第125話 リッド、諜報機関について質問する
「カペラ、君の所属していた組織と君の使う魔法について教えて欲しいのだけど」
「リッド様、いきなり何を仰っているのですか……?」
僕はカペラを自室に呼ぶと、ディアナに退室してもらった、今はカペラと机を挟んで二人だけで向き合ってソファーに座っている。
ディアナに退室をお願いした時は凄く渋い顔はされたが「大丈夫、何かあったら悲鳴を上げるから」伝えて渋々出て行ってもらった。
こうして、カペラと二人だけで話すのは初めてかな?
そして、先程カペラに一番重要な要件を伝えたところだ。
だが、彼は無表情だが、何やら困った雰囲気を出している。
「うん? 大分、直球を投げたつもりだったのだけどな。ザック・リバートンが……というか恐らく、リバートン家が管理している秘密……」
「いえ、もう大丈夫です。わかりました、何がお知りになりたいのでしょうか?」
カペラは呆れたような、観念した雰囲気を出して返事をしてくれた。
正直、僕は彼らの組織について、すべてを知っているわけではない。
レナルーテであった出来事、そして、彼が「ときレラ!」にも存在していた時のキャラ性から考察した結果だ。
ただ、ちょっと気になる、何故こんなにも早く彼は観念したのだろうか?
僕はニコリと笑顔になると、彼に言った。
「全部だね。今、カペラがすぐに話そうとした理由から、ザックが管理している組織の成り立ちからすべて。これは、お願いじゃない『命令』だよ?」
「ふぅ……わかりました。私はリッド様の従者です。『聞かれたこと』はすべて話しましょう」
彼は言い終えると僕の笑顔に対して、ぎこちない笑顔を返してきた。
もしかしたら、ザックから僕に聞かれた時の事も何かしら指示をうけているのかもしれない。
ちなみに、彼の笑顔はガルンの指導のおかげか少しマシになっているような気がした。
毎回この顔を見るとなると、僕はそのうち意図せずに腹筋が割れてしまうかもしれない。
カペラは僕に話す前に、少し考え込むような素振りを見せてから、おもむろに口を開いた。
「……よろしければ、ディアナ様にも立ち会って頂きたいのですがよろしいでしょうか?」
「え? いいの?」
「はい。ディアナさんは私の同僚ですから……出来る限り、情報は共有しておくべきでしょう」
カペラは無表情のまま淡々と言った。
僕はその言葉に頷くと、部屋の外で待機しているディアナの声をかけた。
状況を説明して彼女には僕の横に座ってもらい、一緒にカペラの話を聞くことになった。
「……カペラさん、このようなことで私が心を許すとお思いですか?」
「いえいえ、ディアナさんは同僚ですので情報共有したいだけです。それに、ディアナ様が心をお許しになっているのはルーベンス様だけで良いでしょう」
ディアナは恐らく牽制するつもりの言葉だったのだろう。
だが、カペラは言葉巧みにその牽制球を投げ返した。
彼がここでニコリとした笑顔なら面白いかもしれないが、無表情だから直球ド真ん中って感じの言葉になっている。
「な……⁉」
「フフ、これは。一本取られたね。確かにディアナが『心』を許すのは、ルーベンスだけだね」
「リッド様‼」
ディアナが珍しく顔を赤らめながら怒っている。
うん、なんだかんだ二人は良いコンビになりそうだ。
元騎士団の凄腕メイドと元暗部の凄腕執事か。
これほど頼りになりそうな従者も中々いないかもしれない。
そう思いながら僕は咳払いをした。
「ゴホン……じゃあ、そろそろ聞かせてもらえるかな? カペラ」
「……承知致しました。私が知る限りの事はすべてお話致します」
カペラは言葉通り、レナルーテの暗部組織「忍衆」について教えてくれた。
レナルーテにも軍はあるが、ダークエルフの出生率の低さから消耗戦をすることは出来ない。
軍は強力だが敗れれば、国の存続に関りかねない「虎の子」である。
レナルーテでその問題点を解決する為に、昔から暗殺や謀略を駆使するようになった。
開戦前に勝敗を決せれるような動きが国としての戦略となりその結果、生まれたのが「忍衆」だという。
軍や孤児など、様々な所から優秀な人材をかき集めた上に、特殊訓練を施して作られた組織である。
忍衆の存在意義は国の持続である為、レナルーテの歴史上に愚鈍な王族が居た場合、粛清することもあったそうだ。
僕は息を呑んだ。
「王族すら粛清するとは、徹底しているね……レイシスは大丈夫そうかい?」
「レイシス王子はノリスにより歪められておりましたが、リッド様が性根を叩き治して下さいましたので大丈夫ではないでしょうか? まぁ、いざとなれば頭目と陛下が『矯正』に動くでしょう」
カペラは無表情で淡々というので、より言葉が辛辣に聞こえてしまう気がする。
ザックとエリアスによる「矯正」か。
想像するだけで恐ろしい。
特にザックは笑顔を浮かべながら行いそうだ。
「レイシス王子、頑張れ‼ 君なら多分出来るはずだ……」と心の中で呟いた。
その時、ディアナが疑問を抱いたようでカペラに尋ねた。
「レイシス王子がノリスに歪められたということですが、何故、それを放置していたのですか?」
「……それは……『ディアナさん』からの質問だとお答え致しかねます」
「な……⁉」
カペラはディアナの質問にわざとらしく、返事を拒否して僕にちらりと視線を送った。
その様子にディアナは当然気付いており、ハッとしてわなわなと怒りに震えている。
恐らく、カペラなりの悪ふざけなのだろうが、宥める僕の立場も考えて欲しい。
僕は、呆れたようにカペラに言った。
「はぁ……カペラ、『僕に聞かれたことだけ』に答えるという事かもしれないけど、ディアナにも話を聞いて欲しいと言ったのは君でしょ? それとも何か意図があるのかな? それなら、あえて言わせてもらうけど、ディアナが君に聞くことは僕同様にすべて話す事。これも『命令』だからね」
「リッド様、さすがでございます。承知致しました。今後はディアナ様のご質問にもお答え致します。ディアナ様、先程は失礼致しました」
カペラはディアナにも話すように僕に命令して欲しかったようだ。
彼の中に何かしら特別なルールがあるのかも知れない。
カペラは言い終えると、ディアナに握手の手を差し出した。
だが、ディアナはツンして言った。
「……⁉ ふん‼ こんなことで馴れ合いは致しません‼」
「畏まりました。信頼して頂けるよう努力致します」
二人の掛け合いとやりとりを見ていると、やはり良いコンビになりそうだ。
でも、ルーベンスとエレンが見たら何やらショックを受けるかもしれないな。
そんなことを思いながら、僕はカペラに説明の続きをお願いするのだった。
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