第105話 エルティア・リバートン

「ようやく、一つの区切りが着きましたね……」


エルティアは一人、自室で椅子に座り誰に言うわけでもなく呟いていた。


その表情は普段のような冷たく突き放すようなものではなく、穏やかで優しいものだった。


だが、彼女の目には悲哀のようなものが宿っているようにも感じられる。


その時、部屋の外にいた兵士からエリアスが体調を心配して面会したいと、取次があった。


彼女は表情を凛とさせると、その兵士に普段通りの様子で返事をした。


「わかりました。陛下をお通し下さい」


兵士に彼女が返事をすると、間もなく部屋の襖が開かれてエリアスが入室してきた。


彼の入室にエルティアはその場で立ち上がり、綺麗な所作で一礼した。


その姿を見た、エリアスは心配をするように声をかけた。


「……エルティア、挨拶などは良い。それよりも体調は大丈夫なのか?」


「はい、陛下。ご心配には及びません…… 本当に優れないわけではありませんので」


エリアスは彼女の返事に静かに頷きながら話を続けた。


「そうか。それなら良い…… やはり、ファラのことか? お前には苦労をかけて、すまない」


「いえ、今日のことはファラが生まれた日から、わかっておりましたから……」


エルティアはエリアスの言葉に哀しみを感じさせる声で返事をしていた。



エルティア・リバートンは元々、エリアスが幼い頃より彼の影であり護衛だった。


ザック・リバートン直系の血筋でもあった彼女はその才覚からリバートン家の次期当主として、名前が挙がるほどの実力者だった。


彼女に転機が訪れたのはエリアスからの告白だった。


「幼い時より、傍にいたエルティアの事が好きだ。影ではなく、私の妻として傍に居てくれ」


影として生きてきたエルティアが初めて男性に告白された瞬間だった。


その時、エルティアは不覚にも無意識に耳が上下に動いてしまい、ひた隠していた気持ちをエリアスに知られてしまった。


彼女も彼に好意を抱いていたのだ。


それは、いつからなのかは覚えていない。


彼が大人になり、気付いたら彼を一人の男性として意識するようになっていた。


エルティアは時期リバートン家の当主候補であり、その気持ちは永遠に蓋をするはずだった。


エリアスは告白した時に、彼女の気持ちを知ることになった。


彼はザックにエルティアを妻にすると直談判した。


王家とリバートン家は光と影であり、光が陰ることがあれば容赦なく影が鉄槌を下すこともある。


リバートン家は王家ではなく、国に仕えていると言ったほうが良いかもしれない。


その関係性からもザックは二人に頭を抱えた。


王家とリバートン家が直接繋がることに華族達は良い顔をしないだろう。


だが、悪い話だけではない。


王家にリバートン家の直系の血が入るのであれば、将来的には動き安くなる部分も出て来る。


最終的にザックはエリアスの意見を条件付きで聞き入れた。


この時、エリアスにはまだ側室もおらず正妻候補もいなかった。


今のまま、エルティアだけを正妻候補としては華族達も黙っていない。


ザックは、エリアスにエルティアだけでなく、同時に候補者を一定数用意することを条件に出した。


エリアスはこの条件を受け入れ、エルティア他数名の王妃候補者を選別した。


ダークエルフは出生率が低いので、王は側室を持たないと血筋を残せない可能性も出て来る。


どの道、エルティア以外にも王妃候補者を用意する必要はあったのでエリアスもこれを受け入れた。


ダークエルフの王妃は最初に王の子供を宿した女性がなるのが決まりである。


これは、出生率が低い為、婚姻した順番や地位だけで王妃を決めてしまうと後々、権力争いの火種になりかねないからだ。


エリアスがエルティア含め多数の候補者と過ごし始めてから数年後、候補者の中から待望の懐妊した女性が現れた。


名前は「リーゼル・タムースカ」、華族としては歴史とそれなりの力を持っている「タムースカ」の女性であった。


国は喜びの声で沸いた。


エリアスとエルティアもリーゼルの懐妊を喜んだ。


だが、懐妊したリーゼルはとても複雑な思いを抱えていた。


エリアスとエルティアが両想いであることを知っていたからだ。


理由はもう一つあった、リーゼルは自分が王妃の器ではないと思っていたからだ。

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