第三章
第248話 歯車が回り始める、リッドの事業計画
「うん。皆、大分良い感じになってきているね」
「そうですね。獣人の子供達も予想以上に頑張っております」
僕が執務室の机に座りながら、獣人族の子供達の成長報告書に目を通しながら呟いた言葉に、ディアナが嬉しそうに頷いた。
獣人の子供達を受け入れてから、約二ヶ月が経過している。
当初はここでの生活に加えて、毎日行われる礼儀作法、言葉遣い、勉学、魔法、武術訓練等の多岐わたる授業内容に子供達は四苦八苦していた。
だけど、必死に取り組んでくれたおかげで、その結果は目覚ましい勢いで彼らの成長に現れている。
魔法に関しては皆ある程度使えるようになってくれた。
これは、ほぼ皆に施した『魔力変換強制自覚』による効果と、サンドラ達と僕で作り上げた『魔法教育課程』の賜物だろう。
武術においては特に成長が著しく、時折僕の一対多の稽古相手になってもらったりすることもあるぐらいだ。
ちなみに相手は、兎人族のオヴェリア、アルマ。
狼人族のシェリル。
熊人族のカルア。
猫人族のミア、レディ。
馬人族のアリスやディオと言った面々が多い。
彼らはクロスが受け持つ、特に身体能力が高いと判断されている子達だ。
教師役のクロスからも「彼らの将来が、非常に楽しみです」と太鼓判を押されている。
このままいけば、魔法と武術の練度から言っても、バルディア第二騎士団の設立の時期も前倒しできるかもしれない。
僕の期待は高まるばかりだ。
なお、獣人族の子供達は鉢巻戦以降、僕達に対する態度は明らかに変わっている。
それは恐らく、兎人族のオヴェリアが以前語っていた『獣人族を導く存在』として、僕のことを彼らが認めたくれたということだろう。
父上からお灸を据えられ、様々な意見をもらったけれど、鉢巻戦は開催して本当に良かった。
手元にある子供達の成長報告書を眺めながら、僕は改めてそう思う。
あの時、彼らの挑戦を受けなければここまで順調にことは進まなかったはずだ。
そして、机にはもう一通の報告書がある。
これは、先日エレンから届いた分だ。
僕は子供達の成長報告書を置いて、代わりにこちらを手に取った。
そして、ニコリと微笑み期待に胸を躍らせる。
「ふふ、それにしても、エレンからは木炭車完成しそうという報告。あと、アレックスにお願いしていたものも同時期に試作品が完成するなんて思わなかったよ。無茶ぶりだと思ったけど、案外そうでもなかったみたいだね」
言い終えると、同時に隣にいたディアナが少し首を傾げながら僕に疑問を問い掛ける。
「リッド様、木炭車は以前から伺っておりましたが、アレックスさんにお願いしていたものとはなんなのでしょうか?」
「それはね……」
彼女の問い掛けに答えようとしたその時、ドアがノックされ低い声と可愛らしい声が響く。
返事をすると、カペラとメルディが入室してきた。
二人は僕に視線を向けると、カペラは一礼して、メルは頬を膨らませた。
「リッド様、メルディ様とダナエ様がお見えになりましたので、お連れ致しました」
「にいさま、そろそろ、あかちゃんみにいこうよ‼」
「あ、そうだね。じゃあ、そろそろ会いに行こうか。カペラ、悪いけど後の事務処理はお願いね」
メルに答えると、途中で僕は視線をカペラに向ける。
彼は僕の問い掛けに会釈をしながら「畏まりました」と呟いた。
その後、机の上にあった書類を片付けると、メル、ディアナ、ダナエと共に、僕は宿舎から目的地に向かって出発するのであった。
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