魔物3連戦
マリーの報告に疑問を持ったが、海面を見てその疑問が解けた。
海面を何かが跳ねながら近づいてくる。
「あれは……カトラリー・フライングフィッシュか!」
カトラリー・フライングフィッシュ。トビウオ型の魔物だ。
この魔物の最大の特徴は、滑空用のヒレにある。なんと刃物のように鋭くなっており、滑空しながらすれ違いざまに敵を切るのだ。
さらにこの魔物、群れで行動する。つまり魔物寄せの魔道具の1つは、魔物の群れごと呼び寄せたのだ。
マリーが多数の魔物を検知してしまったのも、群れる魔物がやって来たからだと考えれば説明が付く。
「マリー、機関銃で撃ち落とせ!」
『了解しました』
マリーが機関銃を起動させ、カトラリー・フライングフィッシュを撃ち落とし始める。
しかし相手は大量の群れだ。当然撃ち漏らしもかなりの数発生しており、へーゲル号に当たる個体も多かった。
『損傷軽微』
防御力で言えば、へーゲル号は圧倒的に有利だ。このまま少しずつ敵の個体数を削れば、いつかは全滅できるだろう。
だが、僕達はあと2体も魔物を相手にしなければならず、いつ襲われるかわからない。
正直、あまり時間をかけたくなかった。
「……貸して」
すると、キャンプスさんがある画面の前のコンソールに手を伸ばすと、それを操作し始めた。
それは機関銃を手動でコントロールするコンソールだった。
そしたら何と、マリーが完成するよりも遙かに効率よく、高い命中率で機関銃をカトラリー・フライングフィッシュに撃ったのだ。
その結果、5分かかるかかからないか程度でカトラリー・フライングフィッシュを全滅させたのだ。
実は念のために、メアリー達全員に艦橋の機能を説明したことがあった。
もちろん火器の手動管制もその1つなのだが、まさかここまで成果を出すとは思わなかった。
これが、銃を授けられたキャンプスさんの実力なのかと改めて思ってしまった。
『海底に強大な魔力を感知。大型の魔物と思われます』
マリーの報告があった次の瞬間、船が何かに巻き付かれた。
それは白く、吸盤を多数付けた触腕のような物だった。
そしてそんな身体のパーツを持つ巨大な魔物と言えば、これしかない。
「クラーケン……」
この世界では、海の魔物と言われて最初に想像する人が多いほど有名な魔物だ。
巨大なイカ型の魔物で、特殊能力はないが腕力が異常に強く、船に触腕を巻き付けて海に引きずり込む攻撃を得意としている。
さらにその巨体のために、ほとんどの攻撃がクラーケンにとってかすり傷程度にしかならず、一度攻撃されると逃げるのは相当難しいとされる。
そして今まさに、僕達を船ごと沈めようとしているところだった。
「ウィル、どうする?」
「大丈夫だ、エリオット。この時点で倒し方の道筋は見えている。このまま潜水するぞ、クラーケンの本体を視認する」
へーゲル号の潜水機能を作動させ、そのまま海中に沈む。
するとすぐ目の前に、視界で収まりきれないくらいの巨大なイカが見えた。
「よし、魔力を吸い出せ」
『了解しました』
クラーケンの触腕から魔力を一気に奪い取ると、みるみるうちにクラーケンが衰弱していくのが目に見えてわかった。
「身体強化の才能を持ったレリジオ教国兵の時と同じ事をしたんですね、お兄様!」
「そうだよ、メアリー。クラーケンの弱点はそれだから」
実は、クラーケンはその巨体を維持するため、膨大な魔力が必要とされる。
普段は体内にある魔石から魔力を供給されているが、その供給を上回る魔力を放出させると弱くなるという理論は知られていた。
その理論は机上の空論とされていたが、へーゲル号であれば接触さえしていればいくらでも魔力を吸収できる。
数年前、異常な強さを誇る身体強化の才能を持ったレリジオ兵がいて、そいつと戦闘になった。
その時はわざとへーゲル号に移乗させ、魔力を奪い取って弱らせた上で始末した。
今回もそれと似たようなことをやったわけだ。
「魚雷をありったけ撃ち込め」
そして魚雷を無数にお見舞いし、クラーケンを撃破した。
すぐさま海上に上がると、何かがマストに勢いよくぶつかり、船が大きく揺れた。
『確認しました。バーサク・オルカと思われます』
バーサク・オルカ。シャチ型の魔物だ。
外見は一回り大きいシャチだが、身体能力が比べものにならないほど高い。
さらに普通のシャチよりも非常に凶暴化している、危険な魔物だ。
知能は凶暴性が増した分普通のシャチよりも劣るとされているが、それでも魔物の中では高い知能を有しているので油断は出来ない。
おそらくコイツは、マストに体当たりすることで大きく船を揺らし、転覆させようとしているのだろう。
他の魔物ではまず取らない戦法だ。
「マリー、雷弾をマストの近くに置け」
『了解。雷弾、発射します』
雷弾とは、文字通り雷の魔法を封じ込めた砲弾で、放電する能力がある。
実は、アングリア王国に停泊しているとき、たまにアルフさん達に会うことがある。
主な目的はキャンプスさんの様子を確認することなのだが、へーゲル号の工房を見て砲弾の開発が出来ることを知ると、それに興味津々になった。
そして色々と砲弾を作ってくれたのだが、この雷弾もその1つだ。
開発者は、雷の魔法の才能を持つアンバーさん。
その雷弾を大砲の威力を調整し、マストに砲身を向けて撃つ。
雷弾はマストの近くに着地し、マストを蓄電させる。
その直後、バーサク・オルカが再び猛スピードでへーゲル号に向かって泳ぎ、勢いよくジャンプ。マストへタックルをかまそうとした。
――バシィッ!!
いつの間にか、バーサク・オルカが黒焦げになり、海面に浮いていた。
「な、何が起こったんですか……?」
「……マストから……雷が出ていたような……」
キャンプスさんの言ったことが一番的を射ている。
これは、前世では『セントエルモの火』と呼ばれている現象だ。
尖った物に静電気が溜まると、先端から放電現象が起こる事がある。これが船のマストでも起こる事があるのだ。
今回は雷弾の電気を使って強い電界を発生させ、マストから放電させるように仕向けたのだ。
しかもバーサク・オルカは明確にマストを狙ってきているので、放電がバーサク・オルカに命中する確率は高いと考えたのだ。
『魔物と想われる魔力、感知されません』
「わかった。砦の占領はアングリア王国軍に任せよう。これ以上の戦闘はきつい」
正直、魔物と3連続で戦うのは疲れるし、これ以上戦闘を継続できるほどの集中力もすり切れてしまっている。
まぁ、魔物さえいなければ軍の力だけで砦は確実に占拠できるだろう。
なにせ、砦からは魔物寄せの魔道具が作動しないことに焦り、混乱している声が聞こえているのだから。
実はロマナム帝国時代には高度な魔道具やそれを組み込んだ建物がたくさん会ったらしいのだが、レリジオ教国になる時に混乱等によって技術の大半が消えてしまった。
そのため、使い方はわかるけど仕組みがわからないという状態が多発している。
この砦も同じ状態だったらしく、今までどういう仕組みで魔物を呼び寄せていたのか、レリジオ教国兵の誰一人として知らなかったそうなのだ。
ちなみに、アングリア王国のスパイは運良く砦の奥深くに隠されていた設計図の一部を手に入れて魔物寄せの仕組みを知ったそうだ。
結局の所、自分が守る砦について詳しく知らなかったことがレリジオ教国の敗因ではないか、と僕は思ってしまった。
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