第102話 デート特集
「恵美さん、ちょっと出かけてきます」
「今から?」
「はい、エミリーさんから連絡があって、ちょっと会えないかと」
嘘をついてもいいことはないので、ここは正直に話すことにした。
「ふぅん、エミリーさんがねぇ。そっかぁ、晴翔くんも罪な男ねぇ」
「何言ってんすか」
「べっつにー。まぁ、言動にはよく考えることをお勧めするわ。天然たらしさん。いってらっしゃい」
「ん?わかりました。行ってきます。夕飯には戻ります」
俺はスマホを開くとマップを確認する。
うん、この近くだな。これなら歩いて行ける距離だし、少し散歩がてら目的地に向かおう。
俺はカフェに着くまでに、街並みを堪能した。
それにしても、日本と違って静かに歩けるのがすごく良い。もう髪で隠すことまで出来なくなって、外を歩けば人だかりが出来るような状態で、安心して歩けなかった。
しかし、こっちではチラチラ見ている人はいるものの、囲まれることもなく平和だ。
晴翔が平和だと思っていたのは間違いではないが、先程からすれ違うのが男性ばかりだということも大きい。
もし、女性とすれ違っていればすぐにバレてしまうだろう。それほどに、晴翔の知名度は男女で差があった。
約束のカフェに近づくと、なんだか騒がしい。日本でもよく見る光景だが、ドイツでもこんなことがあるのか。
ナンパかな?
俺は特に害がないようなら放っておくことにした。しかし、相手をよく見るとエミリーさんだった。
知り合いなら構わないが、明らかに困っている。助けを求めているが、誰も動こうとしない。そういうところは、日本もここも同じか。
俺は、男性達に近くと手首を掴んで声をかけた。
《おい、その人は俺の連れなんだ。離してくれ》
《晴翔さん!》
俺と目が合うと、先ほどまでの不安そうな表情はさっとなくなり、満面の笑みを見せる。
《あぁ?なんだお前?》
《俺達の邪魔すると、痛い目にあうぜ?》
3人組の男どもに囲まれるが、特に怖くはない。歳も俺と大差なく、若気の至りってやつか。
俺は、握っている腕を思いっきり握り締める。
《痛てててて!!》
《お、おい、どうした!?》
《て、てめぇ!手を離しやがれ!!》
《わかった》
俺は別に争う気はないので、言う通り離してやった。しかし、それがまた気に食わなかったのか、1人が俺に殴りかかってくる。
《遅いな》
俺は拳を片手で受け止める。流石に力の差はわかったようで、最後まで何か叫んではいたが、大人しく退散してくれた。
《晴翔さん!》
エミリーさんは、目に涙を溜めながら俺に抱きついてきた。エミリーさんは、小柄なこともあって、大人と子供並みに身長差があった。
よっぽど怖かったんだな。俺は、落ち着かせるために、背中に片手を回し、頭をぽんぽんとリズムよく撫でる。
最初こそ、ビクッとなったがその後は、抱きつく両手に力が入り、ぎゅっと抱き寄せられる。
《エミリーさん、もう大丈夫だよ》
《ぐす、はい、ありがとうございます》
俺達は、カフェに移動して落ち着くことにした。
《何飲む?》
《私はカフェオレで》
《了解、俺はアイスコーヒーかな》
注文を済ませると、商品を受け取り俺達はテラスに移動した。
《少し、落ち着いた?》
《は、はい。先程は失礼しました》
照れくさそうに、ぺこぺこしているエミリーさん。本当に子供を相手にしているようだ。
《それで、今日はなにかあったの?》
《あっ、えっと、お礼がしたくて!》
《お礼?》
お礼をされるようなこと、なにかあったかな?思い返してみるが、思い当たることはない。
《ふふ、晴翔さんは本当にお人好しさんですね。日本の収録の時助けてくれましたから、そのお礼です。本当にありがとうございました》
《いやいや、あれくらいどうってことないよ。困ったら頼ってくれて構わないよ》
《はい、ありがとうございます》
その後も、俺達は色んな話しをした。
中でも、エミリーさんの趣味であるコスプレの話は盛り上がった。
《それにしても、本当にクオリティー高いよね。自分で全部やってるの?》
《はい、衣装からメイクまで全部自分でやってます。流石に採寸は手伝ってもらいましたけど》
《いやいや、それでもすごいよ》
《えへへ、褒められちゃいましたぁ》
《そういえば、明日の撮影はエミリーさんが俺を指名したって聞いたけど》
《そうです。明日はその、デ、デート、特集でして。晴翔さんと撮りたいと思いまして》
