第77話 レナルーテの城下町
「うわー、馬車の中で見るよりやっぱり迫力あるね」
「リッド様、今はメイド姿ですからあまり目立たないようお願いします」
「あ、ごめん」
僕はファラに会いに行って、城下町に行く相談をしたら何故かメイド服に着替えることになった。
そしていま、僕はメイド姿でレナルーテの城下町にいる。
来るときに馬車の窓から少しだけみた景色。
町の中でみると、改めて明治初期のような街並みに感動する。
ちなみに、僕とディアナはメイド姿だが、ファラとアスナは袴にブーツという、和洋折衷の格好だ。
メイドと袴の四人組なので、結局はとても目立っている気はする。
僕はもう、深くは考えないようにした。
何せ、レナルーテの城下町には母上の薬草に関する手がかりがあるかもしれない。
細かいことは気にしていられない。
あとは、今後の事も考えてレナルーテの技術者をバルディア家にこっそりスカウト出来ないかも考えていた。
帝国とレナルーテの技術を合わせれば色々なことが出来るのでは? と、僕は思っていた。
そんな僕に、ファラが質問をしてきた。
「そういえば、リッド様は何故、城下町に来たかったのですか?」
「……そうですね、ファラ王女にはお話し致します」
僕はファラとアスナに母上が死病であること、その為に必要な薬草の情報を探していることを伝えた。
そして、今後の技術発展の為にバルディア家に来てくれる技術者を探していることを伝えた。
ファラとアスナは少し驚いた様子をしたがファラはすぐ心配そうな表情になると言った。
「……リッド様の母上がそんなことになっていたのですね。わかりました。私も出来る限りお手伝いをいたします」
ファラが僕に返事をすると、アスナは思案してから少し険しい顔をして言った。
「我が国直属の技術者の引き抜きというのは問題になりそうですね。ただ、一か所だけ直属ではないので、問題になりにくそうな鍛冶屋を知っています」
「え⁉ 本当ですか? じゃあまずそこにいきましょう‼」
僕はアスナの情報に食いついた。すると、アスナは微笑んで「わかりました」と返事をして、道案内をしてくれた。
◇
アスナに案内された場所は城下町でも大分外れにあった。
ずっと歩くことになりファラが大丈夫かと心配して、僕は歩きながら彼女に声をかけた。
「ファラ王女、少し歩く距離が長いですが大丈夫ですか?」
「はい、普段の訓練と比べたら。これぐらいは何ともありません」
普段の訓練?
ファラは勉強以外にも体力的な訓練もしているのだろうか?
僕が少し不思議そうな顔をすると、それに気づいたファラが僕に言った。
「フフ、こう見えても結構、運動はしているのですよ。なので、大丈夫です。それよりも……」
「? それよりも? なんでしょうか?」
僕の顔を見ながらファラは言った。
「……その言葉遣いやめて欲しいです。せめて、こうして出かけている時はもっと言葉を崩してください。なので、私の事は……あの、その、ファラとお呼び下さい……」
ファラは言い終えると顔が徐々に赤くなっていった。
それに合わせて僕も顔が赤くなるのを感じた。
でも、ファラから折角の提案だ。
それに、身内だけの場であれば、本人の許可があれば良いだろう。
僕は深呼吸をしてから答えた。
「わかりました。公の場ではできませんが。このような身内だけの場ではそう呼ばせてもらいます。良いでしょうか……ファラ」
「……‼ はい、リッド様」
歩きながらも何とも気恥ずかしい雰囲気が僕とファラに流れた。
だけど、ファラの言葉に気になる点があったので、僕もファラにお願いをすることにした。
「……ファラ、僕の事もリッドでお願い。僕にも『様』はいらないよ」
「は、はい。わかりました……リッド」
またもや二人とも顔が赤くなった。
そして、ファラの耳は上下に動いていた。
さすがの僕もファラの耳の動きにどんな意味があるか少しずつわかってきた気がする。
ファラは頬を両手で抑えて恥ずかしそうに眼を瞑って、首を小さく横に振っている。
彼女なりに落ち着こうとしているのだと思う。
僕も落ち着こうと再度、深呼吸をしていた。
その様子にディアナとアスナは微笑みながら「クスクス」と小さく笑っていた気がする。
そのまま、少し歩いているとアスナが前方を指さしながら言った。
「あそこです。見えてきました」
アスナが指さしたところを見ると確かにお店があった。
けど、活気はなさそうだ。
穴場的なお店なのだろうか?
そして、お店の前にたった僕は思わず言った。
「……ここで、間違いないの?」
「そのはずですが……」
アスナが連れてきてくれたお店には看板に「鍛冶屋 ジェミニ販売店」とあった。
だが、その出入口のドアには「閉店セール中」と書いてある小さい看板がぶら下げてある。
そして、全体的にボロボロな感じがする。
アスナは困った様子で呟いた。
「……すみません。以前来た時はこんな感じではなく、良い武具を取り扱う穴場のようなお店だったのですが……」
「……そっか。でも、アスナが良い武具って言うぐらいだし、ともかく入ってみよう」
入ろうとすると、僕はディアナに制止された。
どうしたのだろう? 怪訝な僕を見るとディアナは少し呆れた様子で言った。
「ティア、ここは実家ではありません。こういった場合は必ず従者から中に入るものです」
「あ、そっか。ごめん」
僕は、最初に入るのをディアナに任せて一歩引いた。
ディアナがドアを開けると、「カランカラン」と来店を伝える鐘がなった。
すると奥から、女性の声が聞こえた。
「え? 嘘、お客さん⁉」
声と同時に奥からバタバタと音が聞こえてきた。
そして、お店のカウンターに一人の少女がやってきた。
その少女を見るとディアナが少し驚いた様子で小さく呟いた。
「……なるほど、アスナさんがお勧めした理由はこちらのお店は、ドワーフの方がされていたからですね」
僕はディアナの言葉を聞いて驚いた。
以前、クリスからドワーフは自国からほとんど出ないと聞いていたからだ。
僕はディアナの後ろから、その少女を見た。
彼女がドワーフの大人かどうかはわからない。
でも、比較的小柄で、ダークエルフ程ではないにしろ少し小麦色の肌をしている。
髪は赤黒くて、耳が少し尖って飛び出しており、瞳は黒くて目はパッチリとした印象だった。
彼女は僕たちを見ると顔がパッと明るくなり、元気よく言った。
「ようこそ、いらっしゃいました‼ ボク達のジェミニ販売店にようこそ‼」
ボク達? と不思議に思っていると、さらに店の奥から声が聞こえてきた。
「姉ちゃん、どうしたの? お客さんなんか来るわけないよ。どうせまた、冷やかしでしょ?」
「こら‼ アレックス‼ ちゃんとしたお客さんだよ。しかも4名様も‼」
「……本当だ」
どうやら、ここはドワーフの姉弟がしているお店らしい。
僕はこの世界で見るドワーフと彼らが作った作品を見られると思って目を輝かせて言った。
「ドワーフの作った作品を見るのは初めてです‼ お店にあるもの全部見せてもらっていいですか‼」
だが、僕の言葉にドワーフの姉弟は怪訝な顔をしていた。
何故だろう? と思った時、自分の今の服装のことを思い出した。
確かに、メイド服を着た子供が、ドワーフの作った武具を全部見たいと言うのは明らかに不自然だったと思う。
僕はその後、気恥ずかしさで顔を赤らめた。
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