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そして同じく、数種の京つけもの。自家製の水茄子の浅漬けに、甘酢漬けのみょうが。京都といえばの、刻みすぐきと千枚漬け。そして、『京つけもの もり』さんの旬かさね。白菜と旬の野菜を幾重にも重ねた、京都らしく華やかで美しいおつけものだ。
その横には、数種類の醤油や塩、使い切りのマヨネーズなどの調味料入れも。
長テーブルにズラリと並ぶさまは、いつ見ても壮観だ。
そのすべてに、取り分け用の菜箸やトングをつけて、バイキングコーナーの準備完了。
これだけ並んでいるけれど、この店のメインは、あくまで『米』だ。このバイキングは、美味しい米を、より美味しく食べるためのもの。『米』を引き立てる最高の脇役たちだ。
今日の米は、粘りが強く、もっちりと柔らかくて、甘みの強い北海道産のゆめぴりかと、粘りが少なく、粒がしっかりとしていて、あっさりした味の岐阜美濃産のハツシモ。
どちらも、今年の特A米だ。
「ほれ、最後だ」
「はい!」
冷たいお茶と熱いお茶の二つのポットと、布巾を載せた小さなお盆を各座卓に置いたら、すべての準備が完了だ。
「よし、開けていいぞ」
一陽さんの言葉に、中戸を抜け、暖簾を手に表に出る。
少し褪せた、味のあるくちなし色。隅に美しく『
「おはようございます! お待たせいたしました!」
朝の挨拶をしてから、引き戸を大きく開けてにっこり笑う。
さぁ、三時間の朝営業のはじまりだ。
さっきは『わりと拷問です』なんて言ったけれど――たしかに、それも嘘ではないのだけれど、でもそれだけじゃない。
まるで宝石のようにつやつやと輝く真っ白なごはんと、ほかほかのお味噌汁。そして、思い思いのごはんのおとも。そんな――日本人ならではのごちそうを前にして、みなさん嬉しそうに手を合わせる。食べ終わったあとも、もちろん同じように。
神に、命に、自然の恵みに、調理にかかわった者に、感謝の気持ちを込めて。
その光景が、とても好きだ。
本当に『美味しいもの』に、人はそうせずにはいられない。
だからこそその行為は、店への最大の賛辞なのだ。
◇*◇
『稲荷』は、もとは『稲成り』だったらしい。稲をはじめとする穀物を司る神さまであり、稲作の豊穣をもたらすと信じられてきた。
だから当然、稲荷大明神である一陽さんは、尋常じゃないほど米を愛しまくっている。
ある意味、その思いが行きすぎたからこそ、一陽さんは、人間のために労働するという神さまにあるまじき行動をはじめたのだ。
朝営業は、十時に終了。
朝営業中に給水していた米を羽釜に入れ、すぐさまおくどさんにセット。火を入れる。その火を育てている間に、一陽さんがバイキングの残りと、米の残りをすべて下げる。
処分するもの、賄いにするもの、保存するもの。きちんと選り分ける。保存するものはそれぞれ適切な処理をして、所定の場所にしまう。
それが終わったら、僕とバトンタッチ。一陽さんが米炊きに。僕は最後の食器を下げ、ナカノマの長テーブルは折りたたんで片づけ、代わりに四人用の座卓をさらに二つ並べて、オクと同じく座卓が四つ並ぶ状態にする。
アルコールで綺麗に拭き上げて、醤油と塩と一味と七味の調味料セットと、つまようじ、ペーパーナプキンを置く。
畳のゴミが落ちていないか確認し、座布団の歪みを直して、客席の準備は完了。
カミダイドコは、味噌汁の保温用の鍋をダイドコに移動させたら。玄関側のテーブルは、朝のバイキング用のお椀や取り皿などに、ちりめんの布をかけて終わり。
ダイドコ側の米の保温専用炊飯器は昼営業も引き続き使うため、しゃもじの交換のみ。
そのあとは、ダイドコへ。残っている洗いものを片づける。
それが終わるころには、一陽さんも大体おくどさんの火を掻き出している。
そうしたら――米を蒸らしながら、お待ちかねの賄いの時間だ。
今日は、ハツシモの塩むすびに、出汁巻き玉子と鶏肉の幽庵焼き。水茄子のお味噌汁は残念ながら完売してしまったため、一陽さんが京焼き麩で新しく作ってくれた。
「うあぁ~! 美味しい~!」
大きめのおむすびを一つ、ペロリとたいらげて唸る。
「日本人に生まれてよかった!」
「そうだろう。そうだろう」
一陽さんが満足げに頷く。
「日本の食文化は世界に類をみない、唯一無二の素晴らしいものだ。そして、その根幹をなすものこそが、米。縄文時代中期――この国が『日本』を名乗る前から、この国の者が文字を覚える前から栽培されている穀物だ。完全食といってもいいその栄養価の高さから、古くから、米はもっとも重要な食べ物とされていた。帝が新米を含む『五穀』を神に捧げ収穫に感謝する新嘗祭のように、信仰や民俗・文化とも深いかかわりを持っている。米は、この国の成り立ちから、常に人々に寄り添ってきたのだ」
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