第50話 制服デート

「ハル先輩、本当にすみません」


「いや、別に大丈夫だよ」


俺達は今、学校に来ていた。なぜかと言うと、桃華の補習のためだ。


桃華は、仕事のため一学期のほとんどを欠席していた。元々勉強はできる子なので、テスト結果は問題なかったが、学校の方針で夏休み中に何日か補習が組まれた。


「一学期は結構仕事が入っちゃいましたから」


「そうだね。最近はCMなんかでも見るようになったし、人気者になったな」


「えへへ、褒められちゃった」


補習は2限分しかないので、お昼前には終わった。これから、桃華と出かけることになっているのだが。


「なぁ、やっぱり一回家に戻らないか?」


「なんでですか?」


「だって、俺達は制服だろ?」


「いいじゃないですか制服デート!青春の1ページって感じがします!!」


「そんなもんか?」


「そうなんです!」


桃華に説得される形で、俺は渋々制服のまま出かけることにした。


「あ、ちょっと待ってください先輩!」


「どうしたの?」


「髪の毛セットしちゃいましょう」


「ここ、学校だぞ?」


「大丈夫です!補習で来ているのは私達だけですから」


一応、周りに生徒がいないことを確認しながら、俺はトイレで髪をセットした。


「うん、今日の先輩も格好良いです!」


「そりゃどうも」


俺達は、学校を出ると、駅前に向かいバスを待つことにした。


「もう少しで来そうだな」


「はい、ちょうどよかったです」


それにしても、夏休みに制服って新鮮でな。周りを見ると、みんな私服なので若干浮いている気がする。


『なぁ、あの子桃華ちゃんじゃないか?』


『あっ、本当だ!俺大ファンなんだよなぁ』


『サインくれるかな?』


『てか、あれ彼氏か?』


周りの男性達は、桃華に釘付けだな。やっぱり桃華は人気だな。


『あれ、HARU様だよね!?』


『本当だ!隣は桃華ちゃんじゃない!?』


『2人とも制服がお似合いよねぇ』


『同じ学校なのね。付き合ってるのかしら?』


やっぱり、制服は目立つな。誰も話しかけてくる人はいないが、ひそひそ話されるのも気になって仕方ない。


「私達、カップルに見られてますね」


「まぁ、夏休みに一緒に居れば仕方ないよな」


「先輩の彼女かぁ、いい響き」


桃華は何を考えているのか、くねくねしながら悶えているので、そっとしておくことにした。


しばらくすると、バスが到着し俺達はバスに乗り込んだ。目的地は隣町にあるアミューズメントパークだ。


「スポッチ、スポッチ〜♪」


「桃華はスポッチよく行くのか?」


「いえ、初めてです。先輩は?」


「俺も初めてだなぁ。香織はあんまり運動得意じゃないから」


「むぅ、仕方ないですけど、こういう時は他の女の話はしないもんですよ」


ぶーっと頬を膨らませ抗議する桃華。


「ごめんごめん、今まで出かけること自体がほとんど無かったからさ」


「まぁ、そういうことにしておきましょう」


それにしても、やっぱり夏休みは混んでるな。しかし、これだけ遊ぶものがあると、何からやるか迷うな。


「先輩、とりあえず適当に回りましょう。空いてるところからやりましょう!」


「そうだな」


桃華はすごくテンションが上がっており、こんなに楽しそうなのは初めて見る。


それから、桃華と一緒に色んなスポーツを体験した。アーチェリー、バスケ、テニス、スケートなど本当に多岐に渡る。


桃華は運動神経が悪いと言っていたが、球技はそこまで悪くはなさそうだ。しかし、球技以外は壊滅的だった。


「それにしても、ハル先輩はなんでそんなに運動できるんですか??」


「あぁ、小さい時から父さんに色々やらされててさ、格闘技もそうだけどスポーツは一通りやってきたかな」


「なんでそんなストイックなんですか、先輩のお父さん?」


「んー、なんでかはわからないけど、もしかしたら同じ仕事について欲しかったのかな?」


「お父さんはなんの仕事なさってるんですか?もしかして、俳優ですか?」


「父さんは俳優じゃないよ。スタントマンなんだよ」


「ほへぇ、それで身体を使うのが好きなんですねぇ。でも、ハル先輩はお母さんの方に行ったと。お父さん寂しいんじゃないですか?」


「そんなことないよ。母さんとの出会いは、映画の撮影の時らしくてね。そのうち、一緒に仕事が出来るかもって喜んでたよ」


俺達は、一通り遊んで時間もお昼を回っていたので、一旦お昼を食べることにした。


ここの施設には、フードコートも併設されているので、そこに移動した。


「フードコートと言えば、澪先輩と来てましたよねー」


「そうだね。よく知ってるな」


「あ、えっと、あれです。そう!澪先輩に聞いたんですよ!!」


「あぁ、そうなんだ。ファーストフードが初めてだったみたいでさ、すごい感動してたよ」


「さすがお嬢様ですね」


「さて、俺達もファーストフードでいいか?」


「そうですね」


俺達はハンバーガーのセットを頼むと、商品を受け取って席へと向かった。


「さて、頂きますか」


「いただきまーす」


うん、ファーストフードはどこに行っても安定の味。安心して食べられるな。


「先輩、先輩♪」


「ん、どうした?」


桃華はこちらを見て、パカっと口を開ける。これは、もしかしてあれか?


