俺も早々に置いて行かれた。加藤、漕ぎはどうだったんだ?」
「最初少し歯飛びしたかな。でもすぐペラが引くのが分かった。回転は最初は80ちょっとだっただけどすぐに90になったよ。傾いたのは分かった。舵を少し当ててみたけど効かなかった。」
「舵を動かしたのは俺も分かった。それでいいと思う。操舵の大きさはの良しあしはまだよくわからないね。」
「結局、何が原因だろう」
「今の風向きは?」
「0.5m/sで2時位でしょうか」
「風が一番疑わしいかな。もう少し早く気づいて修正できていれば間に合ったかもしれない。次にありそうなのは急加速したからフォロワーの足並みがそろわなかったのかもしれない。少し遅れても翼にモーメントが入るから」
「機体に異常がないようだからとにかくもう一回やってみよう」
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