30 あなたを好きになるということ

 あなたを好きになるということ


 森は思っていたよりも、とても深い森だった。

 のぞみさんとのはらと手をつないださなぎは、その深くて長い(道のない)森の中を通り抜けて、見慣れた木登家の裏の森の入り口のある風景が見える場所まで戻ってきた。

 おそらく、さなぎ一人だけだったとしたら、この場所まで戻ってくることはできなかっただろう。

 そんなさなぎが二人を「えっと、こっちです」とか、「確か、こっち、だったかな?」とか言いながら、森の中を道案内できたのは、妖精さんが本当にちゃんと帰り道を覚えていてくれて、『さなぎちゃん。こっちです』とか『さなぎちゃん。えっと、たしか今度はこっちの道が正しい道のはずです』とか言って(たまに間違えたりもしたけど)道案内を(小声で)してくれたからだった。

 三人(と妖精さん)が森を抜けるまで、だいたい三十分くらいの時間がかかった。

 森を抜けて木登家が見えるところまできたところで、のはらが「さなぎちゃん。よくこんなに深い森を一人で通り抜けることができたね。これじゃあ、確かに森を挟んでお隣さんとは言えるけど、私がさなぎちゃんたちの家族のことを知らないわけだね」と言った。

「のはらの言う通りね。久しぶりに森の中を散歩できて楽しかったけど、でも、さなぎちゃん。この森は子供が一人で迷い込んでいいような簡単な森ではないわ。これからは絶対に一人でこの森の中で遊んだりしないこと。そうしないと、本当にさなぎちゃんはこの森の中で迷子になってしまうわよ。いい? 私とちゃんと約束できる?」と笑いながらのぞみさんはさなぎに言った。

 さなぎ自身も、森の中を歩きながら、自分が思っていた以上に遠い場所にまで、足を伸ばしていたことに気がついてはいたので、素直に反省をして「はい。ごめんなさい。もう一人ではこの森の中で遊んだりはしません」とのぞみさんにあやまった。

 するとのぞみさんは「はい。よくできました」と言って、優しくさなぎの頭を麦わら帽子越しに撫でてくれた。

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