第48話 気持ちの整理を

問題のシーンが終わり、本日の撮影が終わったあとのこと。今回の出来事は色々なところで様々な反応が起こった。


それは、監督達の間でも同じだった。特に、真面目な助監督はあたふたしている。


「監督、あれで良かったんですか?」


助監督は、先程の桃華のアドリブをどうするか、監督に判断を仰いだ。


あれは、アドリブというか、完全に台本を無視していた。本当は鳴海が告白するところを、美咲が告白してしまっている。


原作者もいい顔をしないかもしれない。


しかし


「ん?なんか問題あった?」


全然問題視していない監督。気になって脚本家をみるが、そちらも問題無さそうだ。


「元々、原作者からは構成をいじる許可は取ってあったし、さっきの演技にケチはつけられないでしょ?」


監督の言葉に、脚本家も相槌をうつ。


「そうですね。あれ以上のものは撮れないですよ。きっと、観る人の心に刺さります。それだけの想いが詰まってましたよ」


「やっぱりそうだよね。桃華ちゃんもHARUくんも、きっと引っ張りだこになるだろうね」


「まぁ、監督がいいなら、いいんですけどね」


結局、問題のシーンは取り直すこともなく、この日の撮影は終わった。


そして、スタッフ、演者共に帰り支度を終えると、船に乗り込み離島を後にした。


ーーーーーーーーーー


「お、お邪魔しまーす」


「どうぞ、あがって」


私は今、ハル先輩のご自宅へお邪魔しています。なぜこうなったのか、自分でもよくわかっておりません。


まぁ、発端は私のアレが原因なんでしょうが、それでも初めてのハル先輩の家。


くんくん。


なんだかいい匂い。ハル先輩の匂いは落ち着きますねぇ。


「部屋片付けてくるから、リビングで待っててくれる?」


「りょ、了解です!」


私はビシッと先輩に敬礼する。はぁ、なんだか気が重いですね。いつもなら、先輩の家に来れるなんて飛んで喜ぶところなのに。


複雑ですぅ。これから、私はどうなるのでしょう?やっぱり、ふられちゃいますかね。


私が、頭を抱えて悩んでいると、不意にリビングの扉が開く。


ガチャ


あ、もう掃除終わったのかな?私はそう思って、扉の方へ視線を向ける。


「あら?桃華ちゃんいらっしゃい」


「えっ?な、なんで、真奈さんがハル先輩の家に?」


なんでなんで!?


目の前には、私の大先輩にして目標にしている大女優の真奈さんがいる!


でも、ここはハル先輩の家で、えっ?どうなってるの??


私の頭の中はパニックです。もう何がなんだか、ハル先輩早く帰ってきて下さいぃぃ!!


ガチャ


「あれ、母さんおかえり」


「ただいま。もう、桃華ちゃん来てるなら言ってよぉ。鉢合わせしちゃったじゃない」


全くと言って、真奈さんはリビングから出て行った。私は、全く状況が分からず、ただただ固まっていた。


「あの、ハル先輩。今そこに真奈さんがいたんですよ。私夢でも見てるんでしょうか?」


私は試しに頬っぺたをつねってみる。しかし、確かに痛みを感じる。これは夢じゃない。


「いひゃい」


「ごめん、桃華。言うのが遅くなったけど、真奈さんは俺の母さんなんだよ。みんなには言ってないから、秘密にね」


へぇ、ハル先輩のお母様。お母様が、真奈さんで、息子がハル先輩で。って、めっちゃサラブレッドじゃないですかハル先輩!?


やばいです。ハル先輩って色々なところでぶっ壊れハイスペックなんですね。正直、過小評価してました。すみません。


「そ、そうなんですね。私は誰にも言いませんから大丈夫ですよ」


「ありがとう。じゃあ部屋に行こうか」


「は、はい」


ーーーーーーーーーー


遡ること数時間前。


俺は、離島を出るタイミングで、あるグループにメッセージを送っていた。俺と彼女2人で作られたグループである。


澪を入れるか悩んだが、向こうから今はいいと言われたので、今回は入れなかった。


晴翔:2人とも今大丈夫?


香織:どうしたの、ハルくん?


綾乃:なになに?


晴翔:あのさ、桃華のことなんだけど


香織:告白でもされた?


