第135話 ライナー、バルディア領に帰還
その日、ライナーはようやくバルディア領に帰って来た。
レナルーテであった出来事に加えて、リッドとファラの婚姻についてなど、帝都で数多ある報告業務はさすがの彼でも疲れた。
だが、ライナーの顔色は明るい。
皇帝のアーウィンにリッドとファラの婚姻の件を伝えて無事に承諾をされたからだ。
レナルーテでのリッドとファラの純愛模様はとても微笑ましいものだった。
当初は政略結婚から始まった二人だが、両想いになれたのであれば結果的には良縁だ。
ライナーはふと、帝都で行ったアーウィンとのやりとりを思い出した。
「合い分かった。バルディア領の屋敷建造が終わり、ファラ王女を迎えた時点で婚姻を認めよう。ただ、書類上では手続きを先に進めておく。それでよいな?」
「ご配慮、感謝致します。皇帝陛下」
あの言葉を貴族達の前でアーウィンからもらえた以上、横やりも無いだろう。
ライナーは、ふと馬車の外に目をやった。
そして、違和感を覚えた。
「……なんだ、あの巨木は……? あんな巨木は屋敷の近くになかったはずだが……?」
ライナーは何となく息子の事が脳裏に浮かんだ。
しかし、さすがに巨木を出現させることなど出来るはずがないと、首を横に小さく振り一言呟いた。
「ふぅ……少し疲れているな……」
ライナーは呟いたあと、屋敷に着くまで少しの間だけ仮眠をとることにした。
◇
ライナーが屋敷に着いて馬車を降りると、どうしても屋敷の向こう側に聳え立つ巨木が目に入る。
あれはなんなのだろうか? 嫌な予感が脳裏から離れない。
ライナーは確認するように、近くにいたガルンに話しかけた。
「……ガルン、あの巨木はなんだ? 帝都に行く前にはあのような巨木は無かったと思うが……?」
「あれは、私共も首を傾げております。ある日突然、屋敷の裏に生えまして……何事かと駆け付けましたら、その場にはリッド様とサンドラ様のお二人がおりました。詳細はわかりませんが……まぁそういうことかと判断致しました」
「……なん……だと?」
ガルンの言葉にライナーは愕然とした。
あの、巨木を息子が生やしたというのか? どうやって?
そんな方法や手段を彼は聞いた事も見たことも無い。
ライナーが茫然としているとガルンが咳払い
をして、付け加えるように言った。
「ゴホン……お二人とも、巨木は安全だと仰った上に、石鹸の代用品となる不思議な実を落とすので、今では重宝しております。メイドや屋敷の者達、皆結果的は喜んでおりますゆえ、そのままにしております」
「はぁ……わかった。他に変わったことはあるか?」
ライナーは額に手を当てながら、呆れた様子でため息を吐いていた。
ガルンそんな彼に、申し訳なさそうに伝えた。
「あと、クッキー様が『温泉』を掘り当てました」
「なに、温泉……だと? そんなもの、どこに掘り当てたのだ?」
ライナーは表情を厳格にしているが、発する言葉には信じられないという感情が混ざっている。
ガルンは再度、咳払いをして答えた。
「ゴホン……あの巨木の近くでございます」
「……温泉と、石鹸の代用になる実を落とす巨木の組み合わせだと? はぁ……わかった。執務室に行く。リッドを呼んで来い」
「はい、承知致しました」
ライナーは内心、どっと疲れたが表情には出さず落ち着いた様子で執務室に向かうのであった。
◇
「リッド様、ライナー様が執務室でお呼びでございます」
「父上が? わかった、すぐに行くね」
「えぇえ⁉ にーちゃま、またいっちゃうの? まえも、えほんのとちゅうでよばれたでしょ? もう‼ ちちうえきらい‼」
今日は、久しぶりに書斎でメルに絵本と読んでいたところだ。
クッキーとビスケットも絵本に興味があるようで、ずっとメルと一緒に僕が呼んでいるのを聞いていた。
そんな時に、書斎がノックされ返事をすると入って来たのはガルンだった。
彼の言葉に僕が返事をしたことで、メルは頬を膨らませて「むぅ」となっている。
「メル、そんなこと言っちゃダメだよ? 父上は帝都でお仕事頑張っていたのだよ? また、絵本を読んであげるから、ね?」
「むぅ……にーちゃま、やくそくだからね?」
「うん、やくそくだね」
僕はメルと約束をすると、書斎から執務室にガルンと一緒に向かった。
書斎に残ったメルはダナエが僕の代わりに絵本を読んでくれている。
向かう途中で僕はハッとして、ガルンに言った。
「ガルン、ごめん。自室に父上に見せたい書類があるから、それを取って来るね」
「承知致しました。ライナー様にはその旨をお伝えしておきます」
「うん、よろしく‼」
僕はガルンに軽く謝るとすぐに自室に向かった。
父上に見せたい書類、それはクリスにも目を通してもらった事業計画書だ。
部屋に戻ると僕は書類を取り出すして、何度も確認はしているが最後にもう一度目を通した。
「よし……‼ これなら、父上も納得してくれるはずだ……‼」
僕は一人、呟くと父上が待っている執務室に急いで向かった。
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