第243話 バルディア研究開発部

獣人の子達に魔法訓練と武術訓練を行い始めて数日後。


僕は、大会議室に狐人族、猿人族の皆に集まってもらった。


人数にして約四八名いるから中々の数である。そんな彼らを前にして僕はニコリと微笑む。


「さて早速、君達に集まってもらった理由を伝えるね。実はバルディア領においてこの度、武具及び日用品など全般的な物を作っていく、研究開発部を発足することになりました。君達、狐人族と猿人族の皆はとてもモノづくりの才能に溢れていると聞いているから是非、それをこの部署で活かしてほしい」


僕の言葉を聞いた子供達は、キョトンとした表情を浮かべている。


その中、おずおずと狐人族のノワールが挙手をした。


「リッド様、よろしいでしょうか?」


「うん、何かな、ノワール」


「その……研究開発部ということは、私達は実力的に『戦力外』ということになるのでしょうか……?」


彼女は自信なさげに呟くと、少し俯いた。


他の子達も同様で何やらしょんぼりとした面持ちを見せている。


僕は、彼らに優しく諭すように話を続けた。


「それは違うよ。さっきも言ったけど、君達には物づくりの才能に溢れているからそれを活かして欲しい。正直に言えば、戦うだけの力より、今後のバルディア領の発展の為には一番重要な『力』の部分になると思う。これは、他の皆には出来ない、恐らく君達だけに出来ることだから、決して『戦力外』なんかじゃないよ」


「わ、私達がですか? でも、戦わない獣人なんて……本当にお役に立てるのでしょうか」


ノワールの言葉に、他の子供達も何やら頷いている。


どうやら、獣人国にある弱肉強食という部分の考え方がいまだ根強く、『戦わない=戦力外』という認識が強いみたいだ。


確かに、力だけを求める獣人国の世界であればそうかもしれない。


でも、僕が目指すところはそこではないし、むしろ彼らの才能を無駄に国外に流出させる行為は、国として失策だろう。


僕はこの場にいる皆を見渡すと、力強く言葉を紡ぐ。


「そんなことはないさ。むしろ、僕は君達にしかできないと思っているよ。それに、君達が自分を信じることが出来なくても、僕は君達が出来るって信じているからさ」


その時、猿人族の子が挙手をしたので、僕はその子に視線を向けた。


「君は確か……トーマだったね。何か気になる事でもあったかな」


僕の問い掛けに、彼は力強い眼差しでおもむろに言葉を紡ぐ。


「俺は……故郷でガラクタを集めて、色んな物を自作していた。それを売ることで、妹と何とか生活していたんだ。でも、結局、ものが作れても戦える力がなきゃ認められず、捕まって奴隷の頭数に売りに出された。リッド様は、その……物づくりも一つの『力』として認めてくれるってことで良いのか?」


トーマは話す途中で悔しそうな面持ちを浮かべ、僕に確認するように尋ねてきた。


そんな彼の言葉に僕は首を縦に振り、答える。


「その通りだね。僕は『戦える力』がすべてなんて思っていないよ。それに、弱肉強食なんて考え方は馬鹿らしいからやめよう。どんなに力があっても、人は人の力を借りなければ生きていけないんだ。それを忘れて、他人を弱者と虐げて、自分だけの力で生きていると思うなんて愚の骨頂だよ」


僕がここまで弱肉強食の考えをはっきりと否定すると思っていなかったのか、子供達はまた唖然とした表情を見せている。


しかし、僕の答えを聞いた猿人族のトーマは目を輝かせた。


「はは、リッド様。あんたは最高だよ。俺自身、リッド様のいう才能が本当にあるかわからない。でも、やるだけのことはさせて頂きます」


「ありがとう、トーマの言葉、とても心強いよ。あと、トーマだけじゃない。僕は皆に期待しているから、よろしくね」


再度、皆に語り掛けながら見渡すと、皆の顔色がみるみるうちに自信の溢れた顔つきになっていく。


合わせて僕は、この場にいるドワーフのエレンに視線を向けた。


「じゃあ、お次は研究開発部の部長で、君達の先生ともなるエレンを紹介するね」


彼女は僕に紹介され、照れ笑いを浮かべながら前に出てくると子供達を見渡して咳払いをする。


「えー、僕がいまリッド様のご紹介に預かりましたドワーフのエレン・ヴァルターです。でも、皆さん、覚悟してください。開発部はいま人手不足です。そして、リッド様の無茶ぶりに一番振り回される、恐らくバルディア領で一番大変なところです」


「……エレン、その言い方は酷いんじゃない?」


僕は思わず彼女の言葉に突っ込んでしまった。


確かに無茶ぶりをしている自覚はあるけどさ。


しかし、彼女は楽し気な笑みを浮かべて話を続けていく。


「あはは、でも本当のことですからね。しかしその分、やりがいはあります。皆さんの属性素質を鑑定した装置。あれも、リッド様の発案による無茶ぶりで私達が創ったものですからね。何度でも言います。リッド様の無茶ぶりを皆さんも覚悟して楽しんでください」


エレンは言い終えるとニコリと子供達に微笑んだ。


彼女の言葉と雰囲気に、子供達は笑みを浮かべたり、苦笑したりと明るくなっている。


僕は少し決まり悪い顔を浮かべて咳払いしてから、子供達を見渡した。


「えー、そういうわけなので明日から君達は、武術と魔法の訓練が終わり次第、研究開発部の工房に移動。そこで、エレン達の業務を手伝ってもらうからよろしくね」


その後、子供達に明日からの動きなどをエレンが説明。


工房においては製炭作業もあるので、その点の話もしていく。


やがて、説明も終わりこの場は解散となる。


その中、ノワールとラガードが僕に駆け寄ってきた。


「二人共、どうしたの。何か気になることがあった?」


「あの……私とラガードだけは、今まで通り武術と魔法訓練を中心にして頂けないでしょうか」

「俺からもお願いします。俺、もっと強くなりたいんです……‼」


二人は思いのほか必死の形相を浮かべており、何やら考えがありそうな印象を受ける。


僕は、思案顔を浮かべたのち、二人に問い掛けた。


「それはいいけど、良ければ理由を教えて欲しいかな」


「そ……それは、失礼ながらいまはまだ……でも、お願いします。私、強くなりたいんです‼」


「俺もノワールを守れる強さが欲しいんです‼」


どうやら、理由はあるようだけど今は言えないらしい。


しかし、二人の様子から察するにそれ相応の思いがありそうだ。


それに、強くなってもらうことは無意味にはならないだろう。


「わかった。だけど、いつか理由は聞かせてもらうよ」


「……‼ はい、ありがとうございます‼」


「ありがとうございます‼」


ノワールとラガードは、僕の答えに満面の笑みを浮かべながら、目には決意の灯を宿している。


彼らの何がそこまでの強さを求めるのか? 気にはなったけど、これ以上の詮索はしなかった。


こうして、狐人族と猿人族がエレンとアレックスの下で研究開発部の一員となり、動き始めることになる。


そして、熱烈に希望した狐人族や猿人族の一部の子達だけは、継続して魔法と武術訓練を中心にすることになるのであった。





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