8 白熱する戦い
一方ルークによって腹に穴を開けられたインキュバスは、真っ黒な馬達によって復活してしまった。なんで、復活するんだ? これじゃぁ、キリがない————。
「ムダ、ムダ、ムダ、ムダだ——! 幾ら貴様が、メフィストでも、この俺を倒す事など出来はしない!クックック……」
『クッ、ナイトメアまで出てきやがったか? しかし、ナイトメアは蘇生能力は無かったはずだが? おい、お前。一体何を企んでいる? お前一人の考えじゃねーだろうが——。お前は誰に指示された?』
「企む? まぁ、いいだろう。滅び行く者への
『召喚だと⁉ やはり一連の少女達の不審死はお前の仕業だったのか? 一体何処のどいつを召喚した……」
「クククッ……。そりゃ、会ってからのお楽しみだ……」
『もしかしてお前、俺様が鏡から封印を解いた時、海底の地震を利用して “愚者の石版” を海底から掘り起こして持っているんじゃねーのか?』
「さあな?……」
『フン! そうか?——。そういう事か? ……なら、遠慮無く行くぞ!』
「遠慮? 貴様に遠慮と言う言葉が有るとは思え無いがな? いいから、かかって来い」
『フン。そうかな?』
そう言うとルークは自分の背中の翼の羽根を一枚抜くと、右手に握りしめた。
『ハアッ——!』
握りしめた右手に力を込める。すると、その右手の先から
しかし、目の前のルークはグレーの姿をしているが、人間の様で勇ましくて格好いい。
「ルーク——!」
いつしか、俺は大声で叫んでいた。
しかし、インキュバスは動じる気配は全く無い。むしろ楽しんでいる様にみえる。
「ほ~う。
インキュバスは側にいる黒い一頭の馬の頭を鷲づかみした。更にその掴んだ馬に気合いを込める。すると、その黒い馬が見る見る内に変化した。大きな戦斧に——。
インキュバスはその大きな戦斧を振り回す。ブーンという風を切る音が、マンションの建物や周りの建物に激しく揺れ響く。風の斬撃でも出てきそうだ。
「行くぞ——!」
大きな斧を振り回し、相手の魔物はルーク目がけて飛んで行った。
二匹の魔物が武器を持ち、更に高速で飛ぶように夜空を駆け回り、攻撃をしている。もはや、人間の目でこの戦いを見るのはかなり厳しい。ルークの持っている雷の剣が、夜の闇に蛍の様に残像を残している。雷の黄色や青色の混ざった光りが縦横無尽に動いている。
その光の残像を追うのが俺達人間には精一杯なのだ。その光の残像から、衝撃波の様な物が放たれているみたいだ。時折、地響きを立てて、向かいのマンションかビルが崩れているのが見える。街を破壊して大丈夫なのだろうか? この街の多くの人々は被害をこうむらないのだろうか?
いや、これだけの戦いなのに、この騒ぎに人々は気が付かないのだろうか?
何故だ————?
ブシュッ――――!
「ギャーヴオッ————」
『フン、右手か? 残念だ』
俺の客観的な想いとは裏腹に、やがてすれ違い様にルークの雷の剣がインキュバスの右腕を切り落とす。斧を持った右腕が、ズシンと空中から地面に落ちた。斧を持った右腕は、地面にめり込んだと思ったら、霧のように消えてしまった。地面に穴だけが開いている。
方や右腕を切り落とされた魔物は、空中で膝を突いている。
「グウワオッー、おのれ、よくも、ヨクモ———!」
断末魔の叫びを発すると、再び黒い数頭の馬達が現れ、インキュバスの周りを取り囲んだ。一頭の馬が、インキュバスの腕に吸い込まれて行く様に見える。すると、右腕を落とされたはずなのに、インキュバスの右腕は再生している。何事もなかったように、ちゃんと右腕がある。
再びインキュバスは、馬の頭を両手で鷲づかみすると、左右の馬に気合いを込めはじめた。両手に掴んだ馬が又戦斧に変わる。両手に戦斧を掴み、怒りの形相でルークに襲いかかって行った。
「ウオッ——!」
『フン!』
再び、空中戦が始まった。先程よりも、更にスピードが上がってみえる。もう、俺達の目では追えない。夜空にルークの持つ青白い雷の剣の軌跡が、更に勢いを増したまま流れるように浮かんでいる。
やがて、その戦いも決着が着こうとしていた。二匹の魔物が互いに大きく離れ、そして次の一撃に全てを掛けようとしていた。お互いに睨み合い、隙を伺っている。
『————!』
「————!」
どちらとも無く、いや同時に動き始めた。お互いの背中の翼と羽根に魔力をフルに込めて、自分自身の最高スピードで相手を切りに掛かった。加速するスピードはトップスピード。アッと云う間の出来事だった。まさに、すれ違いの瞬間。鈍い音もせず、風を切る音しか俺には聞こえなかった。
シュッ————!