晴翔:な、なんでそれを


綾乃:誰が見てもゾッコンだったからね


やっぱり、周りからは丸分かりだったのか。自分の鈍感さに嫌気がさすな。


香織:私はハルくんに全てお任せするよ。文句なんてないから、ハルくんの好きなようにして


綾乃:そうそう。私達は信じてついてくだけ


2人の答えはもう決まっていたようだ。俺も真剣に向き合わなくちゃダメだな。


晴翔:ありがとう2人とも。また連絡する


俺は、そこでグループのやり取りを中断して、桃華を俺の家に誘った。もちろん、やましいことなどなく、ただただ落ち着ける場所で話すために呼んだだけだ。


「桃華、とりあえず俺の家でいいか?」


「ハル先輩の家!?は、はい、大丈夫です!」


俺達は、恵美さんに送ってもらい、自宅へと向かった。


「晴翔くん、スキャンダルは勘弁よ?」


「分かってますよ、単純に友達と遊ぶだけですから」


恵美さんに釘を刺され、俺達は自宅前で車から降りた。いつもなら、香織の家に寄るところだが、今回は直帰する。


そういえば、俺の部屋片付けてなかったな。勉強道具とか出しっぱなしだ。


「部屋片付けてくるから、リビングで待っててくれる?」


「りょ、了解です!」


俺の言葉に、ビシッと敬礼する桃華。仕草などはいつも通りだが、なんとなく雰囲気は暗い。


俺は、急いで部屋に戻ると、机に広げていた教材などを片付ける。元々、大して物がないので片付けは簡単だ。


俺はさっと片付けると、桃華の待つリビングへと向かった。


ガチャ


桃華だけだと思ったが、そこには母さんも居た。


「あれ、母さんおかえり」


「ただいま。もう、桃華ちゃん来てるなら言ってよぉ。鉢合わせしちゃったじゃない」


あぁ、そうか。桃華は三者面談で合わなかったから知らないのか。やっちゃったな。


「あの、ハル先輩。今そこに真奈さんがいたんですよ。私夢でも見てるんでしょうか?」


どこを見ているのか、焦点の合わない目でこちらを見る桃華。何を思ったか、自分の頬っぺたをつねり始めた。


「いひゃい」


そりゃそうでしょ。


「ごめん、桃華。言うのが遅くなったけど、真奈さんは俺の母さんなんだよ。みんなには言ってないから、秘密にね」


まぁ、桃華は言いふらすような子じゃないから、心配はしてないけど。


「そ、そうなんですね。私は誰にも言いませんから大丈夫ですよ」


「ありがとう。じゃあ部屋に行こうか」


「は、はい」


そういえば、部屋に知り合いを呼ぶのも香織以外は久しぶりだな。


ガチャ



「適当に座ってくれる?」


「て、適当に、ですか?」


あぁ、そういえば座布団とか置いてないんだよなぁ。


「香織とかはいつもベッドに座るし、ベッドに座ってもいいよ」


「べ、べべ、ベッドですか!?い、いえ、床で大丈夫でし」


あ、噛んだ。桃華は何故か凄くテンパっていて、あたふたとしている。


とりあえず、クローゼットから座布団を2枚取り出して、座ることにした。


「桃華、今日のことなんだけどさ」


「あ、あれは、私が勝手にやったことですから!気にしないでください!」


慌てて、俺の話を遮る桃華。気にするなと言う割に、悲しそうな表情をする。


「そんなこと言わないでくれ。真剣に想ってくれているのは十分伝わったから」


俺は、真剣に桃華と向き合うため、しっかりと目を見て話をする。


すると、桃華も腹を決めたのか、誤魔化すことはなくなった。


「ありがとうございます。あれは、紛れもなく私の本心です。ずっと、ずっと好きでした。同じ学校だって知った時は嬉しかったですし、共演出来るなんて夢みたいでした」


俺は、相槌のみで次の言葉を待った。


「でも、近づけば近づくほど、ハル先輩との距離が開くような感覚でした。あんな美人な彼女がいて、仕事は私の方が先輩なのに、逆に助けられて」


「俺も十分助けてもらってるさ」


しかし、桃華は首を横に振る。


「そんなことないですよ。でも、やっぱり諦めきれなくて、どうしても先輩に伝えたかったんです。私の気持ちを」


桃華は、真っ直ぐにこちらを見ている。その目は何か覚悟を決めたような目だった。


「俺は、桃華のことも大切に思ってる。だけど、まだ気持ちの整理がついてないのも確かなんだ」


「・・・はい」


だんだんと、表情は暗いものになっていく。


「だからさ、もっと桃華のことが知りたいんだ」


「えっ?」


「好きなってくれた子のことを、もっとちゃんと知りたい。だから、俺もちゃんと考えて今後接して行きたいんだ」


「じゃ、じゃあ、私、諦めなくてもいいんですか?」


「桃華の好きにしていいさ。今日は時間も遅くなってきたし、一旦仕切り直そう。明日はスケジュール空いてる?」


「明日ですか?えっと、大丈夫です」


「じゃあ、明日ちょっと出かけようよ。お互い知りたいことはいっぱいあるでしょ?」


「はい!もっとハル先輩のこと知りたいです。先輩にも私のこと知ってもらいたいです」


少し、表情が明るくなった桃華を見て、俺は少しホッとした。


その後、桃華は早川さんが迎えに来てくれて、車で送ってくれた。俺は、少し汗を流したくなり道場へと向かうため家を出た。

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