第118話 バルディア領 メルディの従者?

「……」


「リッド、大丈夫か? バルディア領にはもう入っているからな。もう少しの辛抱だ」


「……はい、父上。バルディア領に入ってからは少し、揺れが収まった気がします」


レナルーテからバルディア領に帰る道のりはやっぱり大変だった。


ともかく揺れが酷くて酔う。


これに関してはレナルーテに行った後だからこそ、原因が明確にわかる。


商流と流通が少ないせいで、整備にかける予算もないのだろう。


ただ、予算があったとしても技術的に整備が出来るかどうかは少し疑問が残る。


国家間の流通経路は僕の今後に関わる問題になるかもしれない。


屋敷に帰ったら、何かしらいい案を考えよう。


僕はそう思いながら、酔いと戦い続けた。


うぇええ……



「おい、リッド。屋敷に着いたぞ」


「へ……? あ、父上、すみません……」


「気にするな。お前は酔いやすいようだからな。寝ているほうが楽だっただろう。馬車から降りて外の空気を吸いなさい」


僕は父上に言われるがまま、馬車を降りた。


体を「うー……ん」と言いながら伸ばしていると、こちらに小走りで近づいてくる人影に気付いた。


「にーちゃま‼ おかえりなさぁあい‼」


「メル‼ ただいま‼」


メルは走ってくるとその勢いのまま僕の胸に飛び込んできた。


メルは僕の腕の中で「えへへ」と笑っていた。


そんなメルを追いかけて来たメイドがいる。


ダナエだ。


「ハァ…ハァ…メルディ様、そんなに走られては危ないですよ……あ⁉ リッド様、おかえりなさいませ」


「ただいま。ダナエ‼」


良かった。


ダナエもメルディも変わりはないようだ。


屋敷も特に問題はなかったみたい。


「ねぇ~、にーちゃま、おみやげは?」


「え⁉ もう? 今、荷卸しをしているから明日まで待って欲しいかな」


「えぇええ‼」


メルはすぐにお土産がもらえると思っていたらしく、不満げな顔をしている。


その時、後ろの荷馬車から「うわぁああああ⁉」と悲鳴が聞こえて来た。


僕は咄嗟にメルを抱きしめながら、悲鳴が聞こえた馬車に振り向いた。


近くに居た、父上、カペラ、ディアナ、ルーベンス、他の騎士団の面々も身構えた。


そして、荷台からトテトテと出てきたのは見覚えのある魔物達だった。


彼らは「んんん~」と可愛らしい声を出している。


猫サイズぐらいの二匹はゆっくりと警戒しながら、僕に近づいて来た。


彼らを見て僕は思わず声をかけた。


「君達、どうして⁉ 付いてきちゃったの?」


「……なんだ? リッド、お前が連れて来たのか?」


「いえ、彼らはそういうわけではないのですけど……」


父上が大分、お怒りの様子で僕を睨んでいる。


バルディア領に魔物はいないせいか、この場にいる人達は二匹の魔物に対してとても怯えていた。


その中、彼らに対して興味津々で目を輝かせた人物が僕の腕の中にいた。


「か、かわいぃいいい‼ にーちゃま、このこたちがおみやげなの?」


「え⁉ いや、さすがにお土産じゃないよ。レナルーテで少し仲良くなった、賢い魔物達だよ。多分、僕達の言葉も理解しているみたいだから、危険はないと思うけど……」


メルは僕の手の中から抜け出すと、彼らに近づいた。


周りが凄いひやひやしているけど、メルは気にせずに彼らに両手を差し出して話しかけた。


「わたしはね。めるでぃっていうの。よろしくね」


「んん~」と言いながら、魔物の二匹はメルの手に顔をスリスリして懐いている様子だ。


その仕草にメルがパァっと明るくなった。


「にーちゃま、このこたち、わたしにちょうだい‼」


「えぇえ⁉」


僕が驚きの声を出したがメルは本気のようで、今までにないくらい強い眼差しで僕を見ていた。


だが、メルに返事をしたのは僕ではなく父上だった。


「駄目だ‼ 魔物は危険だ‼ メルディ、彼らは小さくても凶暴なのだぞ‼」


「えぇえ? このこたちはだいじょうぶだよ? ほら、こわくない、こわくない」


メルはがそう言いながら魔物の二匹の頭を撫でると彼らは何を思ったか、猫サイズからさらに小さくなり子猫サイズになった。


そして、メルディの手を登ると黒い猫がメルディの肩。


白い猫がメルディの頭の上にちょこんとのった。


「えぇえええ⁉ 君達、そんなに小さくなれるの⁉ メル、大丈夫重くない?」


「うん‼ ぜんぜん、おもくないよ。ほら」


メルは僕の驚きをよそにその場で、両手を広げて楽しそうに笑いながらクルクルと回り始めた。


魔物の子猫達は遊ぶようにメルの両腕の上を走り回っている。


その様子に、僕と父上を含めたその場にいる全員が目を丸くした。


メルはそんな僕達に気付くと、回るのをやめて力強い眼差しで僕と父上を睨みながら言った。


「このこたちはわたしがめんどうみるもん‼ ぜったいだもん‼」


「はぁ……普通は魔物を怖がるのに、不思議な子だ……」


メルの言葉を聞いた父上は、チラッと僕を見てから呟いた。


父上の子供は皆「不思議っ子」とでも言いたいのだろうか? 


少し失礼だな、と思いながらも僕はメルを見た。


恐らくこうなった以上、メルは絶対に折れない。


誰とは言わないがその辺の気質が誰かにとても似ている気がする。


父上もメルの性格をわかっているのだろう。


とても、困っている表情をしていた。


僕は父上の手を引っ張り、小さな声でコソコソと話し合いを始めた。


「父上、彼らの行動から察するに多分、いえ間違いなく僕達の言葉を理解しています。それに、ちょっとやそっとの相手では、彼らには太刀打ちすることも出来ないと思います。メルの従者ではないですけど、護衛にはぴったりだと思いますよ」


「むぅ、しかし、いくらなんでも魔物は……」


父上はとても悩ましい表情していたが、僕は畳みかけるように言った。


「彼らは頭がとても良いです。もし、追い払っても結局戻ってくると思います。それに、メルが隠れて飼うようなことになれば、それこそ管理が大変ですよ? それと……」


「それと……なんだ?」


「父上はメルに嫌われて良いのですか……?」


僕の言葉にハッとして父上はメルを見た。


メルは力強い目で僕達を見ているが、どことなく不安もあるようで少し目が潤んでいる。


父上は諦めた様子で「はぁ……」とため息を吐くと、メルに向き合い優しく伝えた。


「……わかった。メルディ、お前の好きにしなさい。リッドもそれで良いな?」


「え? はい。僕は構いません」


「ほんと⁉ ちちうえ、にーちゃま、ありがとう‼」


メルはとても喜んだ顔をして僕と父上に抱きついた。


僕と父上はそんなメルに微笑んだ。


メルは僕達を抱きしめた後、二匹の魔物をそれぞれ地面に置いてから可愛らしい咳払いをした。


「コホン……くろいこが「クッキー」で、しろいこが「ビスケット」だからね。ちちうえもにーちゃまもいい?」


「え? 良いけど、なんでその名前なの?」


「うーんとね。すきなおかしのなまえからとったの‼ ……あとは、なんとなく‼」


こうして、メルディに新たな従者? 護衛? として、「クッキー」と「ビスケット」が出来たのだった。

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