第214話 宿舎の生活規則と執務室

「さて、僕からの話は以上だね。後はメイド長からここでの暮らしについて説明があるから、ちゃんと聞いて守るようにすること。もし、守らずにメイドの皆に迷惑を掛けたら……ご飯抜きです」


獣人の子達はよっぽどここでの食事を気に入ってくれたのか、『ご飯抜き』という僕の言葉を聞いた瞬間、今日一番のどよめきを響かせる。


様々な表情をしている皆に苦笑しながら、僕はメイド長のマリエッタに宿舎での生活規則について説明をお願いした。


彼女は僕に一礼すると、正面に立ち宿舎での過ごし方などの説明を始める。


「私は、メイド長のマリエッタだ。今からリッド様に代わり宿舎での生活について説明する。ちなみに、私はリッド様のように甘くないぞ。暴言を吐こうものなら、即飯抜きだ。心して聞くように」


マリエッタは、ぱっと見は小柄で小さいけど、眼つきは鋭く独特な迫力がある。


『即飯抜き』という言葉は相当強力だったようで、獣人の子達は彼女の説明を大人しく聞いているようだ。


メイド長は副メイド長のフラウや宿舎の管理をしていくレオナ、マーシオ。


補佐をしていくニーナを紹介していく。


彼女達は獣人の子達を湯浴みさせたりもしていたので、特に怯えた様子もなく礼儀正しく、獣人の子達に自己紹介をしていく。


彼女達が説明する様子を横目で見ながら、ディアナやカペラが立つ場所に僕が戻ると、皆は呆れ顔で迎える。


その中、代表するようにディアナが話しかけてきた。


「リッド様、あの子達に立場を認めさせる為とはいえ、お遊びが過ぎます」


「あはは、ごめんね。でも、彼らは今まで『弱肉強食』の世界に居たから、多分この形が一番わかりやすいと思うんだ。それに……彼女達から言質も取れたしね」


ディアナに答えると、視線を『彼女達』、オヴェリアやミア達に向けた。


彼女達も僕の視線に気付いたようで、そっぽを向いたり、ニヤニヤしたりと様々な反応を見せている。


しかし、良く周りを見渡すと僕に視線を向けているのは彼女達だけではない。


獣人族の子達で特に魔力数値の高いと思われる子達が一様に、視線を僕に向けているようだ。


「ふふ、思った以上に色んな子が僕に興味を持ってくれているみたいだね」


僕が笑みを浮かべて呟く姿に、ディアナ、カペラ、クリス、エマ達は呆れ顔を浮かべてため息を吐いていた。


なお、宿舎での生活規則は結構しっかり作ったので、獣人の皆は慣れるまで大変かもしれない。


ちなみにこんな感じだ。


生活規則


①起床

②清掃

③運動

④朝御飯

⑤授業

⑥昼ご飯

⑦授業

⑧清掃

⑨運動

⑩晩御飯

⑪自由時間

⑫お風呂

⑬就寝


以上。


言ってしまえば学生寮みたいなイメージだろうか? 授業に関しては魔法からマナーまで様々な事を学んでもらう予定だ。


マリエッタの生活規則の説明が終わると、僕は補足説明の為に挙手をしてから口を開いた。


「いま、メイド達から説明のあった授業を本格的にしていくのは『鉢巻戦』の後になるけど、明日から、様々なマナーに関しての授業だけはすぐに始めるからそのつもりでいてね」


僕の発言を聞いた獣人族の子達は、明らかに嫌そうな表情を浮かべている。


まぁ、彼らからすれば今まで無縁のものだったのだ。嫌がるのも無理はないだろう。


僕が言い終えると、マリエッタが咳払いをして獣人の子達の注目を集める。


「では、説明は以上で終わりだ。これから、君達が過ごすお部屋に案内する。男子は二階、女子は三階だ。部族ごとに案内していくから、私達が声をかけるまで大人しくするように」


彼女が言い終えると、副メイド長のフラウをはじめとしたメイド達が獣人の子達を部屋に案内を開始する。


僕はその様子を確かめてから宿舎の執務室にディアナ達と移動するのであった。



宿舎の執務室に辿り着くと、クリスとエマの二人にソファーに座るように促す。


僕も彼女達と対面上になるようにソファーに腰を降ろすと同時に呟いた。


「いやぁ、とりあえず一通りの作業が無事に終わったね」


「そうですね。作業は無事に終わりましたけど……リッド様、本当に『鉢巻戦』をするおつもりなんですか? 彼らは見た目以上に強いと思いますが……大丈夫なのでしょうか?」


「クリス様の言う通りです。獣人の子供は人族の子供よりただでさえ身体能力が高いんです。その上、弱肉強食を信条とする世界で生き抜いてきた子達は、リッド様の想像以上の強さを秘めているとはずです。僭越ながら、あまり油断すると痛い目を見るかと存じます」


クリスが心配そうに答えて、それに続くように真剣な面持ちで、エマが補足するように追随する。


僕は彼女達の言葉に微笑んだ。


「クリスにエマも、心配してくれてありがとう。でも、彼らに本当の意味で協力してもらう為には……多分、避けては通れない道だよ。大丈夫、僕も意外と強いからね。でしょ、二人共」


