第4話 第一章 魔女狩り

「お母さん、夜のお空が奇麗だよ」

九歳の少女は、家の窓から夜空を見上げる。

「そう。お星様がキラキラしてる?」

部屋で編み物をしていた母親のリンは、愛娘に笑顔を向けた。

この世界は今、第二次世界大戦の真っ最中だ。それでも、この親子は平和に暮らしている。

リンの夫は、長期徴兵で不在。

あの人が帰ってくるまで、この子を守らなきゃ――。

自分達が暮らす極東の島国「ミルン」は、軍事独裁化を推し進めている最中だ。

だからこそ、愛しい娘と過ごす一秒一秒は尊い。

「お母さん、お星様は一個も見えないよ。うぅん、お月様が三つ出てるせいかなぁ?」

 リンは編み物を、膝の上に落とした。彼女はかつて、高位の魔術師だった。故郷のドラガンでは「転移の戦姫」と呼ばれる程に。

 リンは自分が震えているのを悟られまいと、ソッと娘の両肩に手を置く。

 そして、夜空を見上げた。

 巨大な球体が三つ、夜空の闇で輝いている。真ん中の球体は、月だ。

月の左右の球体は徐々に大きくなっていく――ように見える。

 実際はそうではなく、迫っているのだ、この地上へ。

「お母さん、痛いよ?」

 リンは娘を精一杯抱き締めた。自分の薬指で光る指輪にキスした。

「ああ、私の愛しい子。私とあの人の間に生まれてきてくれて、本当にありがとう」

 リンは泣いていた。娘の前で泣くのは、初めてだった。

「お母さん、よしよし」

 少女は自分がしてもらったように、母親の頭を撫でた。

 二つの球体がミルン国の大地に落下し、巨大なキノコ雲が二つ立ち上る。

大地は鳴動し、爆風は容赦なく、ミルンに生きる人々の生を狩った。


 その日、ミルンに最大破壊魔法・隕石召喚メテオが落とされた。

 その日、軍事独裁国家「ミルン」は世界同盟に降伏した。


内憂外患のミルンが降伏したことで、人間、エルフ、ドワーフの三種族で構成された世界同盟は勢いづき、南大陸を支配する国・ブラムスに総攻撃をかける。

数億の魔物を擁するブラムスだったが、「四大賢者」が率いる同盟は互角以上に戦った。

そして魔王は、勇者のみで構成される「最後の六将」によって倒された――そう歴史には綴られている。

しかし、魔王直下の吸血鬼部隊を率いる女王・ローラは、生き残った魔物数千万匹を率いて、直ちに世界へ宣戦布告した。

そして、三十年の時が流れた。

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