第41話 メモリーに出来る事

「リッド‼ なんなの、この記憶‼」


僕は屋敷の自室に籠って先日、覚えた魔法を試していた。


自分の前世の記憶を呼び出すために編み出した特殊魔法の「メモリー」だ。


使用方法としては心の中で「メモリー」と呼びかけると彼が反応してくれる。


そして、欲しい情報を伝えると該当する記憶をメモリーが、僕の前世の記憶から探してくれるという魔法だ。


ちなみに、メモリーと会話できる状態になっていると一定時間ごとに魔力が消費される。


仕組みを理解した時は昔の携帯電話の通話料と一緒だと思った。


そして、僕はいまメモリーに怒られている。


何故、頭の中にメモリーの怒号が響くのか?


それはついさっきお願いした記憶にあった。


それは「ときレラ!」の記憶だ。


というのも、実は前世においておまけ要素のフリーモードばかりしていたから、そんなに本編を覚え込むほどやっていなかった。


せいぜい本編で覚えているのは主人公達の名前ぐらいだ。


それも、名前だけで苗字まで覚えていない。


ただ、シンデレラストーリーということですべての攻略対象が様々な国の王族に連なる面々だったはず。


マグノリアの皇族しかり、確か今度行く、レナルーテの王族にも攻略対象にいたはずだ。


確か王子の名前は「レイシス」だった。 


ゲームだと万能キャラで、鍛え上げると結構使いやすい感じだった気がする。


キャラの育成に付随してくる情報に関してはこんな感じで覚えている。


だが、肝心の彼がメインとなる本編ストーリーをよく覚えていない。


ちなみに、覚えていない理由にも実は心当たりがあった。


ただ、それをメモリーにあえて言わずに頼んだ結果、怒りを買ったわけだ。


「えー、でもメモリーが情報集められるって言ったよね?」


僕はとぼけた様子で彼に返答する。もちろん確信犯だ。


「……リッド、君わかって言っているよね?」


「そうかぁ、やっぱり厳しいかぁ……」


僕は、残念な気持ちで一杯だ。


さすがに厳しかったよね。


「当たり前だろ‼ 君、本編をほとんど未読スキップ使っているじゃないか‼ 記憶を遡っても出た情報がぼろぼろの紙屑状態だよ。こんなの引き出すなんてさすがに無理だよ‼」


そうなのである。


前世で「ときレラ!」を全クリしたけど本編は少しやってから面倒くさくなって、未読スキップ【ON】にして進めたのだ。


ちなみに、未読スキップ機能について簡単に説明すると、乙女ゲーや美少女ゲーと言われる部類は、様々な攻略対象がいる。


その為、何度も周回プレイするのが前提だ。


そして、対象ルートに入るまではある程度同じストーリーが描かれる。


だから、一度読んだストーリーを早送り出来る「スキップ」という機能がある。


ただ、「未読」の一度も読んだことがないストーリーは飛ばさないように初期設定は未読スキップが出来ないように設定されている。


それを、解除するのが未読スキップ【ON】だ。


これを使えば、既読だろうが未読だろうがすべてスキップできる。


つまり、次の選択肢まですぐにたどり着けるというものだ。


僕は前世で「ときレラ!」をしているときは、途中からほとんど未読スキップしていたのだ。


それが、こんな形でしっぺ返しを食らうとは思わなかった。


でも、何故リッドのことは覚えていたか? 


それは、フリーモードで使い込んだあとに、このキャラは本編でどんな立ち位置なのか?


ふと気になりネットで攻略サイトやらなんやらでリッドのことを調べたからだ。


フリーモードで鍛えれば化けるのに、本編での不遇扱いに当時は笑ったが、今は笑えない。


「うーん。ならこの機会にメモリーが調べられる記憶について教えてもらってもいい?」


実際にメモリーに記憶を依頼したのは今回が初めてだった。今後もメモリーを頼ることが多くなるはず。


なら、なにがどこまでできるかは確認しておいたほうが良いだろう。


「はあ……、わかった。今回の件は僕も詳しいことを伝えていなかったからね」


頭の中でメモリーの声が響く。そして、説明が始まった。


結論としては、前世の見聞きしたものがすべて記憶にはあるという。


ただし、メモリーが情報として持ち出せるのは、その中でも鮮明に見聞きしたものだけだということだ。


例えば、ネットなどの動画を僕が意識して見たものに関しては大体引っぱり出せる。


だが、右から左に流して意識的に聞いていなかった会社の上司の愚痴などの詳細は引っぱり出せない。


つまり、どれだけ前世の僕が意識して見聞きしていたか? 


