第310話 リッドとファラ、寝静まる夜
「え……ま、待ってください。な、なんで兄上と母上がそのことをリッド様にお伝えになったのですか」
「い、いや、正確には僕から聞いたんだけどね、あはは」
「えぇえええええ」
ファラは困惑した様子で顔を赤らめ、耳を上下にさせながら驚愕の表情を浮かべていた。
理由は、披露宴で彼女が身に纏っていた『黒引き振袖』の意図をすでに僕が知っていたからである。
そして、僕は彼女にレイシスとエルティアに『黒引き振袖』のことを尋ねるに至った経緯を丁寧に順を追って話していく。
披露宴の会場に入場した時、華族達からどよめきが起きたこと。
同時に僕よりファラに注目が集まっていたことで『黒引き振袖』に何か意図があるんだろう、という推察をしていた。
その時、丁度レイシスがやってきたので話を聞いてみたところ、意図があることを確信。
しかし、詳細までは教えてくれずファラか、エリアス王もしくはエルティアに尋ねるようにと言われたことを伝えた。
「うぅ……兄上」
「あはは……」
顔赤らめつつ、彼女は怨めしそうにしている。
苦笑しながらも説明を続けていく。
レイシスと話をした後、すぐにエリアス王とリーゼル王妃、エルティアが僕のところにやってきた。
その際に、尋ねてみたところエルティアがすべて教えてくれたという事を伝える。
それから少しの間を置いて、彼女は諦めたように呟いた。
「はぁ……まさか、そんなことになっているなんて想像もしていませんでした。だけど、リッド様も気になっておいでなら尋ねになって下されば良かったのに……」
「ごめんね。次からはそうするよ。それでその……良ければどうして披露宴で『黒引き振袖』を身に纏ってくれたのか、聞いても大丈夫かな……」
問いかけにハッとした彼女は、少しおずおずとしながら恥ずかしそうに答えてくれる。
「あ……そ、それはですね……その、勿論、母上がリッド様にお伝えした意図もあります……だけど、それだけじゃないんです」
「どういうこと?」
彼女はそう言うと、『黒引き振袖』を着るに至った経緯を教えてくれた。
披露宴に出るにあたり、白無垢から他の着物に着替えることは決まっていたそうだ。
しかし、その着物を身に纏うかについてはずっと悩んでいたらしい。
その中で、『他の誰にも染まらない』ということを意図する『黒引き振袖』であれば、婚姻に関して王家の意思も示せると考えたそうだ。
ファラの表情は気付けば、凛としておりそのまま話しを続ける。
「それから、私とリッド様の結婚は対外的に見れば政略結婚と思われます。だけど、そうだとしても私は……私の意思でリッド様と結婚したいと思いました。これは『他の誰にも染まらない』私の意思表示でもあるんです」
「ファラ……」
透き通るような優しく、強い雰囲気を出す彼女に僕は思わず言葉を飲んでしまう。
「それに……政略結婚する可哀想な姫と思われたくはありません。私は自ら進んで、リッド様に嫁ぐという意志もあの時身に纏った『黒引き振袖』に込めたんです……ふふ、自己満足ですけどね」
言い終えると同時に、彼女はフッと表情を崩して可愛らしくはにかんだ。
その表情に僕は思わずドキッとしながら彼女に瞳を見つめた。
「そんなことないさ。それに……僕はどちらの意図も凄く嬉しいよ。改めて、僕のところに来てくれてありがとう、ファラ」
「い、いえ、私もお相手がリッド様で本当に嬉しいです」
二人して少し顔を赤らめた後、僕達は互いに照れ笑いを浮かべていた。
それからも少し談笑をしていたけど、夜も更けてきたので僕達は同じベッドに一緒に横になる。
当初、ソファーで僕は寝ると伝えたけど、ファラからそれは駄目だと頑なに言われた結果、根負けしたのだ。
ドキドキしながら、ベッドで横になっているとファラから小声で話しかけられる。
「リッド様、もう寝られましたか」
「い、いや。まだだけど、どうしたの?」
体を横にして隣に寝ているファラに視線を移す。
すると、彼女の顔が目の前にあってドキリとする。
ファラも少し緊張している様子だけど、そのまま小声で恐る恐ると続けた。
「その、良ければ手を握ってもよろしいでしょうか」
「う、うん」
そう言うと、ベッドの中で僕達は手を繋いだ。
彼女の手は暖かく、とても優しいものを感じる。
手を繋いだ後、二人で互いの瞳を見つめ合った後、同時に笑みを溢す。
それから間もなく、思ったよりも神前式と披露宴で疲れていたのだろう。
僕達は一緒に眠りに落ちていくのであった。
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閲覧には注意してください。
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