第96話 同年代のアスリート
「はい、皆さんよろしくお願い致します。本日は、未来の金メダリスト達にお越し頂いております!」
やけにテンションの高いMCの言葉から収録がスタートした。
「では、今日のアスリートの皆さんのご紹介を致します。まず、先日の高校総体インターハイで高校記録を更新し、日本記録タイの11秒21をマークした東雲彩葉さん!」
MCが、紹介すると同時に彩葉が走っている姿が映像で流れる。この前のインターハイの映像だ。
「よろしくお願いします」
そう言って、笑顔でカメラに向かって両手を振る彩葉。よくテレビで特集されるだけあって、流石にカメラ慣れしている様子。
「それにしても、いつかはやってくれると周りの人達は信じていましたが、まさか日本記録タイを出すとは驚いてしまいました」
「正直私も驚いてます」
「そうですかぁ。しばらく、いい成績が出ていなかったような印象でしたが、何かきっかけがあったのでしょうか?」
「そ、そうですね。正直スランプ気味だったんですけど、ある人に、大切なことを教わったと言いますか」
そう言いながら、こちらをチラチラと見ながらもじもじしている彩葉。なんだ?なんであんなに恥ずかしそうなんだ?
「ほほう、そうでしたか。では、やっとスランプを脱出した感じですかね?」
「そうですね。まだまだ、いい記録が出せそうです」
そう言う彩葉の表情はとても晴れ晴れとした、彼女らしいものだった。きっと、これからもすごい記録を出すことだろう。
「はい、では次のアスリートの紹介です。インターハイで連覇を成し遂げた、優勝校エースで日本代表候補の小林正登くんです」
紹介と同時にインターハイでの、彼のゴール集が映像で紹介された。
それにしても、面白いように入るもんだな。上手い人のプレーを見てると簡単そうに見えるのがすごい。
「どうも」
小林くんは、短い言葉で対応し、ぺこりと軽く頭を下げる。
「日本代表候補として、先日から合宿に合流したみたいですけど、どうでしたか日本代表の方々は?」
「そうっすね。何人かすごい人は居ましたけど、それ以外は大したことないですかね。正直ガッカリしました」
開始早々に噛み付いた小林くん。周りのスタッフ達は慌てる様子もないところを見ると、想定内なのだろう。元々こういう性格なのかな?
「そうですか。小林くんのお眼鏡には敵わなかったようですが、もうすぐ強化試合が何試合か組まれております。小林くんの活躍に注目したいと思います」
流石に慌てることなく、サラッと閉めるあたり、このMCの人もだいぶ慣れてるな。
「では、お次のアスリートの紹介です。つい先日、アイドルグループを脱退し、現在は空手を頑張っている北岡六花さんです」
流石に、六花の試合映像はなかったようでアイドル時代の映像が流れた。
「皆さんよろしくっす!」
そう言って、カメラに向かって笑顔で敬礼する六花。今までの喋り方と全く違うので、戸惑うスタッフ達。
「き、北岡さんって、そんな喋り方でしたっけ??」
「いやー、僕は元々こう言う喋り方だったんすけど、事務所の方針で直してたんすよねぇ。僕としては、こっちの方が落ち着くっす」
にかっと笑う六花。その六花を見て、皆ははを緩ませる。六花は本当にいいキャラしてると言うか、万人受けするタイプの人種だな。
『おい、六花ちゃん僕っ子だったのかよ!?』
『もっと早く知りたかった』
『無理してるようには見えないし、本当にああいう感じなんだな』
スタジオのスタッフさん達は、六花の話で盛り上がっている。俺も、今の六花の方が断然魅力的だと思う。
「えっと、話が逸れてしまいましたが、残念なことに北岡さんの試合映像が入手出来なかったので、後で何か披露して頂こうと思います。それでは、同じく空手から齋藤晴翔くんです」
「よろしくお願いします」
俺の場合には、去年の世界大会の映像が流される。確か、この大会には父さんも出てたんだよなぁ。
「齋藤晴翔くんは、今女性達の間で『国宝級イケメン』として大人気の俳優さんです。空手でも世界大会で優勝するほどの実力者です」
俺は、ぺこりと頭を下げると、一応カメラに向かってニコッと笑顔を向ける。
ガタンッ!
どこかで何か音がしたような気がするが、カメラは回っているので気にしないようにする。
「さてさて、齋藤くんには色々と聞きたいことがある人が多いみたいで、視聴者からの質問もかなりの数が寄せられております。また、後で詳しくお伺いしますね」
全員の紹介が終わると、それぞれの凄技を見せることになった。
まずは、バドミントンから小板橋さんの凄技だ。
よく動画サイトでコップの中にシャトルを入れる動画を見るがそれに似ていることにチャレンジするらしい。
セッティングされたパネルには、すでにシャトルが一つ刺さっている。
「では、今からスマッシュを打って、そこのシャトルに重ねます」
よく見るやつは、軽くしたからサーブを打ってコップに入れるのだが、小板橋さんはスマッシュをシャトルに入れるらしい。いやいや、絶対無理でしょ?
周囲の反応をよそに、着々と準備を進める小板橋さんとコーチ。
「では、準備が出来たようなので、よろしくお願いします!」
「はい」
小板橋さんはコーチに目配せをすると、コーチはシャトルを打ち上げる。
軽くステップを踏みながら、スマッシュの体勢に入る。
バシュッ!
