第303話 リッドとファラの式当日
「リッド様、立派なお姿でございます」
「そ、そうかな。着つけしてくれてありがとう、ダリア」
今日はいよいよ式当日であり、僕はいま本丸御殿でダークエルフのダリアという女性に袴の着付けをしてもらっていた。
着付けを行っている部屋の中には護衛を兼ねて、カペラも待機。
父上とメルは別の部屋で僕の着つけが終わるのを待ってくれている。
その時ダリアが、僕の言葉を聞いてスッと会釈を行った後、話を続けた。
「いえいえ、とんでもないことでございます。リッド様とファラ王女の神前式における着つけをお手伝い出来た事、私こそ大変光栄でございます。さぁ、宜しければそちらの鏡でご確認下さい」
彼女の言葉に頷くと、僕は部屋の中にある鏡で自身の恰好を確認する。
軽く体を動かしてもみるけど問題はなさそう。
だけど、改めて見ると前世の記憶で言うところの『七五三』みたいな感じだなぁ。
用意された袴を改めて良く見ると、細かい刺繍も施されている職人がしっかり作り込んだという印象がする。
「うん……問題なさそうだね。カペラから見てどうかな」
「とてもお似合いでございます。全く問題ないかと存じます」
「ふふ、そっか。ありがとう」
カペラは言い終えると、少し微笑みを見せながら会釈を行う。
僕達のやり取りが終えると、ダリアが笑みを浮かべた。
「リッド様、着つけは終わりましたが、何か気になる点があればいつでも仰ってください。それからこの後は、ライナー様とメルディ様のお二人が待つお部屋に係の者がご案内致します。恐れ入りますが、そちらでファラ王女様の準備が終わるまで少々お待ちください」
「わかりました、改めて着付けをして頂きありがとうございました」
こうして着つけが終わった僕はカペラと共に、係の人に案内され父上とメルが待つ部屋に移動する。
◇
父上とメルの二人が待つ部屋に袴姿の僕が入ると、待っていた皆からもてはやされた。
「なんどみても、はかますがたのにいさまはかっこいいね」
「うむ。なかなか様になっているな」
メルの言葉に父上が頷くと、二人の側で控えていたディアナが続く。
「レナルーテの衣装は帝国とはまた違う、雰囲気と品があって良いですね。リッド様、良くお似合いでございます」
「はい。僭越ながら私もそう思います」
ダナエも笑みを浮かべて頷いてくれている。
その時、父上の近くに座っていたクリスが僕に視線を向けると、そのまま会釈した。
「リッド様の晴れ姿、大変お似合いです」
「あはは。皆、ありがとう」
照れ笑いをしながら感想くれた皆に僕はお礼を伝えると、笑みを浮かべていたクリスがバツの悪そうな表情を浮かべた。
「……しかしやっぱり私が、バルディア家の関係者としてここに居るのは場違いじゃないでしょうか」
「そんなことないさ。それに、クリスがバルディア家の関係者として神前式と披露宴に出席してくれれば、レナルーテの華族達に『クリスティ商会』の存在をより強く発信することができるからね」
「ご自身の婚姻に関する事なのに、相変わらず考え方が恐ろしいですね」
クリスは額に手を添えながら軽く首を振っている。
彼女には今回、神前式と披露宴の両方に参加してもらう。
理由は先程の通り、クリスと商会の存在をレナルーテ国内に置いても確固たるものにする為だ。
前回の訪問でエリアス王の後ろ盾はあるけれど、それをより知らしめると言えば良いだろうか。
レナルーテ王族とバルディア家にパイプを持つ商会となれば、クリスに手を出そうという輩はまず居なくなるだろう。
帝都の中央貴族とかになるとまだわからないけどね。
それからしばらくの間、部屋の中で談笑を楽しんだ。
やがて部屋がノックされ、クロスが部屋の前で要件を確認すると僕に視線を向ける。
「リッド様、ファラ王女様の準備が出来たそうです」
「わかった。すぐに行くよ」
そう言うと、僕は談笑を楽しんでいた席から立ち上がると、その場にいる皆を見回す。
最後にメルと父上に視線を向けて微笑んだ。
「では、行って参ります」
「うむ」
「にいさま、いってらっしゃい」
二人の笑顔に後押しされた僕は、カペラを連れてファラの待つ部屋に移動する。
やがて部屋の前に辿り着くと、深呼吸してから部屋の中にいるだろうファラに声を掛けた。
「ファラ王女、入ってもよろしいでしょうか」
「はい、どうぞお入りになって下さい」
彼女の答えを聞いた僕はスッと、襖を開けて部屋の中に静かに入室する。
そこには、白無垢を身に纏ったファラがすらりと立っていた。
事前準備の時に彼女が白無垢を纏った姿は見ていたけど、今日のファラはその時よりも綺麗だ。
思わず見惚れしまい、立ち止まっているとファラが視線をこちらに向ける。
「リッド様、どうかされましたか?」
「え……⁉ あ、いや、ごめん。あはは、また見惚れちゃってね」
思ったことをそのまま言葉にした僕は、「あ……」と呟くと同時に顔が赤くなるのを感じた。
彼女はそんな僕の様子にきょとんとした表情を見せている。
しかしファラは間もなくハッとすると、顔を赤らめ耳を少し動かしながら嬉しそうに微笑んだ。
「あ、ありがとうございます。ですが、見惚れたのは私も一緒です。ふふ」
「あはは、そう言ってくれると嬉しいよ。ありがとう」
照れ隠しのように笑いながら、改めて僕はファラに視線を向ける。
彼女は準備の時にはしていなかった軽い化粧もしているようで、本当に綺麗だ。
その時、僕達のやりとりを見ていたダークエルフのダリアの声が辺りに響く。
「ファラ王女様、リッド様。準備も整いました故、それでは神前式の場に移動致しましょう」
「承知しました……では参りましょう。ファラ王女」
「はい、リッド様」
事前の段取りと準備の通り、僕とファラは本丸御殿から神前式を行う場に移動を開始するのであった。
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