第14話 月光草と魔力回復薬

 父上とクリスの打ち合わせが終わった数日後、二人は帝都に向かって出発した。


皇后様と皇女様にリンスと化粧水を献上するためだ。


開発者が僕であることは伏せて、クリスティ商会とバルディア領の共同開発ということにするらしい。


ちなみに、今回の化粧品類に関してはクリスティ商会がほぼすべてを仕切ることになった。


なので、僕がすることは今後ほとんどない。


原料となるアロエ栽培やオリーブ栽培についてはバルディア領が行い、それをクリスティ商会が原料の仕入れとして優先的に買い上げて、加工、生産、梱包を行う。


輸送、販売、納品、アフターサービスはクリスティ商会と代理店として手を結んだサフロン商会が行う。


化粧品類の販売と制作権利はリッドにあるので、クリスティ商会から該当商品の売上金額の一部が僕の資金となります。


レシピを作成提供したのは僕だし、無許可使用で罰せれるブランドロゴとして貴族紋章を提供しているからね。


貴族っていいよね。


クリスからは権利について、やんわり取り過ぎ的なことを言われたが「でも、クリスとサフロン商会で当分は市場を独占するから大丈夫でしょ。いまが一番高く売れるのに、安売りしちゃ駄目でしょ。」って言ったら、大きなため息を吐いていた。


なので、化粧品類についてはとりあえず、僕の手を離れた。


空いた時間で僕は、次なる商品開発に取り組む予定だ。


次なる商品、それは「魔力回復薬」だ。


この薬は早急に完成させなければならない。


何故なら、母上の魔力枯渇症の薬になるからだ。


完治は出来ないけど、特効薬が出来るまでの繋ぎにはなる。


だから気合入れて取り組み始めたのだが、困ったことに薬学の知識なんてない。


原料を手に入れても加工できない状態だ。


「一応、このまま食べても少しは効果があるみたいだけど、さすがにこれをこのまま母上に食べさせられないよな・・・」


クリスからもらった後、すぐに魔法を使って意図的に魔力を減らしてから草を食べた。


すると、わずかだか回復した気がしないでもなかった。


でも、このまま食べるのは草の味、というかえぐみが強くてさすがにつらい。


まぁ、いざとなれば母上に無理やり食べてもらうしかないけど。


まだ少しだけ猶予がありそうだから、早く何とかしたい。


悩んだ末に、僕はこの世界の薬学に詳しい人を紹介してほしいとガルンに聞いてみたら、予想外の答えが帰って来た。


「薬学ですか? それでしたら、家庭教師のサンドラ様に伺ってみては? 彼女は優れた魔法使いですが薬学にも精通しております。彼女はどちらかと言えば本来、研究を主としている魔法使いですからね」


「え? それならなんで、僕の家庭教師を引き受けたの?」


ガルンは僕の言葉にハッとして口元を手で押さえていた。


どうやら、彼の立場からすれば失言してしまったようだ。


僕が当然それを見過ごすはずがない。


純真な笑みをして内心は真っ黒な顔をしてガルンを問い詰めるのであった。


ガルンは「私としたことが……」と呟いてから、大きなため息を吐いた。


すると、観念したのか教えてくれた。


サンドラは元々、帝都の研究所に勤めていたそうなのだが中々成果が出ない状況が続いてしまった。


さらに、サンドラのことを好ましく思っていない貴族の圧力により予算も削られてしまい、まともに研究が出来ない状況に陥ってしまった。


その時に、父上がサンドラに息子である僕の家庭教師を打診したらしい。


サンドラも結果を出せなかったこと、そして貴族とのやり取りにも辟易したのでバルディア領に来ることを決めたらしい。


「僕がサンドラ先生って言った時に喜んでいたのって、帝都であんまり扱いが良くなかったせいなのかな?」


 だが、どんな研究にせよ薬学に詳しい魔法使いが身近にいるのであればこれを使わない手はない。僕は早速、サンドラを頼ることにした。

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