クリス達に答えながら僕は視線を、ディアナとカペラに向ける。


二人は顔を見合せると、少し俯いて首を軽く横に振った。


「リッド様の実力は確かです。ですが、獣人の子供達が侮れないのも確かです。油断は禁物です」


「カペラさんの仰る通りですし、勝負は時の運もございます。獣人族の子達を全員一度に相手にするとなれば、何か起きるかわかりません」


「あら……二人共、思いのほか心配しているんだね」


僕の実力を知っている二人なら、前向きに捉えてくれると思ったけど違ったみたい。


ひょっとして、先走り過ぎたかな? と思ったその時、執務室のドアがノックされたので、返事をするとダイナスを筆頭にクロスとルーベンスが入室してきた。


そして、ダイナスは僕に視線を向けるとニカっと微笑んだ。


「リッド様、獣人族の子達を一度に全員相手にするとは実に豪気な事を考えますな。それでこそ、ライナー様のご子息です。試合当日の審判は私達三名ほか、騎士達にお任せ下さい」


「あ、うん。お願いしていいかな。ちなみに……ダイナス達は今回の『鉢巻戦』についてはどう思う?」


彼は一瞬、きょとんとするが、すぐに豪快に笑いながら答えた。


「先程言った通り、豪気で大変結構でございます。彼らは、言葉で伝えても納得できない部分も多いでしょう。遅かれ早かれ、このような機会は必要だったのです。私は大いに賛成です。クロス、お前はどうだ」


「僭越ながら、私も賛成です。彼らも此処の待遇が素晴らしいことはわかっているでしょう。ですが、それでも奴隷となってしまったこと。そして、新たな道を進むことに納得する理由を欲していると思います。その中で、リッド様が彼らの土俵に立ち、胸を貸すことは良い機会になると存じます。あと、私がお教えした『鉢巻戦』を採用して頂き光栄でした」


クロスが言い終えると、ルーベンスが続くように畏まった面持ちで発言する。


「私も、ダイナス団長とクロス副団長と同意見です。彼らが奴隷落ちしたということは国や家族、あるいは仲間に裏切られたと言っても良いでしょう。そのやり場のない気持ちをリッド様が受け止め、断ち切ることが出来れば彼らは素晴らしい力を発揮してくれるはずです」


僕はダイナスから順番に視線を移すと、頷いてから呟いた。


「……わかった。三人共、ありがとう。じゃあ……改めて当日の審判はよろしくね」


三人の答えを聞いたおかげで、僕の覚悟も改めて決まった。


三人の言う通り、彼らにやりきれない思いがあるなら、僕が出来る限り受け止めてみよう。


勿論、負けるつもりもないけどね。


すると、ダイナスが畏まった面持ちを浮かべた。


「リッド様、改めて受け入れ作業が終わった事をご報告いたします。騎士団は、宿舎を見張る者を残して解散致しますがよろしいでしょうか?」


「そうだね、指示が遅くなってごめん。ダイナス団長、クロス副団長、それにルーベンス。改めて、今回の件は本当に対応ありがとう」


「とんでもございません。私どもはバルディア騎士団に属するものですから、当然の事です。では、騎士団は解散致します。後、私はライナー様に報告がありますので、これにて失礼致します」


彼は、言い終えると同時に僕に一礼してから部屋を出て行く。


クロスとルーベンスもダイナスを追随するが、ルーベンスは出ていく時に何やらディアナを一瞥してから出て行った。


その視線は、誰が見ても『また、後で』である。


ディアナはその視線に対して、俯いて『やれやれ』と首を横に振っていた。


ダイナス達が出て行くと、エマが意味深な視線をディアナに向ける。


「ディアナ様はルーベンス様とお付き合いされているんですよね。ご結婚はされないんですか?」


「ちょっと、エマ⁉」


エマの爆弾発言? に思わずクリスが血相を変えるが、ディアナは息を吐いて呟いた。


「ふぅ……今の所、まだ考えてはおりません。私とルーベンスは、リッド様に近い位置を任されておりますので」


「そうなんですね。ちなみに、カペラ様はどうなんですか?」


「エマ⁉ いいかげんに……」


意外にエマはこの手の話が好きなようで、ニンマリ顔でカペラにも尋ねる。


クリスが止めようとするが、その前にカペラが平然と答えた。


「私は、昔気になる幼馴染と同僚がおりましたね。ですが、二人共結婚して今では子供もおります」


カペラは無表情で淡々と気にも留めない様子で話すが、周りは彼の思いもよらない発言で目を丸くする。


しかし、気になった幼馴染が居たと以前聞いていたけど『同僚』の話は聞いた事が無い。


僕は思った事をそのまま問い掛けてしまった。


「あれ? 以前、幼馴染だけって言ってなかった?」


「良く覚えておいででしたね。確かに、幼馴染の事はお伝えしましたが、同僚の事はお話しておりませんでした。ですが、流石にこれ以上は恥ずかしいので、この話は終わりにしましょう」


彼はそう言うと、口を閉ざしてしまう。


その後、気になった様子のディアナ達三人から色々聞かれるも、カペラは一貫して答えなかった。





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