第51話 目撃情報
「そろそろ大丈夫か、桃華?」
「はい、もう大丈夫です。今日はちょっと攻めたヤツだったので、少し取り乱しました」
てへ、と下を出して頬を掻いている。確かに、なかなか大人な下着だったが、運動するのに何故あれにしたのか。いかん、忘れよう。
「まぁ、何というか、すまん」
「いえ、先輩ならいいんですけど、意図せず見えるのって恥ずかしいというか」
「いや、見る方もちょっと恥ずかしかったよ」
俺達は何故かお互いに謝り、その場は良しとした。そこで、早速桃華の問題点をなおすことにした。
「よし。とりあえず、フォームから直そう」
「フォームですか?」
「そう、隣の人が投げるから見てて」
隣の男性がちょうど投げるところだった。その男性は、特にカーブをかけたりとかはせず、シンプルな投球だったため、桃華の参考にはもってこいだ。
そして、男性が投げ終わると、桃華はこちらに振り返る。
「先輩」
「なんだ?」
なんとなく真剣な表情の桃華。こんなことを言っては失礼だが、こんな表情も出来るんだな。
「さっきの方と私、どこが違うんですか?」
「えっ?」
「だって、さっきの私と同じ感じでしたよね?私もそのつもりで投げてましたから」
もしかして、この子はわかってないのかな?自分の理想と全く違う動きをしていることに。
「桃華、動画撮ってやるから投げてみ」
俺はスマホを準備すると、カメラを起動した。
「あ、脚は上がるなよ。映るから」
「わ、わかってます!」
そう言うと、桃華はボールを顔の高さまで持ち上げると助走へ移る。
ここまではいいんだよなぁ。なかなか様になっている。しかし。
とてっ、とてっ
始まった、謎のステップ。そして、最後は軸足と腕が一緒というある意味で芸術的なフィニッシュ。素晴らしい。
「どうですか!?これなら文句ないでしょ!?」
桃華さんや、二投目もガーターですぜ。
俺は、桃華に動画を見せてやった。すると、桃華が思っていた以上に、酷かったらしく、腹を抱えて笑っている。
「ひひひ、や、やばい!な、なんですか、この動きぃぃぃ」
「そうだろう?なんでこうなるか不思議でしょうがない」
とりあえず、俺の番になったので俺もボールを持ってレーンへ移動する。
「先輩、ファイトー!」
「いいからちゃんと見とけよ?」
「はーい」
俺は、桃華に見せるためゆっくりとした動作で投球フォームに入る。そして、狙いすましたボールはピンに吸い込まれていき、辺りのピンをなぎ倒した。
「先輩、マジでやばいです!ストライクですよ!?なんですかさっきの、格好良すぎです!!」
「あ、あんまり褒めるなよ。照れるだろうが」
こういう直球な褒め言葉にあまり慣れていないせいか、俺は内心ふわふわしていて、全然落ち着かない。
「はわぁぁ、照れてる先輩もいい!!」
桃華はスマホを取り出すと、カシャ、カシャと写真を撮り出す。
「やめんかボケェ」
「痛てっ」
俺は桃華の脳天にチョップを落とす。
「ほれ、第二フレーム行くぞ。とりあえず構えてみ?そうそう、そこまではいいんだよ」
そう、助走に入るまではいいんだ。この後、いつも謎のステップが始まる。そこで、助走は3歩までとした。
左足から踏み出し、2歩目で腕を後ろに振り、3歩目で投げる。そう、これだけでいいんだ。
だが、桃華は一筋縄ではいかず、結局1ゲームを全て投げ終わる頃、やっと矯正することができた。
「ふぅ、ハル先輩!ベストスコア更新です、やりましたよ!」
ぴょんぴょんと飛んで喜んでいる。ベストスコア更新か。
「桃華、ちなみにベストスコアって?」
「38です!今回は52ですよ!!」
「そ、そうか、なるほど。よかったな」
「はいっ!ボーリングめっちゃ楽しいです!」
うん、本人は楽しいみたいだし、それが一番だ。良かった、良かった。
「先輩、今日はありがとうございました!これで!みんなに笑われなくて済みそうです」
「ボーリングはよく行くの?」
「家族でよく行くんですよ。その時に、めっちゃ笑うんですあの人達!」
ぷんぷんと拗ねる桃華。本当にこの子は表情が豊かだな。見ていて飽きない。
「そうだ、先輩に今日のお礼しなきゃ」
「別にいいよ、お礼なんて。一緒に遊べて俺も楽しかったよ」
「先輩。そうだ、ちょっとこの後デザート食べに行きませんか?そこでちょっと話しません?」