ルークの青白い雷の斬撃が大きな弧を描いてインキュバスの体を通り越え、建設中のビルに直撃する。一方インキュバスの放った刃も衝撃波を放ちながらルークの後ろのビルを破壊していく。
お互いがすれ違い、3秒の沈黙が流れる。途端にルークが膝をつく。ヤツにやられたのだろうか? 俺は心配になり息を飲んだ。
『——っく!』
「クックック……あの、メフィストが俺のこの手で、クックック……オ、レ…が……あ、れ?……グハッ——」
インキュバスはルークが片膝をついたのを見て、勝ち誇った様に喋り始めたが、自分自身の体に異変を感じ言葉を止めてしまった。
さらに動きの止まったインキュバスは、体の中心がズレ始めた。
「グッオッ———??」
インキュバスは体の中心をルークの剣で、真っ二つに切り裂かれて倒れてしまった。
『フン、パワーアップした所で所詮テメエはインキュバス。この俺樣の敵じゃ無いって事だ。まぁ、この俺樣に対して善戦した事は褒めてやろうじゃないか。しかし、久しぶりのこの体はかなり負担がかかるな……。これじゃ————』
ルークは、そう言ってインキュバスに背を向けた。そして俺達の方へ飛び立とうとした瞬間に、声に出ない苦痛の表情をした。
何かが飛んでいる——。
その何かがルークの脇をかすめ取った。
『——っく!』
「クックック……。甘い、甘い。あのメフィストも詰めが甘いわ。俺はまだ死んではいないぞ」
ルークによって体を真っ二つにされたインキュバスと云う魔物は確かに倒れた。
しかし、又しても黒い数頭の馬に取り囲まれて復活してしまった。ユックリと起き上がったインキュバスは、ルークへ自分の持っていた大きな戦斧を投げつけたのだった。気配を感じたルークは一瞬身を交わそうと体をずらしたが、脇腹に戦斧を掠めてしまった。戦斧はそのまま向かいのビルに突き刺さり瓦礫をバラまいている。
ズドン——ッ・ズシーン……。
『——っく!……』
「甘い甘い、貴様も魔物ならとどめをさせ。貴様はあの冷酷非道で有名なメフィストだろう。鏡の中から復活して少々丸くなったか?」
『クッ——。いくらお前にダメージを与えた所で、ナイトメアが付いて復活させるんじゃきりがないな』
「そう言う事だ。だから、貴様がいくら強くても俺は倒せない。クックック……それに、これを見ろ! っう——う——! ハァ~フン——!」
2匹のナイトメアという黒い馬達がインキュバスの体に取り込まれた。すると、先肩の後ろから腕が生えてきた。片腕が2本づつ。合計4本有る。まるで、日本のお伽噺に出てくる阿修羅の様に腕が増えたのだ。そして、4本の腕に各戦斧を握りしめている。
インキュバスの更なる能力解放を見て、ルークの表情が一瞬曇った。何かを思い詰めるかの表情に見える。いや何か迷っている感じがする。覚悟を決めた様に天を仰ぎ、インキュバスを見て呟いた。
『そうか? 仕方がない……。それなら、俺もいよいよ腹を決めて奥の手を出さないとならないみたいだな? ハァッ——!』
そう言うと更にルークは自分自身へ気合いを込め始めた。両手を前にゆっくりと突き出し、円を描きはじめた。そして、両手が肩一直線に並んだ時、両手の掌を顔の前で合掌した。
バシーン——!
大きな音と共に、今度は真っ白なオーラがルークを足元から頭まで包み込む。
すると今度は、グレーな体から真っ白な体へ変化した。頭のてっぺん、髪の毛から肌の色まで真っ白に変わってしまった。体には白く薄い
しかし背中の翼だけは真っ黒なままだ。体は白いが背中の翼は真っ黒で、コントラストは高いが何か違和感が強い。ルークからの威圧が跳ね上がる。
そのルークの変化した姿を見てインキュバスの表情が変わる。とても慌てている。インキュバスの両目が大きく見開き、口も呆れたように開いている。
まるでルークの姿に恐れおののいているようだ。ルークの変化した姿に一体何を見たのだろうか?……。
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