ということが重要らしい。


意識的に見聞きしたことであれば、前世の僕が幼いころの記憶でも持ち出せる。


だが、大人になったあとでも意識せず垂れ流しで見聞きした情報は引き出せない。


また、記憶が曖昧な情報をどうしても引き出す場合にはかなり時間がかかる。


「前世の記憶で曖昧な情報を正確に引き出すのは、シュレッダーされた大量の紙屑からプリント一枚を復元するようなものだよ? 君ならこの例えがわかるだろう?」


メモリーは僕の前世の知識も使って説明してくれている。


それで最初の「ぼろぼろの紙屑状態」というわけか。


「つまり、記憶っていうのはファイリングのようにまとめられているものと、シュレッダーのような紙屑みたいになっているものがある。ファイリングされているものはすぐ出せるけど、紙屑の記憶は復元するのが大変で引き出しが難しい。最悪不可能ってことでよい?」


僕はメモリーから聞いた内容を自分なりにまとめて質問した。


「うーん。とりあえず、そんな感じかな? どちらにしても、君が未読スキップで飛ばした情報を引き出すのはかなり大変。すぐ出来るものじゃないよ。しろと言われればするけど、期待しないでほしいって感じかな。どうする?」


なるほど、時間はかかるけど不可能ではないのか。


それなら、手掛かりは少しでもほしい。


「じゃあ、大変だろうけど、お願いしてもいい?」


「はぁ……わかった。やってみるけど期待しないでね。ほかに探す記憶はあるの?」


僕は思案して、とりあえずはその情報だけ今回は探してみてほしいと伝えた。


メモリーは「はぁ」とため息をついてから「やるだけ、やってみるよ。期待しないでね?」と言ったのが最後で頭の中から声が聞こえなくなった。


僕は頑張ってね。


と心の中で呟いた。


「にーちゃま、なにしているの?」


心の中で呟くと同時に、いきなり聞こえてきた声に僕はビクッとして、部屋の出入り口を見た。


するとそこにはドアノブに手をかけながら怪訝な顔をしたメルがいた。


「にーちゃま、だいじょうぶ? ずっとはなしごえがへやのそとにきこえてきたよ?」


なんと、声を出しながらメモリーと話していたらしい。


僕は困ったような顔をしながら、メルに秘密にしてほしいと頼んだ。


というか、メルに秘密にしてもらっていることが多い気がする。


「いいけどまた、えほんをよんでくれる?」


「わかった。いいよ」


「にーちゃま、やくそくね」


僕の返答を聞くとメルは可愛く微笑んだ。


でも、なんで僕の部屋に入ってきたのだろう。


気になったので軽い感じでメルに聞いてみた。


「うーんとね。さいきん、にーちゃまとあそべてないからへやにきたの。でも、どあをのっくしてもへんじがなくて、こえしかきこえなかったから、どあをすこしあけてのぞいたの」


なるほど、そしたら僕が独り言をずっと言っていたから声をかけてくれたわけか。


そういえば、最近はメルに絵本を読んでいなかった気がする。


メルの表情を見るといつもより少し寂しそうな感じがした。


その顔を見て、僕は今日はメルと過ごすことにした。


「メル、今日は僕とたくさん遊ぼうか?」


「いいの? にーちゃま、だいすき‼」


その日、メルに付き合って一日中、絵本を読んだ。


そして前回、同様に声色の使い過ぎで声がガラガラになってしまった。


ただ、メルがとても喜んでくれたからよかった。


明日からまた頑張ろう。


僕はそう思いながら、今日をメルと楽しんだ。

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