「うん、いいよ。時間もまだ早いしね」
俺達は、お会計を済ませると、近くの喫茶店に向かった。そこは、ケーキが美味しくて有名らしく、ちょっと気になっていた。俺達は、ケーキを食べるために行列へ並ぶことにした。
ーーーーーーーーーー
一方その頃。
町田が怒って帰ってしまったため、2人は未だにスポッチに居た。
「ねぇねぇ、さっきのどう思う?」
「うーん、どうなんだろう?制服デートがしたくて誰かに借りたとか?」
「それもあるかぁ。でも、怪しくない?ちょっと調べてみようよ」
「どうやって?」
偶然にも桃華達に遭遇してしまった、2人はどうしてもHARUのことが気になって仕方がない様子。
「とりあえず、2人を追ってみるとか」
「暇だし、少し追いかける?」
2人は興味本意で桃華達の後を追った。
「も、桃華ちゃんって、運動音痴だったんだね」
「だ、だめだよ、笑っちゃ」
2人は町田ガールズの中でも、良識はある方で基本的に人様に迷惑をかけることはしないように心がけている。
そのため、今も必死にこみ上げる笑いを堪えているのだが。
「だぁぁぁぁもうダメだぁ!!」
「ひいぃぃ、ど、どうしてあんな投げ方になるのよぉぉ、くくくっ」
もう、一度笑い出すと止まらなかった。そもそも桃華自身が腹を抱えて笑っているのに、周りが我慢するのは無理な話だ。
「はぁぁぁぁ、一生分笑ったぁ」
「やばいねぇ、ちょー面白い」
そして、気になったことはもう一つ。
「桃華ちゃんの下着すごくない?」
「すごい、あれ勝負下着でしょ。私だって持ってないよあんなの」
2人は一通り笑うと、なんだか頭がスッキリしてきた。
「そうだ、HARU様のこと、学校の掲示板で、みんなに教えてあげればいいんじゃない?」
「いや、流石にヤバいんじゃない?」
「どうして?」
「だって、漫画とかだと、そういうことした人達っていいことないじゃん」
「ぐっ、確かに。じゃあどうするのよ?気になって夏休みに集中出来ないわ」
「そうだ、西城さんに直接聞いてみようよ」
2人は意外にも香織と仲が悪くなく、連絡先も交換済み。
「じゃあ制服のHARU様の写真を載せて、送信っと」
「じゃあ、連絡を待つとしますか」
2人は連絡を待ちながら、桃華の面白いボーリングを堪能したのだった。
ーーーーーーーーーー
「今頃、2人は何してんのかなぁ」
「桃華ちゃんって、行動のわりに恥ずかしがり屋だからねぇ。あんまり進展してなかったりして」
「そんなもんかなぁ」
香織は綾乃とともに宿題に精を出していた。うちの学校では、生徒の成績によって宿題が異なるため、量にもばらつきがある。
2人は晴翔に比べると宿題の量も多いため、こまめにやらないと終わらないのだ。
「ん?香織、携帯鳴ってるぞ」
「えっ、本当だ」
・・・。
「か、香織?そんなに強く握ると携帯壊れるぞ?落ち着け?」
「な、なんで」
「なんで?」
「なんで、制服でデートしてんのおぉぉぉ!!」
バレるに決まってんじゃん!?
『ねぇ、HARU様って齋藤くんなの?』
『これ、齋藤くんだよね?』
2人からのメッセージでは、確実にハルくんのことを疑っている。これは、もう詰んだのでは?
私が2人の返信に困っていると、さらに追い討ちをかける出来事が。
「お、おい、香織」
「なに、綾乃ちゃん?」
「学校の掲示板見た!?」
「えっ、見てないけど?」
今はそれどころじゃないよ、綾乃ちゃん。2人をなんとかしないと。
私は、そんなことを考えながら、念のため掲示板を見る。
『学校でHARU様発見!』
『これうちの学校!?』
『なんでなんで??』
『うちの生徒だったの!?』
みんなのコメントと一緒に、トイレから出てくるハルくんの写真が載せられていた。
学校で髪型整えたのかぁぁぁ。
こうなったら仕方ない。まだ、ハルくんとHARUの関係に気づいた生徒は少ない。鳥居さんと南さんには事実を話して、黙っててもらおう。
私は、2人にお願いする形でハルくんのことを話した。そして、彼女たちは真実を知って、大いに盛り上がったが、黙っててくれることを了承してくれた。
しかし、一度知れ渡ったスクープをもみ消すことは出来るわけもなく、晴翔の知らぬところで女子生徒達によるHARU様探しは始まった。
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