沼地の要塞
5月になると、季節風が西から東の向きに変わったため、レリジオ教国が有利になる時期は終わった。
そしてこの時期に入ると、アングリア王国はジーベックを使って夜陰に紛れてレリジオ教国の海岸に接近、スパイを送り込み、情報収集を開始した。
そのスパイとこの前の海戦で捕まえた捕虜からの尋問で得た情報を総合すると、次のような事がレリジオ教国内で起きているらしい。
まずこの前の海戦だが、北方と南方の航路に建設した要塞群からも戦力を集めていたらしい。
それくらい、中部のアングリア王国へ至る航路上の要塞を1つでも奪還しないと防衛上の脅威になると思ったらしい。
もちろん、要塞の奪還作戦は失敗。戦力を大幅に失わせる結果となった。
そして中部に比べて上手く防衛できていた北方と南方の戦力を割いたせいで、レリジオ教国は全ての要塞を取られてしまったらしい。
これについては北方と南方の要塞を攻略している国々からの報告で裏が取れているので、確実な情報だ。
さらに艦隊の編成についても、ある事実を知った。
あの特攻兵器として僕達を襲った火船だが、乗組員はレリジオ教国で非主流派のチュルラ派の人達だった。
逆に主流派であるアバーテ派の兵士達は後方の船に乗っていたらしい。
しかしそんな派閥関係なくアングリア王国に一網打尽にされ敗北したことで、現在レリジオ教国の政治中枢では混乱が起きているようだ。
チュルラ派からは『同胞が命を犠牲にしたのに大敗北したとは何事か!』と講義し、アバーテ派からは『チュルラ派の連中が怖じ気づいて中途半端に戦ったからだ』と反論する。
このような泥沼の言い争いに発展し両者の溝が急激に深まったため、政治機能が麻痺しつつあるらしい。
そこで、アングリア王国の上層部はこの隙にレリジオ教国に踏み込む決断をしたらしい。
レリジオ教国の首都は大陸の西海岸側にあり、アングリア王国軍が占領している要塞に最も近い。
ただし、首都に近い海岸には3つの要塞があり、それらを落とさなければ首都への進軍は不可能ということがスパイからの報告で判明した。
そのため砦を1つずつ攻略していくのだが、最初に選ばれたのが『沼地の要塞』と呼ばれている要塞だ。
この要塞は沼地と化している海岸のド真ん中に位置しており、船では侵入できない。
かといって徒歩だと足が取られて進軍できないし大砲などの重いが有効な攻城兵器を持ち込めない。
平底の小舟であれば通行出来るしある程度の輸送力もあるが、やはり大砲は小型の物しか乗せられないし、スピードが足りないので要塞から狙い撃ちされてしまうのが関の山だ。
攻める側としては厄介な要塞であることは間違いなかった。
「――というわけで、何か策があれば協力をお願いしたいのだが」
「そうですね……」
実は現在、僕は王宮でクリーバリー軍務大臣から沼地の要塞の攻略関して相談を受けていたのだ。
僕はこの問題に対し、1つの答えを持っている。
ただし、ポイントがべらぼうに高い。
船用の潜水装置ほど高くはないが、この間の海戦で得られたポイントをほぼ全て支払ってしまうような額だ。
その額、10万ポイント。
「なるほど。確かにそれは躊躇してしまうか」
「まあ、即刻ポイントを入手する方法はあるんですけどね」
今まで使ったことがないが、なんとへーゲル号のポイントは1ポイントを100リブラで買うことが出来るのだ。
そう考えると10万ポイントは1000万リブラの値がある。かなり高額だ。
「――なるほど。では、補助金として半額の500万リブラを国から支給しよう」
「いいんですか? 半額といっても高額であることには変わりありませんが……」
「大丈夫だ。ここ数年は景気がいいし、それに比例して税収も上がったからな」
好景気の屋台骨になっているのは造船技術と航海技術の飛躍的な進歩だ。
これによって今までよりも比較的に楽に、かつ安全に航海出来るようになった。
その関係で、主に貿易業を中心に好景気が発生しているのだ。
もちろん、この技術関連は間違いなくへーゲル号由来だが。
「もちろん、1年に何度も補助金を出すとなると限界はあるがな」
「わかりました。では、すぐに準備を開始します」
そして、僕は沼地の要塞攻略に向けて準備を始めた。
とりあえずやってはみるが、おそらく敵も味方も間違いなく驚愕するに違いない。
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