俺は、桃華の口にポテトを一本運ぶ。すると、パクッと食べて、満面の笑みを見せる。


「ん〜、ポテトうまうまぁ♪」


「そりゃ、よかったよ」


俺達がお昼を満喫していると、そこに面倒くさい奴らがやってきた。


「あぁ!HARU様だ!」


「西城さんの彼氏さんですよね!?」


そう言って、話しかけてきたのは、町田ガールズの南さんと鳥居さんだ。


「先輩、この人達誰ですか?」


桃華は、小声でこちらに話しかける。


「会うのは初めてか、俺のクラスの南さんと鳥居さんだ。2人とも町田って奴の彼女だ」


「彼氏持ちですか。それならよかった」


何かに安心した桃華は、ポテトを再び食べ始めた。


「今日は桃華ちゃんと一緒なんですね。2人は付き合ってるんですか?」


「いや、まだそんな関係じゃ」


「「まだ!?」」


すごく目をキラキラさせてこちらを見ている。しかし、それは桃華もだった。


「まだ、ですか。じゃあ脈アリですかね」


嬉しそうにポテトを食べている桃華。今日はご機嫌じゃないか。


「それにしても、その制服」


「HARU様って、うちの生徒だったんですね」


やば、そういえば今制服だった!


「そういえば、西城さん。いつも齋藤くんのことハルくんって言ってたよね」


「確かに!もしかして」


「い、いや、そのーーー」


返答に待っていると、そこに見覚えのある奴が近づいてくる。


「おい、早く行くぞお前ら」


「あ、慎也。ごめんね。桃華ちゃん達が居たから挨拶してたの」


「なに?桃華だと」


一瞬、嬉しそうな顔をしたが、一緒に男がいることを知ると、すごい目つきで睨んできた。


「てめぇは西城の。クソッ、気分が悪りぃ、帰るぞ」


「あ、待ってよ」


「慎也くーん」


はぁ、よかった。ありがとう、町田。俺は遠ざかる町田に感謝をしながらハンバーガーを食べる。


「なんだかすごい人達でしたね」


「あの子達は、みんなから町田ガールズって呼ばれてるんだ。一年生にもいるみたいだよ」


「あぁ、時々教室に来ますよ。あれのどこがいいんだか」


「それにしても、やっぱり制服は不味かったかもな。もしかしたらバレたかもしれん」


「んー、大丈夫じゃないですか?証拠はないわけですし」


だったらいいのだが。俺は、とりあえずご飯を食べることにした。


お昼を食べ終わった後、俺達はボーリング場へと移動していた。


桃華は何故かボーリングが上手くできないと悩んでいたので、練習に来ていた。


「じゃあ、ボールから選ぶか」


「はーい」


そう言って持ってきたボールは、女の子が使うにはかなり重いボールだった。


「なんでこれにしたんだ?」


「だ、だって、重い方が、バーンッといきそうじゃないですか」


「いやいや、体格に合った重さが一番だよ。はいこれね」


俺は、桃華のボールを軽いものへ変更する。


「うわ、めっちゃ軽い。これなら投げやすいですね」


「よし、やってみるか」


見てて下さね!と張り切って投球に入る桃華。しかし、何故そうなった?と言いたくなる投球ホームでドヤ顔の桃華。てか、ガーターですよ、桃華さん。


桃華はまず助走がおかしかった。とてっ、とてっと独特のステップを踏み始めたと思ったら、右手でボールを投げる際、何故か左脚を大きく後ろにあげた。何故軸足と投げる腕が一緒なんだ?


それよりも、俺が気になったのはそこじゃない。


「桃華、頼むからあんまり脚を振り上げるな」


「え、なんでですか?」


「いや、その、見えてるから」


「何がです?」


こいつ、本当にわかってないのか?俺は周りを見渡すが、気づいた人は居なそうだ。


俺は桃華に近づくと、小声で教える。


「そ、その、下着が」


「ん〜〜!!!」


急に真っ赤になる桃華。変態と小声で呟くと、トテトテと椅子に座る桃華。いや、お前。まだ二投目残ってるから。


その後、桃華が落ち着くまで、しばらく座って待つことにした。とりあえず、投げ方からしっかり教えてあげよう。俺は、内心ドキドキしていたが、バレないように平静を装っていた。

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