第50話 レナルーテ王都

「レナルーテ王都が見えてきました」


馬車の外にいるディアナが僕たちに目的間近まで来たことを教えてくれた。


僕は、馬車の窓からレナルーテ王都を見た。


お城がある。


うん、和城だ。


なんとなくそうかなと思っていたけど、遠くから見ても中々の迫力だ。


城の周りには町があるから、城と城下町って感じだ。


僕が馬車の窓から王都を眺めていると、後ろから父上に声をかけられた。


「リッド。レナルーテとマグノリアでは当然だが常識が違う事が多々あるだろう。足元をすくわれることの無いように心せよ」


「はい。承知致しました」


父上は厳格な顔をしているが、投げかけてくれる言葉には心配が含まれていた。


そんな、父上に僕は笑顔で力強く返事をした。


その返事に満足した様子の父上は小さく頷いた。


城下町に入る前には関所と同様に検問があったが、すぐに通された。


マグノリアから僕達が来ることは当然連絡が入っていたのだろう。


すると、検問所にいたダークエルフの兵士の一人が、ルーベンスに何か話しかけている。


彼は兵士の言葉に首を縦に振ると、すぐ馬車の窓に近づき父上に報告した。


「彼が、城まで先導するそうですが、よろしいでしょうか?」


「うむ。任せる」


父上の言葉を、先程の兵士にルーベンスが伝えると再度、馬車が動き始めた。


このまま、城に向かうのだろう。


馬車は先導してくれる兵士の後を追う流れでレナルーテの城下町を進んでいく。


馬車から街並みを見ると不思議とどこか懐かしい。


木造の家に瓦屋根が多いかな。


そして、通り過ぎるダークエルフ達の和洋折衷の衣装。


女性達は袴に靴、他にも着物を着ている人。


さすがに髪は普通にしているけど。


男性も着物が多い。


時折、兵士の方や僕達が着ているような服の人もいて、まさに和洋折衷と言った感じだった。


しかも、ダークエルフがその姿でいるというのがまた目新しく、見ていて飽きない。


目をキラキラさせて馬車の外を眺めていると、「そろそろ、城に着きます」とディアナの声が聞こえてきた。


馬車の窓から前を見ると、城が大分近くまで見えてきた。


城の外周を囲うように水堀があるようだが、いま進んでいる門の近くは空堀のようだ。


当然、水堀と空堀の壁は石垣になっている。


馬車が進む正面にある、城門は今までの関所よりでかい。


その門の前で馬車は一旦停止した。


僕は城の知識なんてほとんど持っていない。


でも、その城を間近でみると感嘆の声を漏らしていた。


「すごい、迫力…… 高い石垣だなぁ…… 」


「うん? リッド、お前「石垣」を知っているのか?」


僕の「石垣」という言葉に父上が反応して怪訝な顔をしていた。


マグノリアには石垣がないからだ。僕が知っていたことに少し驚いた様子だった。


「え? えーと、レナルーテの資料を読んだ時に知りました」


「そうか、レナルーテの城はマグノリアとはまったく違うからな。見聞を広める良い機会だ。しっかり見ておきなさい」


「はい、わかりました」


僕はそれらしいことを言ってその場をやり過ごした。


しかし、日本人の記憶を持った僕が異世界でこんな和城に来る機会がくるとは思わなかった。


少し感慨深くて感動した。


その時、城の城門が左右に開き始めた。


そして、そのまま中に入り馬車は城内を進んで行く。


城の中に行くかと思ったが向かった先はマグノリアにある屋敷によく似た建物だった。


すると、先導していた兵士が振り返り、僕達一団に向けて大きな声で言った。


「こちらが皆様のお休みになられる迎賓館になります。いま、係の者を呼んでまいります。少々お待ちください」


彼はそういうと一礼をしてから、屋敷の中に入った。


すると、すぐに見慣れたメイド姿をしているダークエルフの女性達が来られて僕達の荷物を迎賓館に運び始めた。


僕と父上も馬車から降りた。


僕は「うーん」と体を伸ばす。


父上は首をコキコキとして、自分自身で肩をもんでいた。


すると、少し年齢を感じさせるダークエルフが一礼をしてから声をかけてきた。


「ライナー様、リッド様、遥々レナルーテまで来て頂き感謝いたします。私、今回皆様のお世話と迎賓館の管理、責任者を致します、ザック・リバートンと申します。以後、よろしくお願いいたします」


ザックと名乗ったダークエルフは物腰が柔らかく、とても感じ良い人だった。


ガルンと似ているかもしれない。


僕はそう思いながら笑顔で返事をした。


「はい。こちらこそよろしくお願い致します」


言い終えるとペコリと一礼した。


その様子にザックは少し驚いた様子だったがすぐ平常に戻る。


どうしたのかな? 


