第7話 渡月杏子



 ――田中おたるを助けたい。



 私は本気でそう思った。


 田中おたるの家庭環境は酷いものだった。まるで部屋に軟禁でもされているように感じた。愛が感じられないのだ。ベッド以外何もない部屋、机さえも置いていないなんて有り得ない。


 このままでは病院に行くことすら怪しい。病院へ行く為のお金も無いだろうし、あの祖母では信用出来ない。



 どうしてあんな環境になってしまったのか?私の情報網を駆使して調査を開始した。これでも私の家は医者だから、お金だけはあった。



 ――そして、調査結果を見て……私は絶句する事になったのだ。



 ……その結果を読むだけで涙が止まらなかった。酷い……ひど過ぎる。




 全ての元凶は、私の義理の父、渡月渉だったなんて……。





 ――田中おたるに関する家庭環境現況調査報告書。


 この報告書は興信所、戸籍等から調査、および田中おたるの両親の情報は、母親田中美月の元クラスメイトから聴取した内容である。



 田中おたるの母親は田中美月……現在行方不明。田中美月が高校生16歳の時におたるを出産。


 父親の名前は当時同級生で田中美月と付き合っていた渡月渉とげつわたると考えられる。田中美月を孕ませるも認知せずやり逃げ。田中美月とは結婚していない。


 その後、田中美月は育児を放棄、田中美月の母親、田中ふみの家に預けられる。

 高校卒業後の田中美月の消息は不明である。


 因みに状況証拠から田中おたるの父親と考えられる渡月渉は2年前、山田美由紀と結婚。依頼人である渡月杏子の義父となっている。



 私は、その報告書を握りつぶして、ソファーを何度も何度も殴りつけた。


「あのクソ野郎!!あいつが!あいつが!全部!の幸せを奪っていったんだ!」



◇◇



 私の母親、山田美由紀は3年前に離婚させられた。今の義父、渡月渉と母が不倫をしていたからだ。


 そして2年前、母は義父の渡月渉と再婚し、渡月美由紀となった。


 私も山田杏子から渡月杏子に苗字が変わった。


 そこまでは良かったのだ。義父の目的が私だったことが判明したのは一年前の事。


 私の容姿は自慢じゃないけど、学校一の美少女とも言われるくらい綺麗で整った顔をしていた。


 どこかの国のクウォーターと聞いたことがあるけど国名も覚えていない。


 母が再婚して一年経った頃、義父は豹変した。家に帰るなり、あいつは私の服をはぎ取り、引きちぎり、私の事を犯そうとして来たのだ。


 私は必至で逃げた。服は破け、下着まで剝ぎ取られ。必死に抵抗した。義父あいつがズボンを脱いで怒張したものを見せつけられ。もう駄目かと思って諦めかけた時、母からの電話が来て、逃げるチャンスが出来た。


 私は落ちていたコートを拾い。破けた服もそのままに、玄関から飛び出し、必死で逃げた。


 ……その事があってから私は母に相談し、一人暮らしを始めたのだ。


 その時の事が原因で心に傷を負った私は、男性恐怖症になった。

 

 正確には男〇恐怖症になってしまった。


 大きいアレを見るとあの時の事がフィードバックされ、見ることも触る事も出来なくなっていた。


 なんとか直そうと努力して、適当に容姿のいい男と付き合ってみたりしたけどだめだった。


 他の女に付き合っていた男を寝取られたりしたのは、そのせいでもあった。


 絶望感に苛まれていたのもあり、付き合っていた彼への当てつけで、もう死んでやる!と思って学校の屋上に行った時、その男の子に必死に止められた。


 ……田中おたる。彼と出会ったのはそんな時だった。




◇◇




 私は行動を開始した。義父への復讐も考えたけど、今はおたるの事が優先だ。


 母に相談すると、呆れたような顔で、まずは二人のDNA鑑定を行って事実関係を明らかにする事だと言われた。

 

 それでもし、親子である事が確定したら、おたるとの関係を義父に突きつけて……おたるんを認知させ、引き取らせる。


 もし、認知を嫌がるなどという事をしたら、父の病院に拡散して社会的につぶしてやる。


 うまくいけば、おたるんは私のお兄ちゃんとなる。おたるんの祖母は施設にでも預けてもらおう。


 そうすればおたるんは病院に通う事も出来るし、認知させた義父には、おたるんを捨てた責任を取らせてやるんだ。



◇◇



 ……あれから、おたるんは学校に来なくなった。



 今日もおたるんは学校に来なかったので、午後の授業は放棄して、おたるんの家に様子を見に来た。


「お~たるん?渡月っちが遊びに来たよ?」


「あ、渡月さん?うん」

 

「今日はね?おたるんを病院へ連れていくぜ?」


「え?」


 だれかのお見舞いにでもいくのかな?


「一応保険証とかあったら持ってきてくれよ?」


「ん~たしかこの辺にあったかなぁ」


 保険証?お見舞いならいらないよね?


 渡月さんは僕を引っ張って、近くの病院に連れてきてくれた。


 なんとか鑑定団?っと言ってたけど何するんだろう?




「はい、それでは鑑定結果は5日後に郵送で?取りに来る?そうですか」



 何か分からないうちに終わったみたい。



「おわったよ?おたるん一週間後が楽しみだぜ?」


「うん、よかったね?渡月さんが楽しいなら、僕もよかったよ?」









読者様へ


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