第111話 リッドの護衛騎士(代役)

「ゴホン……ファラ、話を戻そうか」


「え⁉ は、はい‼ そうですね……」


先程は話の途中でレイシスが入ってきてしまい、エルティアの話から大分逸れてしまった。


話を戻して再開しようとしたその時、兵士の声が部屋に聞こえてきた。


「申し上げます。バルディア騎士団所属の『ネルス』という方が、リッド様の護衛の件で来られております。いかが致しましょう?」


ネルス? はて、誰だろうか? 


バルディア騎士団の皆の顔は残念ながら僕は覚えてきれていない。


ルーベンスとディアナぐらいしか接点がないからだ。


でも、ディアナの代わりとして来たのだろう。


確認をするように僕を見ていたファラに、僕は頷いた。


ファラは僕の頷きを確認すると兵士に返事をして「ネルス」を通してもらった。


間もなく、部屋の外。


恐らく襖の前に来たのだろう。


彼は襖を開けずにまずその場で名乗った。


「恐れ入ります。バルディア騎士団所属、騎士ネルスです。ライナー様より、リッド様の護衛任務の指示を頂きました。つきましては、ファラ王女の部屋に入室させて頂いてもよろしいでしょうか?」


聞こえてきたのは男性の声だ。


この時、僕はハッとした。


そうか、ディアナ以外の騎士は全員男性だ


僕はファラとアスナを見ながら聞いた。


「ごめん、騎士はディアナ以外、男性しかいなかったと思う。入室させても大丈夫かな?」


二人は顔を見合わせてから頷いた。


その後、ファラは襖の奥にいるネルスに向かって言った。


「バルディア騎士団、騎士ネルス、入室を許可致します」


「は‼ それでは、失礼致します」


襖を開けて、入って来た彼の背丈はルーベンスと似ているだろうか? 


髪は茶色で、目の色も青いがその細い目が印象的だった。


彼に僕は見覚えがあった。


レナルーテに来る途中に良くルーベンスやディアナと絡んでいた気がする。


彼は僕にゆっくり近づくと言った。


「先程、お伝えしました通りライナー様より、リッド様護衛任務の指示を頂きました。ディアナが戻るまで、近くに控えさせて頂きます事をお許し下さい」


ネルスは僕達、三人を見渡すと一礼した。


僕は彼におもむろに言葉をかけた。


「わかった。これからよろしくね。それから、そんなに畏まらなくても大丈夫だよ。ルーベンスやディアナと仲が良いのだよね? 時折、絡んでいたのを見ていたよ」


「ありがとうございます。リッド様にそう言って頂けるとは嬉しい限りです。それと……」


「それと……?」


ネルスはファラとアスナをチラッと見るとニコリと微笑みながら言った。


「ファラ王女はとても可愛らしく、リッド様と実にお似合いと伺っておりました。是非、一度お会い出来ればと思っておりました故、護衛任務は大変光栄であります‼」


「……⁉ ゴホゴホ⁉ ネルス、いきなり何を言うのさ‼」


僕はネルスの思いがけない言葉に、せき込みながら注意するように彼に言った。


ファラはネルスからの言葉で顔を赤らめて、耳を上下させながら俯いた。


アスナは特に顔色は変えていないが、ネルスを観察するように見ている気がする。


僕は少し顔を赤らめながら咳払いをすると、彼に注意するように言った。


「ゴホン……ネルス、その、お似合いとかさ、光栄って言ってもらえるのは嬉しいよ? けど、面と向かって言われると、その、僕もファラも気恥ずかしいからさ。そこは自重して欲しいかな……」


僕とファラがそれぞれ、顔を赤らめている様子を見るとネルスは何かを察したように言った。


「これは、大変失礼致しました。すでにお二人は思いが通じあっているようで、何よりでございます。実は、知り合いにとても進展の遅い者達が居りまして……」


僕は彼の言葉に心の中で「また余計な一言を……」と呟いた。


だけど、彼の言う進展の遅い者達に心当たりがあった。


恐らくあの二人だろう。


ネルスは言葉を続けた。


「リッド様がその二人の影響を受けていないかと心配しておりました。いや、誠にお節介でありました。大変申し訳ございませんでした」


何とも飄々として軽い感じの彼だが、その言葉に嫌悪感は不思議とわかない。


同じ言葉をルーベンスが言ったら、僕は「どの口が言う⁉」と怒っていたかも知れない。


彼の言葉に感じるのは、怒りと言うより呆れという感じだ。


僕はため息を吐きながら言った。


「はぁ……もういいよ。でも、次からは言葉に気を付けてね? 特にここは他国の中枢なのだからね?」


「はい。承知しております」


ネルスは僕の言葉にニコリと微笑みながら返事をしていた。


彼は、ファラとアスナに振り向くと、おもむろに言葉を紡いだ。


「……ファラ王女、アスナ様。大変出すぎたことを致しまして、失礼を致しました」


謝罪の言葉を述べると彼は頭を下げた。


ファラはそんな彼に少し照れた様子で声をかけた。


「い、いえ、お気になさらないで下さい。……それよりも、騎士団内ではもうそのような話が出ているのですか……?」


ネルスはファラの言葉を聞くとニコリと微笑みながら優しく言った。


「はい。ライナー様、リッド様のお二人がファラ王女とお会いになってから、とても笑顔が増えました。それに、ディアナからもお二人の仲睦まじい様子を伺っております。それ故、騎士団内ではファラ王女はリッド様と大変お似合いだという話題で持ち切りでございます」


「……そうですか。私とリッド様がお似合い……」


ファラは彼の言葉に嬉しそうに微笑んで俯いた。


彼女は顔を赤らめながら両手を頬に当てている。


そして、耳を上下に動かして今にも「キャー‼」と言いそうである。


恐らく、僕達以外の第三者に言われている事が嬉しいのだろう。


その姿に僕もつい頬を緩めてしまった。


しかし、ネルスはわかってやっているのか、天然なのか。


歯が浮きそうな言葉を簡単に言えるのはすごいと思う。


ある意味では、僕も見習ったほうが良いのかな? 


そう思った時、今まで黙っていたアスナがネルスに対して強めの口調で言った。


「ネルス殿、先程から見ておりましたが、あなたの動きには隙がありません。騎士団内ではどの程度の強さなのでしょうか?」


「へ……?」


僕はアスナの言葉に呆気に取られた。


それを今聞くの? 


質問されたネルスは飄々と答えた。


「強さですか? そうですね。アスナ殿にわかりやすく言うなら、ディアナ以上、ルーベンスと同等、ちょっと下ぐらいでしょうか」


「……やはり、素晴らしい実力お持ちのようですね。どうでしょうか? リッド様と姫様さえよければ、ネルス殿と模擬戦をしたいと存じます」


アスナはこの場にいる僕達全員に伝えるように言った。


ネルスはその言葉を聞いても態度を崩さず飄々としている。


ファラは聞こえていなかったようで、まだ顔を赤らめてニコニコと微笑みながら耳を上下に動かしていた。


そんな中、僕は深呼吸するとアスナとネルスに言った。


「駄目に決まっているでしょ⁉」


僕はファラとの話が立て続けに邪魔をされて、一向に進まないことに頭を抱えた。

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