凄まじいスピードで放たれたシャトルは、見事にシャトルに突き刺さった。バドミントンってあんなに速いのか。
初めてこんなに間近でみて、驚きを隠せなかった。
「す、凄いですね。正直、言葉を失いました」
MCの人も、驚いているようだ。
「えへへ、コントロールが私の強みですからね。これも練習の一環ですね」
「いや、本当にすごかったですよ。小板橋さんの凄技でした。ありがとうございました!」
続いて、小林くんの凄技。
コートのハーフラインからの3ポイントシュートを放った。結果は見事に入ったのだが、凄いのはここからで、5球連続で成功させたのだ。
正直まぐれかと疑って申し訳なかった。この凄技にはスタジオもかなり盛り上がった。
「では、最後に空手ですが、まずは北岡さんからお願いします」
「はいっす!」
六花と俺はやることが同じである。6枚の設置された板を次々に割っていくというものだ。
「いくっすよー!」
六花は初めの2枚を軽く蹴りで叩き割ると、助走をつけて残り4枚を空中で叩き割ると。横に一回転しながら4枚を次々に蹴る技だ。
女子でこれが出来るだけでも、六花の実力がずば抜けているのはよくわかる。
「い、いやぁ、みんな凄いですねぇ。おじさんびっくりして、言葉が出ないよ」
「ふふふ、晴翔さんほどではないっすけど、僕だってこれくらいはできるっす」
「さすがだな。俺も頑張るか」
俺は『お疲れ様』の意味を込めて六花の頭をポンポンと軽く撫でる。
「ひゃわぁぁ」
変な声と共に、両手で頭を抑える六花。そのまま小走りで席に戻ってしまった。
「北岡さん、晴翔さんとどういう関係なんでしょうか?うらやましい」
「あいつ、北岡さんに馴れ馴れしくしやがって」
それぞれ小板橋さんは晴翔の、小林くんは六花の大ファンらしい。
「北岡さん、完全に乙女の表情だぞ」
「晴翔くんは天然ですよねぇ」
スタッフ達は晴翔が天然たらしであることを十分理解している。
「さて、では齋藤くんにも同じく6枚の板を叩き割ってもらいます。お願いします」
「はい」
俺は、六花の時とは違い、板の位置を調節する。そして、俺は少し下がると、助走をつけて勢いよく飛ぶ。
バシッ、バシッ、バシッ!!
俺が着々する頃には6枚とも叩き割られていた。一瞬の早業だが、ジャンプした瞬間に2枚をを割り、その後は六花と同じで回転しながら4枚を叩き割る。
一瞬の出来事に、スタジオ内は静まり返っていた。俺はどうすればいいか分からず、ささっと席に戻る。
「さすがっす、晴翔さん!一生着いていくっす、師匠!」
大興奮で俺を持ち上げる六花。悪気はないのだろうが、恥ずかしいからやめてくれ。
「い、いや、すみません。驚きのあまり、仕事を忘れておりました。いやはや、齋藤くんは凄いですね。きっと、世の女性達は大盛り上がりですよ」
MCの人が後ろの席をチラッと見たので、俺もつられてチラッとみる。
小板橋さんと彩葉が目をキラキラ輝かせてこちらを見ている。ま、眩しい。
「さて、東雲さんは陸上なのでここでは難しいので、今回は残念ですが割愛させて頂きます」
『一旦休憩に入りまーす!』
ここで、一度収録をとめ休憩に入る。
俺は、恵美さんのところに行くと、すでに飲み物を持って恵美さんが待ってくれていた。
「お疲れ様、晴翔くん」
「ありがとうございます、恵美さん」
俺は渡された飲み物を飲むと、また恵美さんに手渡した。
「さて、私はお邪魔みたいだから端にいるからね。頑張って!」
ささっと居なくなってしまう恵美さん。どうしたんだろう?再開にはまだ時間があるが。
「はーくん!」
「晴翔さん!」
俺が振り返ると、彩葉と小板橋さんが居た。2人とも睨み合っているが何かあったのだろうか?
「どうしたの2人とも?」
俺の声でハッとこちらを見る2人。
「ハーくん、さっきの凄かったよ!やっぱり、か、かっこいいね」
「ありがとう、彩葉。彩葉も凄いな、日本記録タイとは驚いたよ。あの時より速くなったな」
「えへへ、はーくんのおかげ。また、一緒に走ろうよ」
「大袈裟だな。今度は勝てないかもしれないけど、また一緒に走るか」
「あのー、盛り上がっているところ申し訳ないのですが、私を忘れないでくださいね」
そう言って、小さく手を上げている小板橋さん。何度見ても、綺麗な人だ。
「晴翔さん、すごく格好よかっです!よかったら、連絡先交換しませんか?」
「あっ、ずるいぞ!はーくん、私とも!」
えーっと、今携帯持ってないんだよなぁ。どうしようかな?圧が強い2人にたじたじになっていると、遅れて六花がやってくる。
「まぁまぁ、落ち着いて下さい2人とも。師匠は携帯なんて俗物は持ってないんです。ですよね!ねっ!?」
「お、おう」
なんだかすごく必死な六花に、気圧される形で素直に頷く俺。これは、逆らわない方が身のためだと、俺の本能が言っていた。
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