近況と驚愕の真実
その再開は、本当に偶然だった。
海軍からの依頼で資材を要塞に運んでおり、その要塞の中でバッタリ会ったのだ。
「エルマン君じゃないか?」
「……ああ、君か」
僕の方は驚きでかなり表情に出ていたと思うが、エルマン君は出会って当然という顔をしていた。
「君が要塞への物資運搬の依頼を受けたことはつかんでいたからね。君に会いたくて、わざわざ要塞に来る依頼を受けて船を動かしたんだ」
僕に会いたいって――まさか、お礼参りとか!?
最悪の予想をしたが、それは外れた。
「君にお礼が言いたくて。商会の店員から『あるお客様からの伝言』を聞かされてさ。それで目が覚めたんだ」
エルマン君は2人の優秀なお兄さんの事がコンプレックスとなり、ストレスになっていた。
それが原因で僕に対しても色々としてきたが、彼の境遇を聞いて僕なりのアドバイスを店員さん経由で与えておいた。
もちろん、僕の名前は伏せて。
「アドバイスを送ったの、君だろ?」
「……知ってたの?」
「君の姿を見た日に伝言を聞かされたからね。なんとなく察しはしていたさ」
やっぱり、エルマン君の洞察力は非常に優れている。彼もただ者ではない証拠だ。
「だから、君にお礼が言いたかったのさ。大切な事を気付かせてくれて、ありがとう」
「……いい顔してるぜ、お前」
初対面の時とは比べものにならないくらい穏やかな顔をしている。
進むべき道を見つけ、決して周囲と過剰に比べない、確固とした自己を確立した。
別に自慢したいわけじゃないが、アドバイスを送っておいて良かった。
「今回は君に会うために船に乗ってきたんだけど、今後はあまり乗らないだろう。商会の会長室で船の運航計画を練ったり経営をしたりすることが多くなると思う」
最近、エルマン君は商会長職に復職したらしい。
エルマン君の変わりように父君が大層驚かれたらしく、『もう大丈夫だ』と思われたんだそうだ。
「今度店に来たら、きちんともてなすよ。VIPの中でも最高のVIPとしてね」
「ああ。楽しみにしてる」
そう言い合って、僕達はまたそれぞれの仕事に戻っていった。
基本的に、僕は依頼が無ければ王都の屋敷にいることが多い。
一応まだ学生なので、普段は授業を受けるからだ。
屋敷にいるときは、メアリーや母様と話していることが多い。
ジェーン姉様はどこかに行っているが、特に気にしていない。あの姉が危ない目に遭う事なんてまず無いし、むしろ手を出してきた相手の方が危険にさらされる。
なお行き先は、大抵エリオットの所にいるらしい。エリオット本人から聞いている。
メアリーや母様と何を話しているかというと、最近はレリジオ教国との戦いに関する事が多くなった。
「王宮は、春までに要塞を全て落としたいそうね」
母様は独自の情報網を持っているらしく、こういう王宮や軍内部の情報に詳しい。
もちろん僕達に聞かせる内容は選んでいるだろうが、その事情通ぶりには舌を巻いてしまう。
「季節風の関係で、今なら風上を取れるからね。今なら有利な環境で戦争を進められるってところかしら」
「え、そうなんですか?」
「帆船にとって、風上は基本的に有利な位置だからね、メアリー」
風上にいれば、敵を攻撃することも回避することも選べる。つまり戦闘の主導権を握れるのだ。
また、風下にいると風圧の関係で船が傾き船底をさらしやすくなってしまい、結果として沈没するリスクが高くなる。
そのため、前世の帆船時代では何日も撃ち合わずに風上を取り合うレースのような展開になった戦いもあったらしい。
ただ、これはあくまで『基本的』な話であって、場合によっては例外もある。
「母様はすごいですね。帆船の基本戦略にも明るいなんて」
「当然よ。これでもドラモンド家の娘ですもの。あの家で暮らしていれば、多少は海の戦術理論に明るくなれるわ」
……ん? 今なんて言った? 『ドラモンド家の娘』……?
「あら、そういえばこの話は旦那とセシルにしか言ってなかったわね。私の本名は『デリア・ドラモンド・コーマック』。ドラモンド子爵家――フレドリック伯父様の実家の生まれよ」
なんと、母様はフレドリックさんの実家、ドラモンド男爵家(後に昇爵して現在は伯爵家)の出身だそうで、フレドリックさんの姪に当たるらしい。
つまり、(僕は血縁にないが)エリオットとは遠戚に当たるのか。
なお、母様が自分の出身について僕やメアリーに話をしてこなかったのは『話す機会がなかったから』らしい。
しかし、腹芸が死ぬほど得意な母様の事なので、裏の目的があるのではないかとちょっとだけ疑ったが、真実は闇の中だ。
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