レリジオ教国の内部事情

 要塞を無事に制圧し、そこもトップだった人物を捕虜に出来た。

 その人物の取り調べと要塞に残っていた資料から、レリジオ教国の実態が多少判明した。

 どうやら、レリジオ教国では2つの派閥が存在し、日夜権力争いをしているらしい。


 2つの派閥は、それぞれ『アバーテ派』と『チェルラ派』という。アバーテ派が現在の主流で、レリジオ教国のトップである教皇もアバーテ派のようだ。

 これらの派閥の考えに何か違いがあるのかと言えば、実は大差ない。

 そもそも、2つの派閥の名前の由来は教祖の弟子の中で後継者として有力だった2人の名前から取られている。

 しかし後継者を指名する前に教祖が死亡してしまったため、両者の間で権力闘争が勃発。それが教団、ひいては国中を巻き込んでしまったらしい。

 そういった経緯であるため、明確な信条の違いなど存在せず、ただ足を引っ張り合うだけの存在にしかならなかったらしい。


 そして要塞のトップだった人物は非主流派であるチェルラ派に所属している人物であるため、十分な物資や人員を送られなかったらしい。

 きちんと物資と人員が配備されていれば、とっくに要塞が完成していたばかりかさらに堅牢な作りになっていたそうだ。

 ただ、彼は独自に強力な水魔法の才能を持つ人材を確保していたため、水魔法を利用した海流操作を前提にした作りにしていたらしい。


 それともう1つ重要な事がわかった。

 レリジオ教国は、要塞を何個も建築しているらしい。

 レリジオ教国から西の国へ進出するための中継基地として利用することで、航海による兵士の体力の消耗を抑えつつ本来の実力を発揮できるような計画なのだ。

 それと同時に、他国からレリジオ教国への進出を抑える『壁』としての効果も期待できる。


 同じような状況が北方と南方の国からの情報提供で確認されており、レリジオ教国は多方面で作戦を展開する腹積もりらしい。

 この状況から言って、明らかに今までの棄民政策的な侵略とは違う、レリジオ教国の本気度が見て取れた。


 アングリア王国は、逆にこの要塞を奪い取って強化し、レリジオ教国本国への攻撃のための足がかりを作る方針に定めたようだ。

 他の国もほぼ似たような方針らしいが、海軍力は技術的に進歩しているアングリア王国がもっとも力を持っている。

 アングリア王国としては他国への援軍を行い、全方面で要塞を奪ってしまいたいと思っているようだが、レリジオ教国の戦力が詳しくわかっていない以上、戦力を割くのは恐ろしい。また、各国との調整もあり時間がかかる。

 ならば、とにかく要塞を取ってしまい、レリジオ教国にプレッシャーを与えた方がいいと判断したようだ。

 アングリア方面から逆襲されると予想されれば、他の方面から戦力を割いて救援に向かう可能性が高く、その結果他国が相手をする戦力が減ってくれる。

 つまり、間接的に他国を援護している形になる、ということだ。


 さて、そんな状況で僕は何をしているかというと、学園生活をしながら王宮からの依頼をこなしていた。

 ……いや、どちらかというと依頼の方が多く、学園生活はほんの少しか。

 船主クラスの他の子も似たような状況らしく、奪取した砦へ資材や人員を運ぶ依頼を受けては船を出しているらしい。

 その時に基礎クラスや経験者クラスで船員として勉強をしている学生「に声をかけ、雇っているとか。


 僕も輸送関係の依頼を受けてはいるが、ディベロップールへの技術協力が多く、そこと王都を往復している。

 へーゲル号は最新技術の参考になる装備が多いので、新技術をバンバン確立してレリジオ教国との戦争を有利に進めたいらしい。


 また、王宮の考えとしては、へーゲル号をなるべく戦場に出したくないようだ。

 確かにへーゲル号は強力な戦力ではあるが、1隻の船で全体の戦況がガラッと変わるわけではないし、僕が商船学校の学生であることも関係しているらしい。

 商船学校は民間船のための学校であるため、軍学校や海軍を差し置いて戦場で活躍しまくると彼らのメンツを潰してしまうので、なるべく裏方で協力して欲しい、ということだ。


 まぁ僕はそんなに戦闘狂でもないし、裏方であれば父様も安心するだろうから願ったり叶ったりだけど。


 そんな日々を送っているが、ある時予想だにしない再開をしてしまった。


「エルマン君じゃないか?」


「……ああ、君か」

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