《そっか、ありがとね》
《い、いい、いえ!!こちらこそ、ありがとうございましゅ!》
あっ噛んだ。
《ふえぇ、噛んだてしゅ。うぅ、またぁ》
なんだかドツボにハマっている。可愛いな。
話が盛り上がったせいか、時間を忘れて話し込んでしまった。遅くなってしまったので、1人だと心配なので、エミリーさんのマネージャーを呼んで連れて帰ってもらった。
さて、俺も帰るかな。
ーーーーーーーーーー
俺はいま、恵美さんの部屋に来ているのだが、まさかこんなことになっていようとは思っていなかった。
「もう、おっそいよぉ〜」
「あ、あの、恵美さん?」
「なぁにぃ〜?」
「もしかして、飲んでます?」
「の〜んでなぁいわよぉ。ひっく」
うわぁ、完全に出来上がってるな。どうしようかな。桃華のマネージャーさんの早川さん曰く、恵美さんは酒に弱いうえに、酒癖が悪いとのこと。
飲み会でも、ウザ絡みをするらしく、社内では有名らしい。本人もその度に、「酒は飲まない!」と言いつつ、同じことを繰り返しているらしい。
「晴翔くぅん、私をほったらかして、女の子と遊びに、ひっく、行くなんて、ひどぉいじゃないのぉ」
「め、恵美さん、落ち着いて下さい。明日の仕事の話しをするんでしょ?夕飯も食べましょうよ、ねっ?」
俺はなんとか宥めようとするものの、おさまる気配がない。
「そぉんなに、おねぇさんは、ひっく、魅力がないの、かしらぁ〜?」
「恵美さん、とりあえず落ち着きましょう」
「ちぇ、わたしも彼氏ほしいぃよ〜」
今度は泣きながらベッドにダイブする恵美さん。本当にこれが、あの恵美さんなのだろうか?お酒、恐ろしい。
「あれ?恵美さん?」
いきなり静かになり、心配になった俺はそっと覗き込む。
「ね、寝てる」
打ち合わせも何も出来ていないが、どうしようか。とりあえず、恵美さんが用意してくれたであろう資料が置かれていたので、一部持って帰ることにした。
俺は恵美さんに布団をかけると、静かに部屋を出た。
次の日、恵美さんが凄い勢いで土下座をした時には驚いたが、本人も反省?しているようなので、次がないように気をつけてくれればそれで良しとしよう。
ーーーーーーーーーー
《はーい、では撮影開始します!》
今日はデート特集ということで、若者向けの服装となった。
妖精姫と呼ばれるだけあって、清楚なイメージがぴったりのエミリーさん。
秋の定番アイテム、ロングカーディガンやデニムのジャケットとワンピースがとてもよく似合う。その後も、ニットの七分袖に白のスカートなど、シンプルなものが多く続いたが、どれもエミリーさんにぴったりだった。
エミリーさんに合わせているのか、俺の方もシンプルでニットやポロシャツが中心で、たまにカーディガンなどを羽織ったりした。
《HARUさん、素敵です!やばいです!いい写真撮れそうです!!》
興奮気味にシャッターを切りまくる。なんだか、日本にも居たなこんなカメラマン。
《や、やばい、鼻血が出そう》
鼻にティッシュを詰めたまま、撮影は再開されたが、気になって仕方がない。
しかし、カメラマンさんはどんどん指示を出していく。
《もう少しくっついて下さい!》
《は、はひ!》
《エミリーちゃん、緊張しないでー》
その後も写真を撮り続けるが、エミリーさんの緊張がほぐれず、なかなかOKが出ない。
《ちょっと休憩いいですか?》
《はい、構いませんよ。少し休憩しまーす》
俺はエミリーさんが落ち着けるように、休憩を申し出た。
《エミリーさん、大丈夫?》
《すみません、私・・・》
表情が暗いな。昨日話していた時はあんなに素敵な笑顔だったのに。勿体ない。
《エミリーさんは、笑顔が似合うよ。昨日みたいな笑顔がまた見たいな》
俺は、エミリーさんに笑顔で話しかける。
《晴翔さん。はい、わかりました。私の笑顔で晴翔さんを骨抜きにしてやります!》
どこか吹っ切れたようで、エミリーさんには笑顔が戻っていた。
そして、エミリーさんは気づいていなかったようだが、めっちゃ写真を撮られていた。
そのため、休憩が開けるとそのまま撮影は終わってしまった。
《えっ、な、なんで??》
何もわかっていないのはエミリーさんだけで、雑誌が発売されるまで、エミリーさんが理由を知ることはなかった。
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