次の航海へ

 レリジオ教国の首都はアングリア王国軍によって占拠。ほかの地方都市も北方・南方戦線に参加した各国の軍が占領。そして教皇フィオレンソ1世の戦死により、レリジオ教国は名実ともに滅亡した。


 今後は、レリジオ教国が興る前に存在していたロマナム帝国の皇帝の血筋を持つセレーネを皇帝に『新制ロマナム帝国』を建国し、各国のサポートを受けながら統治していく予定だ。

 もちろん、それを認めようとしない不穏分子の存在に気をつけなければいけない。

 この不穏分子を抑えるため、フィオレンソ1世の亡骸を公開する形で葬儀を行った。教皇の死を徹底的に見せつけることにより、反乱を起こすのに有効な名目を失わせるのだ。


 さらに、アングリア王国国王が指示を出していた『工作』も功を奏している。

 この『工作』とは、ロマナム帝国の再興とセレーネを皇帝とする政治体制を広く民衆に受け入れさせる下地を作るため、レリジオ今日国内の世論を誘導する事だったのだ。

 この世論誘導工作によって、アングリア王国を始め各国の軍が都市を占領した際、敵意を向けられることなくむしろ歓迎ムードだったようだ。


 セレーネは戦争の落としどころとして、そして戦後のことを見据えるために神輿となった。それが彼女にとっていいことなのかはわからない。

 ただ、少なくともあの島で世捨て人のように一生を過ごすよりかはマシなのではないか、と僕は思っている。




 続いては僕達の事だ。

 まずは僕、メアリー、エリオットは無事に商船学校を、キャンプスさんはハンター学校を卒業できた。なお、ジェーン姉様は昨年度に卒業している。

 2年目辺りからほとんど学校に通っていなかったが、船員としての活動が単位として認められる制度であるため、通学しなくても卒業しようと思えばできるのだ。

 ちなみに、ハンター学校も大体似たような制度であるらしい。

 そして、僕達3人は卒業単位が歴代で最も多く取得したという記録を打ち立てた。そのため、優秀な生徒と言うことで校長からお褒めの言葉をいただいたのだ。


 卒業指揮の翌日、僕は王宮の謁見の間に呼び出された。

 そして国王陛下からこう告げられた。


「ウィル・コーマック。授かり物の船『へーゲル号』を所有し、それを国のために役立ててくれた。さらに、此度のレリジオ教国との戦いに関し重要な働きをしてくれた。

 それらを評価し、貴公をアングリア王国子爵に任命する」


「謹んでお受けし、これからも精進して参ります」


 僕は貴族になりました。

 精霊からの授かり物を持っている場合、何らかの形で貴族の地位やそれに準じる地位を国から任命されるので、予定調和的な部分はあるのだが。

 『子爵』は下から2番目の爵位だ。慣例だと授かり物の保有者の場合、一番下の『男爵』から始まり、そこからさらに功績を積み立てることによって昇進していくのがお決まりのコースらしい。

 ただ、僕の場合は爵位を貰う前から色々と活動していたし、今回の戦争で色々と活躍したので、それらの評価も込みで子爵からのスタートとなるようだ。


 ただし、領地は貰っていないので、貴族として屋敷を建てるなり買うなりしたり、他の貴族との関わるための社交費を稼ぐとなると今まで通り海運業や貿易業をやっていく必要があるだろう。

 それは僕も望むところなので、特に異論は無いが。


 そして養子として入っているコーマック伯爵家との関係だが、とりあえず表向きはコーマック伯爵家の分家として扱われるようだ。

 まぁ自分で屋敷を持つのも当分先だし、屋敷の維持を行うためのスタッフを探さなければいけないで大変なので、しばらくは実家暮らしが続く。


 そういえば、授かり物持ちと言えばもう一人いた。


「リディア・キャンプス。授かり物の銃『コメット』を持ち、此度の戦争ではコーマック子爵の船『へーゲル号』に乗り込み、よく戦った。

 それらを評価し、貴公をアングリア王国男爵に任命する」


「……ありがたく、頂戴致します」


 キャンプスさんは男爵位をもらった。

 立場としては僕とほぼ同じであるようだ。

 彼女が一番下の男爵からのスタートであるのは、僕は授かり物を受けてからほぼすぐに活動をスタートしたのに対し、キャンプスさんは実家の領地からほぼ動かずにハンターとしての経験を積む目的で活動していたという違いがある。

 また、授かり物の種類がキャンプスさんの場合よくある武器であるのに対し、僕は世界的に珍しすぎる乗り物である、という違いもかなり大きいようだ。


 ともかく、僕もキャンプスさんも学校の卒業、そして爵位の授与を皮切りに新たな人生をスタートする事になる。




 そしてこれはプライベートなことなのだが。

 実は、最後の戦いが終わって帰国してから、僕とメアリーは男女の仲になった。

 あの戦いは、いつ死んでもおかしくなかった。全身負傷していたし、あのジェーン姉様が負傷した時点で戦いの激しさが推し量れる物だ。

 そんな死地をくぐり抜けた反動か、帰国してから子孫を残そうとする欲求が急速に高まってしまい、メアリーを肉体的に求めてしまったのだ。

 事が終わって冷静になると、メアリーに申し訳なく思ってしまったのだが、当の本人は


「そんなわけないです。昔からお兄様とこういう関係になりたくてあの手この手を使っていて、ようやく結ばれたのですから。むしろ、もっと早くこうして欲しかったんですけど」


と、気にしていない、むしろ嬉しい様子だった。

 最後だけ『行動が遅い』と怒られてしまったが……。


 なお、ジェーン姉様もドラモンド家に遊びに行き、朝帰りする事がちょくちょく起こるようになった。

 どうやらジェーン姉様とエリオットも僕とメアリーのような関係になっているようだ。


 そういうわけで、僕は現在、自分が興したコーマック子爵家の立ち上げ、そして僕とメアリーの結婚式の準備という2つの大きな仕事を抱えることになり、しばらくは陸地での仕事が中心となりそうだった。


 王都のコーマック伯爵邸で仕事をしていると、エリオットがやって来た。


「ウィル、王宮から仕事の依頼が来た」


 頭が痛くなる話だった。

 今でも2つの仕事を同時並行していて手一杯なのに、新しい仕事を押しつけられるとは。


「……で、内容は?」


「西方の調査らしい。探険航海だな」


 実は、アングリア王国の西の海の先に何があるのか、まだわかっていない。

 もしかしたら前世のアメリカ大陸のように未知の大陸が存在しているのかもしれないし、何もなく1周してロマナム帝国の東海岸にたどり着く可能性もある。


「一応、お前の今の仕事が終わるまで待ってくれるそうだ。新しい貴族家の立ち上げと結婚式で大変そうだというのは王宮もわかってくれているからな。それでも、なるべく早くとは言っているが」


「それはありがたい話だな。ま、どんなに長くとも1年以内には終わるだろう」


 とりあえず後回しに出来ることに安堵した。

 ただ、なるべくならまた海に出たいとも思う。


 なんだかんだで前世では出来ないような事が出来ているし、それによって地位と名声も手に入れている。

 海は危険な場所だけど、生命と未知に溢れている魅力的な場所だ。


 だから僕は、次の航海にワクワクしつつ、今の仕事を早く片付けられるよう邁進するのだった。

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異世界航海冒険録 四葦二鳥 @keisuke1011

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