対して父上はザックに軽い感じで挨拶をした


「こちらこそ……また、よろしくお願い致しますぞ。ザック殿」


「はい。ライナー様もお久しぶりでございます」


ザックは父上に一礼する。というか、父上は「また」と言った。知り合いなのだろうか?


僕は二人のやりとりを不思議そうな顔で見ていた。


それに気づいた、父上が説明をしてくれた。


バルスト事変の時に帝都とレナルーテの情報のやりとりを主にしていたのは父上だったらしい。


確かに、隣国だし当然と言えば当然だ。


「その時に、ザック殿には色々世話になったのだ」


「いえいえ、我らダークエルフの同胞が帰って来られたのはライナー様のおかげと、私は思っております」


「私は伝書鳩の役目をしたに過ぎません。すべては陛下同士でお決めになったことです」


ザックは父上の言葉に含みのある笑顔で返していた。


そして、彼は僕に目線を変えると微笑みながら父上に向かって言った。


「しかし、ライナー様のご子息がこんな素直で可愛らしい子とは思いませんでした」


「……素直で可愛いだけでは、ないがな」


父上は意地の悪い顔をして返事をすると僕をチラっと見た。


飴玉のことを根に持っているのだろうか?


「アハハ……」


と僕は乾いた笑声を出していた。


すると、ディアナの声が聞こえてきた。


「ライナー様、必要な荷物をすべて迎賓館に移動させました」


「うむ、ご苦労。では、部屋に行こう」


父上が返事をすると、合わせてザックが「部屋にご案内致します」と先導してくれた。


僕と父上は別々の部屋に案内される。


迎賓館の中は和式かな? 


と思っていたが普段過ごしている屋敷とそう変わらなかった。


ザック曰く、「迎賓館なので、出来る限りマグノリアに近い形にしております」ということだった。


部屋に入り、ザックから一通り部屋の説明を受けた。


そして興味深い一言に僕は食いついた。


「マグノリアでは珍しいかもしれませんが、迎賓館には温泉があります。一度、お試しになられますか?」


「え? 温泉があるの⁉」


僕が予想外に食いついたことに少し驚きの表情をしたザックだったが、その後も説明を続けてくれた。


男女別の大浴場があるので、そこであればいつでも入ることが可能なのだという。


僕の中で迎賓館が温泉旅館になった瞬間だ。


「うん。じゃあ、あとで入らせてもらうね」


僕がそういうと、温泉に入りたいときはお声かけ下さいと言われた。


その後、ザックは一礼すると部屋から出て行った。


彼が部屋から出ると、とりあえず僕はベッドに仰向けで寝転んだ。


「はぁ~、馬車はもうコリゴリだよ……」


最初に比べれば、クリスにもらった飴、道が少し平らになったことで途中から多少ましになった。


それでもきつかった。


すでに帰り道のことで気が重い。


すると、ドアがノックされたので返事をしたところ、クリスが部屋にやってきた。


彼女は少し心配そうに僕の顔を見ながら言った。


「馬車の酔いは大丈夫でしたか?」


「うん。クリスのもらった飴玉のおかげですごく助かったよ」


「そうですか。お力になれて良かったです」


彼女は安堵の表情を浮かべていた。


飴玉の効果の確認だけじゃないよね?


「うん。心配してくれてありがとう。それより、どうしたの? 何か問題でもあったかな?」


「いえ、そうでありません。私たちも迎賓館に案内して頂いたのは大変光栄です。ただ、今後のことを考えると動きづらいので、私たちは城下町で宿を取ろうと思います」


なるほど。確かに今回、クリス達にお願いしているのは新たな商流づくりだ。


拠点となるべき場所がレナルーテ城内だと、都度出入りするのも大変だろう。


僕はクリスを見て頷くと言った。


「わかった。少し寂しいけどしょうがないね。父上とレナルーテの人達には伝えておくから、何かあればすぐに報告してね」


「わかりました。では早速、移動して商会を何件か回ってみますね」


「うん、お願いね」


僕の返事を聞くと、クリスは一礼して部屋から出て行った。


すると、入れ違いでメイド姿になったディアナが部屋にやってきた。


「うん? ディアナどうしたの?」


「ライナー様に言われて護衛を兼ねて、同室に居るよう指示を受けました。恐れ入りますが、「空気」とでも思って頂ければ大丈夫です」


「あ、そう……」


ディアナは「空気とでも」というが、腰に帯剣した直立不動のメイドが部屋にいる存在感はすごく気になる。


でも、もう馬車の疲れが限界に来ていた僕は、ディアナに言った。


「はぁ……少し寝るから、何かあったら起こして」


「はい、リッド様」


そして、僕はすこしだけ仮眠をとることにした。

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